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第七章 本当の気持ち 11

 そしてその夜――  帰宅すると夕食もお風呂も済ませた美幸は寝室へ籠り、昼間受け取った資料をベッドサイドの木製小型ラウンドテーブルに並べて勉強タイムに入る。ベッドに腰を下ろした美幸は、自分と幸司のふかふか枕を二つ重ねてそれを背もたれ代わりにして座る。リラックスした状態で資料に目を向ける。  どんな些細なものでも重要書類と同じ様に目を通しながら、見落としのないように何度もチェックを入れる。  そもそもセキュリティの世界そのものについて無知な美幸は、まずはそこから勉強の必要がある訳で、会社がこれまでどんな事業をして来たのかその歴史となる資料を眺めていた。 「セキュリティって一言で言ってもいろんなのがあるのね。コンピューター上のものもあれば、建物を監視するものもあるのね。今は個人の家でもセキュリティ対策とっている家庭もあるくらいだもの。いろいろ種類が多くて頭が痛そうだわ」 「そう一気に詰め込もうとしてもダメだよ」  資料に夢中になっていると、いきなり横から幸司の声が聞こえる。ハッと振り返るとそこには既にお風呂上がりの幸司がいる。 「いつの間に帰って来たの?」 「ちょっと前だよ。少し作業があったからそれを終えてからね」 「お疲れさま」  タオルを首から下げていた幸司は、そのタオルで額から流れる汗を拭きとり美幸の座るベッドへと腰を下ろす。 「どうだ? 覚えることが多いだろう?」 「そうね……」  会社で資料を受け取った時は、自宅で読み返せば割と楽に事業内容を覚えられると思っていた美幸だが、いざ、落ち着いて資料に目を通し始めると意味不明な単語が多すぎてサッパリ分からない事ばかりだ。 「私って本当に何も知らなくて……」  晴海に意地悪されてあんなセリフを言われたのかと思っていた美幸だったが。  『やれるものならやってみなさいよ』との、まるで嫌がらせの様な晴海のこの言葉に今は少し納得がいく。会社では常に晴海の異質な瞳に翻弄され続けた美幸だ。何とか気丈に振る舞っていたつもりが、本当は晴海以上に自分の方が相手の存在を意識していたのだと思えた。 「彼女、ずっと幸司さんを支えてたのね」 「仕事を一緒にやってきた。ただそれだけのことだ」  幸司は美幸の気持ちを考慮してあくまでも仕事仲間の様に言う。しかし、美幸には今日一日晴海と一緒に仕事をしていて、どんなに晴海の想いが強いのかを思い知った気がする。  一日中、晴海から蔑まれるような瞳で睨まれ続けたのだ。美幸の心が折れそうになるのも当然なのかも知れない。

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