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15.美歌様の能力を貰ってしまいました。

そうして目線を上げた先、美歌様の瞳をみつめたあたしは、一瞬息をするのを忘れてしまう。 だって、なんて瞳。 彼の――美歌様の瞳は、間近で見ると金色だった。 吸い込まれちゃいそうなくらい綺麗な瞳に見惚れてしまったあたしは、美歌様の唇が近づいてくると、自然と瞼を閉じてしまう。 「え~。そんなこと言っときながら、ミカはただ彼女のフォーストキス欲しいだけじゃん!」 癒羽くんの抗議の声を聞きながら、あたしは美歌様のキスをすんなり受け入れてしまう。 理屈ではおかしいってわかってる。 癒羽くんに対しては抵抗したのに、美歌様のことは受け入れるなんて。 しかもこれは、あたしの大事な大事な、ファーストキスなのに。 それなのに、あたしは美歌様のこと、ほとんどまだ何も知らなくて。 彼が、あたしのことどう思っているかだって、よくわからないのに。 でも、美歌様の金色の瞳の奥には、あたしの心を動かす何かがあって…。 あたしには、今、美歌様とキスすることが、とても自然なことのように感じられたんだ。 「――んっ」 美歌様のあったかい唇が、あたしの唇を覆ってる。 だんだん息苦しくなってきて、酸素を求めて唇をわずかに開いたら、すかさず美歌様の熱い舌が中に侵入してきた。 ぬるり、って口腔内を舐めまわされて、あたしが未知の快感に体を震わせると、美歌様の唇がすっと離れていく。 もう終わり?って、なんだかもの足りない気がしてるあたしはどうかしちゃってる。 ぼんやりと目をあければ、 「これくらいでどうかな?」 って呟きながら、艶めかしく自分の唇なめてる美歌様がいる。 なんだか、体が熱い。 視界がぼやけて、美歌様意外のものがうまく映らない。 いや、視界だけじゃない。 気持ち的にも、この世界に美歌様とあたしの二人きりだけになったような感じがしてくる。 「歌ってごらん、心のままに」 頭の中に、美歌様の声が響く。 視界にとらえる美歌様は、確かに口を動かしてるから、普通に話してるはずなのに。 おかしい。 美歌様の話す言葉は、あたしの内側に響いているみたいだ。 「……っ」 あたしの動揺をわかっているのか、美歌様はあたしの体を抱きしめてくれる。 「抵抗しないで。 君の中にある私の力を、どうか受け入れて欲しい。 それは、君に害をなすものではないから。 安心して、身をゆだねて欲しい」 美歌様の優しい囁き声が、ついにあたしの理性を壊してしまう。 歌いたい。 心の底から、そう思う。 内側から湧いてくるようなメロディを、音を、表現せずにいられない。 「さあ、歌って!」 頭の中で高らかに響いた声を合図に、あたしはラララと歌い出す。 歌詞は頭に浮かばないから、ただ感じたメロディを唇にのせていくだけ。 でもそれだけでも、信じられないくらいの満足感があたしを満たしていく。 歌を紡ぐ声音は、確かにあたしのもの。 けれど、実際に感じる音や感覚は、あたしの知らない未知のものだ。 あたしの声から生まれた音楽が、この部屋の隙間を埋めていく。 それが嬉しい。それが楽しい。 歌を通じて、別々だったものや気持ちや空間が、溶けて一つに混ざり合っていくようなこの感じ。 すごく気持ちいい。 だいぶ音が部屋に満ちたかな、ってとこで、あたしは静かに唇を閉ざす。 目をつぶって、紡いだ音楽の余韻に浸る。 「どうかな?私の能力は」 けれど、そう美歌様から声をかけられて、あたしはハッと我に返った。 ん、あれ?この状況はなんだろね? あたし、美歌様に抱きしめられてるけど、もしかして、この状態のまま熱唱しちゃってた? そもそも、あたしさっき、美歌様とキス、しちゃってたよね。 それも、癒羽くんと文人さんが側にいる状態で。 な、なんてことしちゃったんだろう! 今更ながらに自分の行動を振り返って、大赤面。 かかかぁって、自分の顔が熱くなってくのがわかる。 なのに。 「すごい綺麗な歌声だね、さすがミカの能力。 天界にだって、ここまでの歌姫はいないよ」 「本当に。僕も思わず聞き惚れてしまいました」 癒羽くんと文人さん、なんかキラキラした目であたしのこと見てくるよ。 