9 / 15

1-9

「はぁ…あっ…アベル…んっ」 「もっと、呼んで…」  私の中でアベルの物が卑猥に音を立てて動く。もう両手じゃ数え切れない程行為を行っている気がする。  この行為は本当に気持ちがいい。吸血行為と同じくらいに。この行為をしている瞬間、目の前が白く弾ける瞬間だけ、私は自分が吸血鬼だということを忘れることが出来る。  はじめは、性行為は吸血の代替行為だと思ってアベルの言うまま受け入れていた。そうすれば私は彼の血を吸わなくても住むし、それに彼も気持ちが良さそうだから。  でも、何度目からかは分からないが、私にとってもこの行為は気持ちが良くて幸せな行為に変わっていた。中を突かれる度、幸せな気持ちになる。彼が私の名前を呼ぶ度愛されていると感じる。 「アベル…もうっ…イ…きそっ…う!」 「いいよ…はぁ…はっ…僕も……イくから」  熱い吐息が首筋を撫でる。細い指が私の指に絡まる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が私を絶頂へと追いやっていく。 「っ…!」  声に出来ない悲鳴をあげて私の目の前が白くなった。アベルも切なげな声を出して、それから動きが止まる。そのまま私の体の上に彼の体がぐたりと倒れてきた。彼の荒い息が耳元を擽る。 「はぁ…はぁ…ん……リラ、キスしていい?」 「…ん」  期待して目を閉じてから小さく口を開く。彼はくすくす笑って、私の鼻先に優しい口づけを落とした。ぱっと目を開ける、意地悪に細められた瞳が欲情した顔の私を静かに写していた。    「リラのえっち、激しいキス期待してたの?」 「…だって、いつもはしてくれるから」 「じゃあ、君からしてよ」  はい、と彼は私がいつもやるように、目を閉じて小さく口を開ける。  ああ、こうして改めて見ると本当に彼は完璧に美しい。まつげはふさふさだし、鼻筋は通っているし、唇は私よりきれいな色だ、綺麗な桃色。強いて欠点を上げるのならば、色が白すぎて光の加減によっては顔色が悪く見えることくらいだろう。  きっとその頬に少しだけチークを差して血色がよく見えれば、本当に完璧になってしまう。きっと童話にでてくる白馬の王子様だって彼には敵わないだろう。 「リラ、まだ?」  催促を促すようにちゅっと唇が慣らされる。  私はおずおずと彼の顔に自分の顔を近づけて、そっと唇に自分の唇をくっつけた。そのままいつも自分がしてもらっている事を思い出しながら、唇の中に舌を差し込む。 「んっ…」  舌を口内でゆるゆると動かす。上顎に、内頬に、それから歯をなぞる。私とは違って犬歯は尖っていない。それが不思議で何度もなぞる。ああ、私の歯もこうだったら、今頃違った人生を歩んでいたのだろうか。そう考えると、高揚していた気持ちが少し冷めていくのがわかった。  犬歯から舌先を離して、そのまますっと唇を離そうと身を引く。 「…だぁめ」 「んぅうっ!?」  低い声の後、頭を手で捕まれ、今度は私の口の中に彼の舌が滑り込んだ。突然のことに何の対応もできなくて、弄ばれるままになってしまう。  私がしたのとは程遠い口づけ。私がしたのは、確かめるための詮索行為なら、熱を求める求愛行為。  呼吸すら赦してもらえない激しさに思わず体に力が入る。苦しいと、ばたばた暴れて数秒後、ぱっと体が開放された。  思わず、むせ返って酸素を求める。 「げほっ…アベルそんないきなりしなくても」 「だって途中で辞めちゃうから、僕の舌は君を恋い焦がれていたのに」 「…その」 「そんなにこの犬歯、気になる?」 「はい…羨ましいです」  アベルは少し驚いた顔をして、それからいつもの表情で私を見据える。 「僕は、そっちのほうがいいんだけど」 「…どういう意味ですか?」 「犬歯、牙のほうが羨ましい。いや吸血鬼が羨ましい」 「……どうして、なんにも良いことなんてないですよ」 「そうかな、吸血鬼は体が強いから、僕からしてみれば羨ましいよ。もし僕が虚弱じゃなくて足も悪くなければ、ここに閉じ込められることだってなかった」  表情は変わらなかったけれど、声は少し悲しそうだった。 「吸血鬼は、身体能力は凄まじいんでしょう?それから回復能力も」 「まあ…そうですね」 「本で読んだだけなんだけど、空も飛べるって」 「力のある吸血鬼なら飛べるかと」 「君には悪いとは思うけれど、やっぱり羨ましいかな…空を飛べなくても、普通に歩いて街まで行けるだけで僕は十分なんだけどね」  じゃあ、この力を全てあげます。  そう言いたい。もしかしたら、このまま吸血鬼に血を吸われ続ければ彼は歩けるようになるかもしれない。ただその願いが叶う時は化物として生まれ変わったときだ。  人間の理から外れ、吸血鬼にもなれない本物のなり損ないの化物。身体能力も回復力も吸血鬼とは変わらず永い時を生きることが出来る。ただ、理性がなくなって暴れまわるだけの本物の出来損ない。  私はやはり彼をそんな風にしたくない。どれだけ吸えばそうなってしまうのかはわからない、だから血はやはり吸ってはいけない。 「リラ、泣きそうな顔してる」 「…あ」 「僕のことで泣いてるの?」 「…そうです」 「また泣かせちゃったね。ごめんね」 「いいんです、私が勝手に泣いてるだけだから」  ぎゅうっと抱き寄せられる。冷えた体がまた熱を灯していく。  私と彼はやはり似ている。似ているけれど正反対だ。この体を捨ててしまいたい私と、この体を欲しがるアベル。  ああ、私がただの人間で、アベルが吸血鬼だったなら、きっとお互い幸せだったのではないか。そう思うといたたまれなくなった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!