130 / 160

第七章 本当の気持ち 1

 週明け――  榊セキュリティ株式会社の営業部一課のいつもの月曜日の朝。  いつもなら仲の良い戸田が出勤すればくだらない会話を仕掛ける吉富なのに、この日は無言のままデスクに向かっている。まるで香川の様に真剣に仕事に取り組んでいる様にも見える。  そして、それは吉富だけでなく幸司も同じく黙々と仕事に打ちこんでいる。月曜日の朝は朝礼がある筈なのに、定時を5分過ぎた時間なのにまだ集合の合図がない。晴海もパソコンの画面と睨みあい無言のまま仕事をしている。  勤務時間が始まっているのだから、特に問題視するようなことではないが、それでも異様な雰囲気に思えてならない香川が部署内を見渡す。  同じ様に戸田や他の社員らも何かが妙だと感じ取っている。  美幸も自分のデスクから室内の様子を窺い見ながら、今朝朝食を取った時のことを思い出していた。 『――美幸、今日営業部で配置先について説明する』 『え? あ、はい』  テーブルを挟んで向かい合って座る幸司は、食事をしながらそう言葉をかけるが、美幸の瞳を見ることなく下を向いたまま食事をし続けていた。美幸は話しかけられた幸司の顔を見るも、肝心な幸司の顔は見えずさらっとした髪の毛だけが美幸の瞳に入る。 『どんな配置先になっても文句言わずにやってくれ』 『分かりました』  頷いた美幸は持っていたフォークを食器に置くと、椅子から立ち上がりダイニングルームから出て行こうとする。以前の関係の様な冷ややかな食事に美幸は居た堪れなくなって。 『食事はもういいのか?』 『先に会社へ行きます』  幸司がどんな配置に決めたのか気になる美幸だが、幸司が決めた配置ならそれに従うのは新入社員として当然のことであり、組織の一員として当たり前のこと。美幸は異存などある筈もない。  しかし、昨日の今日で正しい判断が幸司に出来るのだろうかと不安は隠せない。  今朝の幸司とのやり取りを思い出していた時、営業部では幸司から一課に集合の言葉がかかる。 「皆、朝礼を始める。集まってくれ」  幸司の言葉にハッとした美幸は顔を上げて幸司の方を見る。すると、他の社員も仕事をしていた手を止めて幸司のデスクの方へと顔を向ける。  しかし、晴海は黙々と仕事を続け幸司の顔を見ようともしない。まるで幸司の言葉が聞こえなかった様に振る舞う。

ともだちとシェアしよう!