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 凄まじい音に目を覚ます。前方左右から大勢が大きな音をたてている。これは拍手の音だろうか。目を開けると視界は真っ暗だった。なにか目隠しのようなものがされているらしい。 「ここ…は」  少し体を動かすとジャラジャラと鎖が音を立てた。目隠しの上に拘束まで…きっと他の吸血鬼ならこの程度、自身の力で外せるだろうが私にそんな力はない。為す術もなくぼんやりと暗闇から音だけを拾う。 「盛大な拍手ありがとうございます!本日の目玉、吸血鬼の娘でございます!」  ワーーという完成と共にまた拍手の音が鳴り響く。ああ、わかった。私は今オークションかなにかにかけられているのだろう。それも、この状況、これは一般オークションではなく闇のオークションに違いない。聞いたことがある。どこかでは人の奴隷や私達のような人形の化物を取引する裏オークションがあると。  まさか自分が商品としてかけられるとは思っていなかったが…ああ、私の人生はここで終わるのだろうか。汚い人間に買われ、飼われ、終わっていくのだろうか。そう考えると絶望が私を支配する。  出来損ないは末路まで出来損ないのままか。自嘲気味に笑う私をよそに、客たちが私に値段をつけ始める。流石吸血鬼と宣言あって値段はどんどんつり上がっていく。 「はい!104番さん」  会場がどよめいた。104番と呼ばれた客は今まで付いた額にゼロを二つ足した額を提示したのだ。そしてすぐに私の所有権はその104番に買われた。  私の聞き間違えでなければ、104番の声は女だった。それもまだ若い。どういうことだと半分パニックになる。そのまま私のオークションは終了し、別の商品が競りにかけられる。私はどこか暗い場所で買い主が来るのを待つしかなかった。  それからどれほど経っただろうか、カツカツとハイヒールを鳴らす音といくつかの革靴の音が近づいてくるのが聞こえた。 「本当に本物吸血鬼なのでしょうね?」 「ええ、間違いございません。ほら」  がっと顎を持ち上げられて、口を開かされる。 「この鋭く生えた犬歯、そして血の匂い、紛れもなく吸血鬼でございます」  男の下品な声にびくびく怯えていると、ふいに目隠しが外された。あまりの眩しさに一瞬顔をしかめる。少しずつ光に慣れてくると目の前に黒服の男と、それから私と底まで年齢の変わらない女性が立っていた。 「あら、随分と可愛らしい顔をしているのね」 「…」 「この吸血鬼、喋れないのかしら?」 「いえ、一般社会にまぎれて生活をしていた者なので言語能力、コミュニケーション能力ともに問題ないはずです」 「……」 「吸血鬼さん?おしゃべりは出来るかしら?私、アドリーヌ=ペルグラン、貴方のご主人様よ。貴方のお名前は?」  アドリーヌと名乗った女は美しく高価そうなドレスを身にまとっていた。貴族のご令嬢といったところだろう。ただ、あまりこういったオークションに参加しているような成金といった雰囲気はあまりない。  ぼんやり彼女を眺めていると、さきほど私の顎を掴んだであろう男が今度は私の髪の毛をぐっと掴んで持ち上げた。 「喋れねえわけじゃねえんだろ?お嬢さんよ」 「…ぁ」  恐怖で目が泳ぐ。何故何も悪いことをしていないのに私はこんな目にあっているのだろうか。怖くて余計に言葉が出ない。 「まあ、お辞めなさい。怖がっているわ」 「…申し訳ございませんペルグラン様」  掴んでいた髪の毛が離されて代わりに、彼女がそっと私の両頬を慈しむように包んだ。 「貴方は私の願いを叶えるための希望の星よ」 「…き、ぼうのほし?」 「ええ、貴方さえいればきっと私の願いは叶う」  うふふと笑う彼女は少女っぽく、それでいてどこかルイを思い出させる笑みだった。 ***  その後私はまた目隠しをされて、拘束されたまま車に乗せられた。何分走ったかなんてわからないが不安と恐怖でいっぱいなまま時折揺れる真っ暗な空間は非常に怖く、次に視界が開けた時、私の目を覆っていた目隠しは涙で使い物にならなくなっていた。  彼女は私に暴力などは振るってこなかった。ただ、よくわからないのが、無関心でもあった。あんなに高額で競り落とし、希望の星だと言ったのに私に部屋を与え、適当な洋服を見繕うと、「思ってよりも似合うわね」とだけ言い残して部屋を出ていきそれっきりだった。  金持ちの考えることはわからない。もしかしすると手に入ったらもう勝ちを感じなくなるタイプの人間なのかもしれない。そういう人は一定数いると聞いたことがある。  食事は三食きっちり与えられ、拘束されることもなく、時たまこの家の使用人が部屋の掃除に来たり、私の近状を聞くだけでなにもない。ただ部屋から出ることは禁止され、一日部屋でなにをするわけでもなくぼーっと過ごすだけ。そんな日々を何日過ごしただろうか… コンコン 「…はい」  またいつもの通り、使用人だろうと部屋の扉を開けると、彼女が立っていた。 「…あ、アドリーヌ…さん」 「まあ、年が近いのだからアドリーヌと読んでくれて構わないわ」 「…えっと、何か御用でしょうか」 「ええ、貴方とお茶でもしようと思って」  にこりと笑って彼女が少し目線を後ろにずらす。そこには使用人がワゴンを持って佇んでいた。断るわけにも行かず扉を開いて彼女を招き入れる。シャンとした足取りで入ってきた彼女を席に案内すると彼女はクスクスと笑った。 「別に使用人にしようっていうわけではないわ、貴方も座ってちょうだい」 「…はい」  席につくと、使用人が紅茶とお菓子をセットし、部屋を出ていった。目の前には高級そうな白に金色の模様の入ったカップと、イチゴのタルトケーキ。 「で、あの…何か御用でしょうか…」 「だから言ってるじゃない。お茶をしようと思っただけよ。ああそれから少しお話も」  彼女は美しい所作でティーポットから自分と私のカップに黄金色のお茶を注ぐ。ああ、私がやるべきだったかなとオロオロしていると、また彼女はクスクスと笑った。 「気の弱い吸血鬼さんね」 「…よく言われます」 「ねえ?本当に貴方は吸血鬼なの?血を摂取していないようだけれど」 「…そうですね、血は頂いてません」 「あら、お気に召さなかった?私結構考えて若くてか弱そうな使用人を寄越したはずよ」  …言われてみれば確かに、この部屋に男の使用人や、年配の使用人が来たことはない。来るのは若くて可愛らしい少女の使用人ばかりだった。 「同性の血は拒絶反応でも出るのかしら?」 「そんなことはないです…」 「じゃあ、やっぱり男の血のほうが好みだから?」 「いえ、好みとかではなく…人から血を摂取するのが…」  人の血を摂取するのは申し訳なくてできない。ましてや直接なんて絶対に無理だと言うことを今までの出来事を端折りながら話す。彼女は何を言うわけでなくウンウンと頭を振っていた。 「まあ、不思議な吸血鬼さんね」 「よく言われます」 「ふふ、貴方なら彼もきっと喜ぶわ」  彼?と私が首を傾げると彼女は先程までの可憐な笑顔ではなく妖艶な笑顔を浮かべた。
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