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第七章 本当の気持ち 10

 それからも、晴海から引き継ぐ仕事の説明を受ける美幸だが、何かある度に冷たい言葉が晴海の口から出る。刺々しい言葉ではあるが、これも先輩社員からの洗礼だと思う事にした美幸は、相手が幸司の元恋人の晴海とは意識しないようにしていた。  けれど、晴海が美幸を見る度に目を細め眉間にシワを寄せると、どうしてもその表情から同じ男性を愛してしまったのだとその気持ちが美幸の心を痛めつける。 「今日はここまでよ。この資料とデモ用のプログラムについては明日詳しく説明するわ」 「え? でも、まだ時間が」 「引き継いだとしてもこのプロジェクトに私は関わっているの。新入社員のあなたにそのままそっくり全部任せる訳ないでしょ」  資料を束ねた晴海はそれをファイルへ仕舞い込みデスクの引き出しへと入れる。  美幸は複製した資料は持っているが、肝心なデモ用のプログラムの説明がまだされていない。それにもう直ぐ行われるプレゼンテーションのデータも美幸はまだ見せて貰っていない。 「せめてプレゼン用のを見せてもらえませんか?」 「あなたには必要ないでしょ?」 「でも……」  核心部分には触れようとしない晴海。どうしても美幸にはそれ以上説明する気が無いように感じる。だから美幸はまだ定時までには時間があるからと、何とか晴海に説明を聞こうとするが。 「今から説明しても中途半端になるだけよ。それより、これまで説明した部分をしっかり覚えなさい。明日までに覚えられない様だったら、あなたにこの企画を引き継がせることなんて出来ないわ」  冷たいようだが晴海の言い分にも一理ある。今日一日かなりたくさんの説明を聞いたし、受け取った資料も随分ある。ましてや、得意先の名前も担当者の名前も美幸には分からない。  覚えることは山のようにある。それは、追い追い覚えれば良いのだが、得意先に関する調査書だけは見落としの無いように頭に叩き入れる必要がある。 「分かりました。明日までに頑張って覚えます」 「やれるものならやってみなさいよ」  相変わらずの憎まれ口を叩く晴海だが、二人のその様子を幸司は黙って見ていた。そんな幸司の瞳は少しだけ微笑んでいるようにも見える。 「本当に嫌味な人ね。大石さんは新人なのにあれじゃイジメだわ」  美幸が晴海からの嫌がらせを受けていると言わんばかりの相田のセリフに吉富は頭を横に振る。 「そうかな?」 「あれは絶対に嫌がらせだわ」  相田はかなりヒステリックな目で晴海を見ていたが、吉富にはそうは写らなかったようだ。

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