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 近日はよく車に乗ってい移動している気がする。一族の車以外に乗ったのはこの前が初めてだったのに。そんなことを窓の外に流れていく景色を見ながらぼんやり考えた。  私は今、美しいドレスを着せられて車に乗せられている。彼女曰く、私は今からとある男性の元にプレゼントとして捧げられるらしい。  いい人だから心配しないで頂戴と何度も言われているが、信用できない。最初から私ではなくても奴隷を買ってその人に送るつもりだったのだろう。だから、高い金額を出して競り落とした商品に興味を示さなかったのだ。それなら納得がいく。  彼はかわいそうな人だから、話し相手になってあげて頂戴と言われてはいるがきっとそれも嘘なのだろう。きっと私は今度こそ、酷い目に遭うに違いない。こうやって売られるということは、人体実験とか、変なこととかをされるかもしれない。 「さあ、もうすぐ着くわよ」  少し向こうに彼女の屋敷と同じくらい大きな屋敷が見えた。あそこが私の墓場なのかと思うと気が滅入る。私に力があればこの車を破壊して逃げられるのだろうけれど、やはり血の力が足りない。精々出来て車から転げ落ちて致命傷を追わない程度に自分をかばう事くらいだろう。  車が門をくぐり、ゆっくりと速度を落としていくそれと同時くらいに上から布を被せられた。 「ヒッ!?」 「安心して頂戴、彼にサプライズをしてあげたいだけよ」  布の上から何かで縛られる。ああ、やっぱりここで殺されるんだ。吸血鬼は不死身だけど不死じゃない。何度も痛めつけられれば死に至る。きっとここで拷問されて…嫌な想像で頭が一杯になっていく。 「いい子だからおしゃべりは無しよ」  扉が開く音がして、誰かに抱えられる。きっと助手席に座っていた屈強そうな男だろう。私は恐怖でガタガタと歯を鳴らしながら、外から聞こえてくる会話が聞こえないように耳をふさいでいた。  かつんかつんかつん、階段を登る音がやけに響く。私は何処に連れて行かれるのだろうか。そして最上階についたらしく足音が止まる。 「入るわよ」  ノックもなしに彼女は何処かの部屋を開けた。 「わ!君はいきなりだなあ」 「うふふ、いつものことでしょう?今日は貴方にプレゼントがあるの」 「プレゼント?僕に?」  この声の主が私を殺す人なのだろうか。恐怖と緊張がピークに達し息が止まりそうだ。二人のやり取りはもう耳には入ってこなかった。 「はい、こちらプレゼントになりますわ」  ばさっと布が外されて地面に下ろされる。 「…人?」 「あら、違うわ。吸血鬼よ」  ほら、見せてあげてちょうだいと彼女が言うので仕方なく口を開ける。鋭く尖った犬歯を見て目の前の人間は小さく声を漏らした。  そこで初めて、私は声の主の顔を見た。白雪姫のような白い肌に、美しい金髪に緑がかった瞳。あまりに美しさにはっとしてぽかんと口を開けっ放しにしてしまう。 「…これが吸血鬼」  彼はベッドから立ち上がると私のそばに寄ってきて座り込む私の目の前にしゃがむ。緑の瞳がらんらんと輝いて私の口元を見つめていた。彼が私の歯に触れる。 「………あ!」  触られた瞬間咄嗟に拒絶反応で指を噛んでしまった。鋭い犬歯が彼の人差し指の腹に突き刺さる。どくどくと血が流れ出しているのが匂いでわかる。  ぽたりと、口内に一滴、彼から流れたばかりの温かい血液が滴った。体がしびれたような感覚がした。衝撃的な味。血液パックとは比べ物にならない甘さ、新鮮さ。  もっと舐めたい。衝動的に彼の指から流れている血液をなめとっていた。 「…本当に吸血鬼みたいだね」 「あら、やっぱり異性の方がいいのね。それならよかったわ」  二人の声にびくりと体が跳ねて、とたんに冷や汗が流れてきた。私は今、人から直接血液を… 「ご、ごめんなさいごめんなさい…!痛かったですよね、ごめんなさい」  慌てて口から指を抜いた。まだ血の滴る指先を見ないように下を向いて謝る。何度謝罪したか、両手で数え切れなくなった頃、目の前の人は私の頭をポンポンと叩いた。 「…どうしてそんなに謝るの?」 「だって、私貴方に不快な思いを」 「してないよ」 「でも、いきなり傷つけて傷をから血液を…」 「いきなり口内触られたら噛んじゃうのも仕方ないよ」  だから顔を上げてご覧。  彼の優しげな声におずおずと頭を上げる。とても優しい笑みだった。 「…うふふ、仲良くなってくれて私も嬉しいわ、じゃあ末永くお幸せに」 「ああ、ありがとうアドリーヌ」 「いいのよ、うふふ、私も幸せになれるのだから」  ぎぃ、ばたん。  扉が閉まる音に振り返るとアドリーヌと使用人はもう消えていた。 「…彼女、とても気まぐれでね」 「そう、みたいですね」 「しかしびっくりした。吸血鬼伝説に興味があるって言ったら本当に吸血鬼を連れてくるなんて」  彼は立ち上がって、大きな本棚に向かう。それから一冊の本を持ってきて私に渡した。 「吸血鬼伝説の本」 「…は、はあ」 「あ、ごめん。君は何も知らないのに突然連れてこられたんだよね…ごめんね じゃあ僕のことも何も知らないんだよね」 「…そうですね、何も」  じゃあ改めて自己紹介をしようかと言って彼は自身の名前とこの家について教えてくれた。彼の名前はアベル。このローズブレイド一家の末っ子に当たる三男らしい。ローズブレイド…聞いたことがある気がする。この地域一帯を実質支配している貴族だったはず。  ああ、そうだちゃんと思い出した。エドガー=ローズブレイド。何度か私の住み着いている街にも視察に来ていた、だから覚えていたんだ。  一通り話し終わったらしく、アベルは私にほほえみを向けてきた。 「…じゃあ、君のことを教えてくれるかな」 「リラ=フォーサイス、一応…吸血鬼の末裔です」 「へえ、リラ。いい名前だね可愛い」  可愛い、だなんて初めて言われた。顔が赤くなるのがわかる。ただ、褒められた時どういう反応をしたらいいのかわからない。 「いきなりこんなことになって驚いているよね」 「ええ、まあ…多少は」 「僕も今朝方、吸血鬼のお嬢さんをプレゼントするわとアドリーヌに言われてね。なんの冗談かと思ってた矢先にこうなっちゃって…彼女、気まぐれで唐突なんだ」 「それはなんとなくわかります」 「アドリーヌに僕のことは何か聞いていた?」 「かわいそうな彼の話し相手になって欲しいとは道中に…」 「ふぅん…そっかぁ…ああ、話し相手か」  うーんと彼は悩んだようなポーズを取ると、少しして満面の笑みを浮かべた。 「そうだな、暫くの間僕の話し相手になってくれたらすぐにでも帰してあげる どうせアドリーヌのことだから後先考えず君を何処かから連れてきちゃったんでしょう?」  ……闇のオークションで買われましたなんて言っていいのだろうか。いや、彼女がそういうところに出入りしていると知ったら彼は驚いてしまうだろう。黙っておこう。 「そんなところですね…」 「じゃあ、暫く立ったらちゃんと身内のところに連絡つけて送ってあげる」 「それはありがたいです…」 「ふふ、じゃあこれから暫くよろしくね、リラ」  差し出された手に手を重ねる。  初めて握った人間の手は、私と違って温かかった。
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