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Chapter.3 分かっているつもり*Act.4-07

「何が食べたいですか?」  私がそう訊ねると、高遠さんの表情がとたんに明るくなった。 「ほんとに、作ってくれるの?」 「はい。食べたいものがあれば。でも、出来ないものもありますから……」 「何が得意?」 「友達に評判いいのは筑前煮ですけど……」 「じゃあ筑前煮」  あっさりと即答してきた。 「――筑前煮でいいんですか……?」 「いいよ。筑前煮は嫌いじゃない」  何となく、無理矢理言わせてしまった感じがして後味が悪い。 「いや、他のでもいいんですよ?」  そう促してみるも、高遠さんは筑前煮を譲ろうとしない。 「じゃあ、筑前煮にします」  私が言うと、高遠さんは嬉しそうに頷いた。 「ありがとう。あ、材料費は俺が出すから。いや、一緒に買い物に行った方がいいか?」 「いえ、そこまでは……。家で前日に仕込みますから」 「なら、かかった費用をあとで教えて? ちゃんと払う」 「ですから、別にそこまでは……」 「ダメだよ」  私の言葉を高遠さんは少し怒ったように途中で遮ってきた。 「俺は作ってもらう立場なんだ。それ以前に君は学生だ。年上の社会人の俺が金を払うのは当然のことなんだから、ちゃんと費用を申請すること。分かったね?」  ここまで強く言われてしまうと、「はい」としか答えようがない。 「分かりました。じゃあ、あとでお願いします」  私の言葉に、高遠さんは、「素直で結構」と頷いてきた。 「それじゃあ、いつにするか早速決めようか? 善は急げ、ってね」  やっぱり、酔いが回っているらしい。  さらにテンションが上がっている高遠さんを前に、大丈夫かな、と少し心配になってくる。  でも、変に絡んだりはしてこないからまだだいぶマシではある。  不意に、合コンの時の男子のことが頭に浮かぶ。  心の底から気持ち悪いと思った。  もしもここにいるのがあいつで、今の高遠さん同様、自分の住まいに来るように誘われたとしたら――  急に悪寒に襲われた。  想像するのもおぞましい。  ――高遠さんならば大丈夫なはず、きっと……  高遠さんとあの男子を比べること自体が間違いなのに、比べてしまう自分もどうかしている。  私はあの男子のことを頭から消し去り、高遠さんの声に耳を傾けた。 [Chapter.3-End]
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