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10.次の日の放課後。

セラフィム様とのちょっぴり切ないお別れがあった次の日。 西日の射し込む広い部屋のソファに腰かけたあたしは、またしてもうんうん頭を抱えることになっていた。 せめて、説明とか前置きが欲しい。 切実にそう思う。 だって三人のイケメンが、それぞれ目の前でくるんって一回転して、制服姿からいきなり新郎みたいなタキシード姿に変身☆ってなったら、誰でもそう言いたくなると思うんだよ。 そもそもここは教会でもなんでもないのだし。 今さっき聞いた話だと、ここは生徒会役員四人組専用の寮、南星寮の談話室…らしい。 生徒が全員天使!の聖セラフィム学院でカリスマ扱いされてる生徒会役員四人組。 この四人組には、他の男子生徒と違って、いろいろと特別待遇がされており。 専用の寮が用意されてて、その寮の名前が南星寮っていうのは、あたしも噂で聞いてたけど。 まさかまさか、こんな豪勢なお屋敷みたいな寮だとは、思いもしませんでしたよ。 ここが雑木林に囲まれた学院の敷地内じゃなかったら、とてもあたしはこの建物が学生寮だなんて信じられなかったと思う。 今案内されている談話室にしても、とても豪華すぎな部屋で、あたしはくつろぐどころか、ますます緊張してしまう。 やー。なにここ絨毯毛足長くてふかふかー。 わー、ソファに体が沈んじゃう。 なにあの高そーな花瓶。 目の前のこの机はマホガニー製とかっだたりすんですかね、やっぱり。 とかいうあたしの感想はひとまずおいといて。 なんであたしがいきなり四人組専用の寮の談話室にいるかというと。 それはもちろん連れてこられたからである。 この三人、すなわち美歌様、癒羽くん、文人さんに。 この三人は六限目が終わるなりあたしを迎えに1-Aの教室まで押しかけてきた、とかではない。 正直、あたしとしてはそのほうがありがたかったと思う。 だってこの三人、いや、正確には四人は、朝あたしが登校したら同じ教室にいたのだ。 あれ皆さん確か三年生ですよね? 教室間違えてません? 確か三年生の教室は別館ですよね。 本館にあるこの教室に来ちゃうなんてだいぶ寝ぼけてらっしゃるんでしょうか。 そんなはずはないですよね。 なんていうあたしの心の中のツッコミはもちろんスルーなわけで。 窓際後ろから二番目っていうあたしの席はなぜか隣の司くんの席に移動されており。 元のあたしの席に護くんが座り、あたしの右隣の席には美歌様が座り、 前の席には文人さんが座り、真後ろの席には癒羽くんが座っていた。 つまりは四人組があたしの席の周りを完全包囲。 なにこの布陣。 聞いて意味あるのかわからないけど、とりあえずカバンを肩から降ろしながらあたしは聞いてみた。 「皆さん、なんであたしの席を囲って座ってるんですか?」 「それはもちろん、君が昨日正式にシンデレラ・ガールに就任したからだね」 「これからは俺達とずっと一緒に行動するんだよ」 「あなたと常に行動を共にして、僕達は四大天使に必要な学びを得なければならないのです」 「オレは好きにやる」 さすが護くん。早くも窓のほう向いて一抜けのご様子。 う、うらやましい。 あたしも一緒にこの状況から抜け出したい気がしないでもない。 「あの、皆さんは確か三年生ですよね。いいんですか、一年生の教室にいて…」 いくら特別待遇受けている生徒会役員とはいえ、四人とも三年生の授業を受けなくて大丈夫なのか心配になる。 「大丈夫ですよ。そもそも、この学院に通っているのはまだ新米の天使ばかりなんです。  あなたには人間の高校生が習う授業を幻覚でみせていますが、実際にはここの天使達は  天界の学習基準に基づいたまったく別の内容の授業を受けています。  僕達は四大天使候補でかなり古参の天使ですから、この学院で習うことは数千年も昔に習得済です」 文人さんがメガネのテンプル押し上げながら、滑らかに説明してくださる。 「そ、そうなんですか」 どこから驚いていいかわからないくらいなかなか衝撃的な内容だわ。 あたしが一生懸命受けてた授業は幻覚だったということに一番驚いておくべきなのかな。 「つまり私達は、シンデレラ・ガールである君と青春をともにするためだけに、この学院にいるというわけなんだ」 「久々の人間界に慣れるために、二年前からこの学校の寮で生活して、君が入学してくるのを待ってたんだよー」 「そ、そうだったんですか…」 おんなじような返事リピートしかできない。 ダメだ。今日のあたしは寝不足でローテンションだ。 正直朝の新聞配達も時間ギリギリだった。 でもしょうがないと思うんだ。 だって昨日いきなり神様と対面して、あなたの周りは天使だらけです、とか言われちゃったし。 しかもいきなり超イケメン四人組とお知りあいになってしまったし。 こんな状況に放り込まれてもなお、夜はばっちり寝れました☆ なんてず太い神経はあたしにはない。 昨日は家に帰っても散々だった。 あれあなたが通ってるのは全寮制の高校じゃないの? という天の声が聞こえてきそうなのでいちおう説明しておくと、あたしは女子なので寮の部屋は与えられていない。 毎日自分の家から自転車で登校してる。 登校前に新聞屋へ新聞を取りに行き、学院の周囲の家々に新聞を配達して回っているので、 家から出て学校に着くまでには三時間くらいかかる。 ついでに言うと夕刊の配達まではしてないから、授業が終わったらあたしはたいていすぐ家に帰る。 帰ったら、病気で寝ているお母さんのかわりに、家の掃除と洗濯をすませて、夕飯を作る。 でも昨日はいろいろ考えることが多くてぼーっとしてて、洗濯機に洗剤入れ忘れるし、 弟が描いたお父さんの似顔絵、しかも父の日のプレセントにと考えてたやつ、を掃除機で吸っちゃうし、シチュー焦がしちゃうしホントひどかった。 しかもお母さんに 「愛海、どうかしたの?今日なんだか変よ。もうお家のことはいいから、お布団敷いて早く寝なさい」 って心配されてしまった。 うぅぅ。情けない。 だから今日はあたしのツッコミには期待しないで欲しいんだよね。 ついでいうと四人組さんもあんまり大ボケ?みたいなビックリ行動は控えて欲しいんだよね。 「――ということだから、今日の放課後はあけておいてくれるかな?」 え?何がということなのかな!? やばい。回想のさらに回想にふけっていて、美歌様の話ぜんぜん聞いてなかった…。 なのに、 「はい。わかりました」 っていかにも聞いてたふうに笑って返事しちゃうダメなあたし。

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