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Chapter.4 触れて、側にいて*Act.5-03

「大丈夫ですから……」  ようやくの思いで口にする。 「ほんとに風邪とか引いてませんから。だから……」  高遠さんは穴が空くほど私をジッと見つめる。  そして、少しずつ口元を緩めていった。 「もしかして、ふたりきりだから?」  ストレートに問われた。  私は少し返事に躊躇う。  けれど、ここで取り繕っても仕方ないと考えて、ゆっくりと首を縦に動かした。  高遠さんはなおも私に視線を注いでくる。  もう、心臓が持たない。  そう思いながら、さり気なくそれから逃れようと目を逸らした。  高遠さんの手が、額から頬へと下りてくる。  指先で輪郭をなぞり、唇まで滑らせてきた。  怖い。  でも、もっと触ってほしい。  期待と不安、相反する気持ちを抱きながら瞼を強く閉じる。  ところが、どれほど待っても何も起きない。  いったい、どうなっているのか。  私は怪訝に思いながら目を開いた。  先ほどと変わらず、高遠さんは私を見つめたままだ。  笑顔は浮かべているけれど、心なしが少し淋しげに映った。 「高遠さん……?」  名前を呼んでみた。  高遠さんは少し間を置いてから、「ごめん」と謝罪を口にしてきた。  何故、謝られるのだろう。  今度は私が不思議に思う番だった。 「どうしたんですか?」 「――ちょっとね……」 「何がですか?」 「いや……、ちょっとヤバかったから……」 「ヤバい?」  何が言いたいのだろう。  なおも疑問に思いながら首を捻った。  高遠さんは忙しなく視線を泳がせ、再び私に向き直った。 「――危うく、君にキスしそうになった……」  高遠さんから紡がれた台詞が、心を震わせる。  私と高遠さんとの間に引かれた境界線が、少しずつ消えようとしている。
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