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「アベル…この格好は恥ずかしい……」  一歩歩く度、足首まである黒いワンピースに白い前掛けがひらひら揺れる。いくらロングスカートだろうとなんだろうと、私が着ればコスプレにしかならない。  全身鏡に映る自分が自分ではないみたいで本当に恥ずかしくなる。 「しょうがないじゃない、僕は一人で出歩けないんだから」  アベルがこつこつと歩いてきて、私の前に立つ。そして上から下までチェックするようにジロジロ見ると、頭に触れた。 「メイドさんは髪を束ねてるから、君も束ねようか」  抗議する暇もなく私はドレッサーの前に座らされた。細い指が器用に髪の毛を束ねて結っていく。茶色いふわふわの髪の毛がきゅっと硬く結ばれてお団子ヘアに変わるまで1分もかからなかった。  普段、顔をあまり見せないために伸ばしている前髪もヘアピンで止められてしまい、鏡には隠された場所が何一つない私の顔が写っていた。  自分の顔はあまり好きじゃない。ルイやロイクや一族の者に似ているから。嫌でも吸血鬼一族だと実感してしまうから。 「綺麗だね。こんな綺麗なら顔隠さなくてもいいのに」 「…綺麗、だとは思いません」 「謙遜しすぎだよ、君は綺麗だよリラ」  アベルのほうがよっぽど綺麗だと思うけれど、言わないでおこう。言ったらきっと照れてしまうから。 「うん、これでどこからどう見ても家のメイドさんだ」 「…でも、私がメイドの恰好をしたからと言ってアベルが自由に出歩けるとは」 「ううん、付き添いさえ居れば僕は自由に出歩いてもいいんだよ。まあ…メイドも執事も基本的に忙しいし、嫌がるから極力頼まないけどね」 「嫌がるんですか?」 「うん」  あっけらかんと言うアベル。嫌がられることに慣れすぎてしまったのだろうか…そう思うとまた心が痛む。  どうしてこんなに優しくて心のきれいな人をアベルの家の人間は嫌うのだろうか。それも全てエドガーの指示?それとも、別の理由があるのだろうか。頭のなかで疑問がぐるぐる廻る。 「リラ?」 「え、あ…ぼーっとしてて…ごめんなさい。どうして嫌がられるのか聞いても…?」 「理由?知らないな…うーん、ああ!」  ぽんっと彼は手を叩いてそれから苦笑する。 「この階段登るの嫌なんじゃない?」 「…え」 「だって、100段は超えてるでしょ?その動きづらい服でこの階段昇るのめんどくさいんじゃない?」 「…そういうもの…でしょうか?」 「そうだと思う」  確かにこの服は重い。足首までのロングスカートではあの階段は登りづらいのもわかる。ただ、それだけの理由で自分の主人の一族を嫌がったりするだろうか。余計にはてなマークが浮かんでしまった。 「さ、そんな話は良いから立ってご覧」 「…はい」 「それから、ご主人様って」 「え…?」 「だって、リラは今ボクのメイドさんでしょう?一回でいいからやってみたかったんだメイドさんプレイ…」 「ぷ…プレイ…?」 「そうそう、さあ…僕の可愛いメイドさん、ご主人様って言ってご覧」  …顔が赤くなっていくのが鏡を見なくてもわかる。だってこんなに心臓がバクバクいってるだから。 「…ご、ご主人様」  消え入るような、蚊の鳴くような声で彼のお望み通りの6文字を口に出す。 「…聞こえない」 「ええっ!」 「ほら、そんな大きな声が出せるなら、ね?」  なんて意地悪な瞳。私が恥ずかしがっているのを楽しんでいる顔だ。 「でも、私…その」  顔を背けようとした瞬間、両頬を冷たい手が覆った。彼の手が冷たい…?何時もは温かいのに。不思議に思って目だけ逸らすと鏡が目に入った。ああ、真っ赤だ。まるでチューリップのように赤い。  私の頬の熱が、彼の手より高いから、冷たく感じるのだ。そう気がついて更に恥ずかしくなってきた。 「…言うまで離さないよ、ふふ」 「……う」 「ほら、メイドさんはご主人様に絶対服従でしょ?ふふふっ」  本気で楽しそうな笑い声をあげるアベル。私は意を決して彼の目を見て口を開いた。 「ご主人様…!」 「ふふ、はい」  これで恥ずかしいプレイから解放される。そう安堵した瞬間私の無防備に開いた唇に彼の唇が噛み付いた。
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