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Chapter.4 触れて、側にいて*Act.5-05

 高遠さんのキスは長かった。  触れるだけで終わるかと思っていたのに、しだいに深さが増してゆく。  幸せを通り越して、頭の中がぼんやりとしてきた。  この感覚は何なのだろう。 「ふ……んん……っ……」  息苦しさを覚え、逃れようとするも、高遠さんがそれを許してくれない。  全身が熱を帯びてくる。  下肢が疼き、何かが変わってしまいそうな言いようのない恐怖を感じた。  気付けば涙が頬を伝った。  何故かは分からないけれど、勝手に出てきた。  そこでようやく、高遠さんの唇が離れた。 「やっぱり、嫌だった?」  そう問う高遠さんの声は切なげだった。  私は涙で頬を濡らしたまま、「違うんです」と頭(かぶり)を振った。 「勝手に涙が出てきて……。でも、全然嫌とかじゃないんです。よく分かんないけど……」 「ほんとに、嫌じゃないの?」 「――本気で嫌だったら、もっと激しく抵抗してます。脛を蹴るとか」  高遠さんの目が見開いた。  そのままポカンとしていたけれど、すぐにクツクツと小さく笑った。 「なるほど。脚は無防備な状態だもんな。けど、蹴るとかなかなか過激だな、君は」 「――一度実践済みですから。高遠さんに初めて逢った時に……」 「初めて逢った時? ああ、あれか……」  とたんに、高遠さんの眉間に皺が寄った。 「あの時は危なかったな。俺があの場にいなかったらどうなっていたか……」 「――私も、そう思います……」  自分から口にしてしまったとはいえ、心の底から嫌なことを想い出してしまった。  でも、あの時のことがなければ、高遠さんとこうしていることはなかった。
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