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第七章 本当の気持ち 5

「それで私に勝ったつもりでいるの?」  晴海のその言葉に美幸は息を飲む。何も勝った負けたで仕事をするのではないのにと。そう心の中で思いながらも、幸司の下で仕事ができる事に悦びを感じているのは確かだ。  多少なりとも幸司が選んでくれたのではと、期待をしないわけではない。でも、それはあくまでも仕事上のことであり、プライベートとは全く違うと美幸には分かっているつもりだ。 「これは仕事です」 「だから何? 私はこれまで何年も幸司を支え続けてきたのよ。何もしてこなかったあなたに何が分かると言うの?」  晴海の怒りが営業部一課に響き渡る。その怒りに美幸は拳を握りしめると俯いて何も言えなくなる。  二人の異様な様子に誰もが視線を奪われていた。あまりにも目立ち過ぎる晴海の怒りと、必死に仕事の引継ぎを頼み込む美幸の姿に。 「よさないか。……ちょっと来てくれ」  二人の間に入って行ったのは幸司だ。そして、これまでなら晴海を書庫へと連れ出していたのだが、言葉をかけた幸司は美幸の肩をポンと叩きそのまま押して営業部一課から連れ出す。  てっきり自分が呼ばれたと思っていた晴海は置いてけぼりを喰らいカーッとなって顔面を紅潮させる。  営業部から出て行く二人の後ろ姿を見せられて、あの時のラブホテルで仲睦まじく抱き合っている二人の姿と重なる。悔しさでいっぱいになる晴海は居ても立っても居られなくなり、営業部から飛び出して行く。 「あいつ、どこへ行くんだ?」 「どうしたの? 吉富さん」 「あ、いや……。ちょっと、トイレ」  相田と打ち合わせをしていた吉富だが、晴海の様子がいつもと違う事に慌てて営業部から出て行く。幸司と美幸の次に晴海と吉富が次々に出て行くと、流石に他の社員らも溜息が止まらなくなりそうだ。 「ねえ、香川さん。あの辺の人らって一体どうなってるんですか?」  出て行った四人の方を見ながら、呆れた様な物言いをして戸田が香川の方へとやって来る。 「なんだ?」  佐々木と仕事の打ち合わせを始めようとしている香川は、眉間にシワを寄せ戸田の言葉を鬱陶しそうに聞く。 「白々しいなぁ。香川さんだって知ってるでしょ? 課長と日下さんの関係くらい」 「さあ、私は知らないな」  香川は人のプライベートに興味がない様な素振りをする。まるで仕事の邪魔だと言われている様な鋭い視線にタジタジとなる戸田は自分のデスクへと戻って行く。  一人残されてしまった相田もまた、自分のデスクへと戻りパソコンの電源を入れ仕事に取り掛かる。

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