二人の様子から、あたしの今の熱唱を、手放しで褒めてくれているっていうのはわかるけど…。 あたしとしては複雑。 だって美歌様とキスするあたりからなんか、意識ぼんやりしちゃってたし。 心も体も、あたしのものじゃないみたいだった。 冷静に振り返ってみると、なんだかちょっと、怖い気がする。 って、あたしの不安を悟られちゃったんだろうか。 目の前にある美歌様の顔が、どんどん青ざめていく。 「ご、ごめん。 私の能力は、よくなかったかな?」 ぱっと抱きしめていたあたしの体を離した美歌様は、あたふたと視線をさまよわせている。 珍しいな。美歌様でも、こんなふうに動揺することなんてあるんだ。 いやに冷めた頭でそう考えていたら、すっとあたしの手元に白いハンカチが差しだされる。 「ミカに否はありませんよ。 きっといきなりいろんな刺激が重なって、彼女の脳が情報を処理しきれなかったのだと思います」 あれ?どうして文人さん、こっちのソファの側まで来て膝まずいてるんだろう。 なんで、あたしにハンカチなんて… ぽたり。 手元のハンカチを受け取った瞬間、あたしの膝の上に透明な滴が垂れる。 これって、まさか。 慌てて頬に手をあてると、濡れた感触。 あたし、もしかしなくても泣いちゃってる!? なんで? 別にそんなに悲しいとか怒ってるとかでもないのに。 こんなとこでいきなり泣いたら、変に思われちゃうよ! 急いでハンカチで涙を拭えば、その手を文人さんに上から押さえられてしまう。 「いけません。そんなに強く擦っては、赤くなってしまいます」 そう言うと、文人さんはあたしの手からハンカチを抜き取って、優しく涙を拭ってくれる。 っていやあたし、なに大人しく涙拭いて貰っちゃってるんだ。 小さい子じゃあるまいし、情けなさすぎるよ。 「ごめん、俺、ちょっと調子のりすぎた」 わわっ!癒羽くんも、なんでそんな申し訳なさそうな顔してるの? 違うよ!これは傷ついてるとかじゃないんだよ。 でも、癒羽くんに謝られながら手とか握られちゃったら、とっさに返事ができないよ! 「どうやら私も、間違っていたみたいだね。 私の能力なら絶対に喜んでもらえる――というより、一度どんな能力かわかれば、君に一も二もなく求めて貰えると考えていたのだけれど。 人間の心というものは、そんなに簡単なものではないんだね」 美歌様落ち込んじゃってる! しょんぼり顔が意外にすごいかわいいとか萌えそうになってちゃダメだあたし! というかこの涙なんで止まんないの!? 天使さん達にいらぬ心配かけちゃって心苦しいし、早く止まって欲しいんだけど! ってあたしがあたふたしるうちに、文人さんまで申し訳なさそうに口を開き始めちゃってる! 「僕もあなた達と同罪ですよ。 始めから、何の心構えもなく天使の能力を受け取った人間がどうなるのか、予想はついていました。 でも、僕はあなた達を止めなかった。 僕達天使の魅力を知らずに拒否されたのが悔しくて…彼女だって少しは、ミカの能力を受けて思い知ればいいと考えていましたから」 え!?じゃあ文人さんにとって今あたしが泣いてるのは予想通りってこと!? それはちょっとショックだ。 というか、文人さんって人畜無害そうな顔して、意外に意地悪さんだったり? いやでも、文人さんはだいぶ今自己嫌悪に陥ってるみたいだし。 むしろ、温厚な文人さんに意地悪心を芽生えさせちゃうくらい、あたしが天使さん達に対して失礼なことをしちゃったってことだよね。 そういえばあたし、プロポーズ真っ向から断っちゃったし。 あげく、時間かけてもあなた達には惚れないかもなんて生意気言っちゃったんだった。 改めて考えるとだいぶヒドいなあたし。 だって天使さん達は、あたしに歩み寄ろうとしてくれてたのに。 変な意地とか防衛本能働かせて、頑なに拒否しちゃったし、そりゃ天使さん達だってムッとするよね。 「あ、あの…。私のほうこそ、ごめんなさい。 せっかく皆さんが、あたしのことを考えて下さっていたのに。 それを無下にするようなことばかり言ってしまって」 幸い涙は止まってくれたけど、今度はあたしのさっきの生意気発言の数々がちくちくと良心を責めてくるよ。
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