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Chapter.3 分かっているつもり*Act.4-04

「可愛い、って言われるのは嫌い?」  ツブ貝を咀嚼し、ビールに口を付けたところで、高遠さんが不意に訊ねてきた。 「嫌い、ってわけじゃないと思いますけど……」  私はコップから口を離して続けた。 「あまり言われ慣れてないので……。そもそも、軽々しく『可愛い』って言われても信用出来ないとゆうか……」 「じゃあ、俺が言ったことも信用出来ない?」  改まって訊いてくる高遠さんは、心なしか淋しげな笑みを浮かべている。  私は急に罪悪感に囚われる。  胸の奥にチクリと小さな痛みを覚え、思わず高遠さんから目を逸らしてしまった。  高遠さんを信用出来ないわけじゃない。  確かに、まだ少し怖い部分もあるにはある。  でも、高遠さんは違う。  何が違うと訊かれても上手く答えられないかもしれないけれど、少なくとも、高遠さんは私をとても大切に想ってくれていることは分かっているつもりだった。 「――高遠さんは、いい加減なことを言う人じゃないって思ってます……」  答えになっているかどうか分からない。  でも、私に言える精いっぱいの言葉だった。 「ありがとう」  高遠さんから感謝の言葉が出てきた。  恐る恐る顔を上げると、眩しそうに私を見つめる高遠さんと目が合った。 「ダメだな、暗くなってしまった。これじゃあせっかくのメシも不味くなる」  そう言うと、高遠さんは、店員さんを掴まえてビールの追加と熱燗を注文した。 「まだ飲めるよね?」  高遠さんの問いに、私は黙って頷く。  日本酒はあまり得意ではないけれど、ビールならばそれなりに飲める。  私は残っているビールを飲み干し、新たに追加されたビールを注いでもらった。  やっぱり、冷えたビールが一番美味しい。  冷たいビールで喉を潤してから、今度はお勧めのブリ大根に手を伸ばした。  見た目通り、大根に味が良く染み込んでいる。  ブリもトロトロで幸せな気分になれた。 「やっぱり、お店のブリ大根は違いますね。ブリの臭みも全く気にならないし、ほんとに美味しい」  そんな感想を述べると、高遠さんは、「料理するの?」と訊ねてきた。 「はい。凄い得意ってわけじゃないですけど、人並みには出来るかと」 「へえ、そいつは凄いな」 「や! だから凄い得意なわけじゃないですって! 食べれなくない程度、ってことですよっ?」  慌てて言うも、高遠さんは完全に謙遜だと思い込んでいるようだ。
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