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第六章 それぞれの週末 14

 幸司の車のトランクにあったものは大きな衣装ケースだ。真っ白い光沢のある衣装ケースにパステルピンクのリボンが施された可愛いケース。完全に贈りもののケースだ。そのケースに何が入っているのか、知らない方が良さそうに思いながらも、好奇心が勝るとそのケースの中身を知らずにはおれなかった。 「空っぽ?」  美幸がケースを開けると、そのケースの中身は空っぽだった。何故空のケースをこんな場所に隠す様に居れて置いたのだろうかと少し考えてみた。そこでハッと思いだしたのが例の美幸の体にフィットしなかった洋服だ。  吉富に誘われて飲みに行った翌日、二日酔いの美幸にプレゼントされたあのワンピースを思いだした。あのワンピースが入っていたケースではないのかと。  衣装ケースには可愛いリボンがついた進物用のケースだ。これまでプレゼントらしい物を送ったことのない妻の為に用意したとは思えない。 (やっぱりあれは彼女へのプレゼントだったんだわ。だから私にはサイズが合わなかったのよ)  美幸は真実を解き明かした気分だった。プレゼントされた筈のワンピースのサイズが合わなかった理由が判明した。何故、晴海へ送ろうとしたプレゼントを妻に送ったのか。それは謎ではあるが、美幸にはそんなのはどうでも良かった。  そして、幸司の本心が分かってしまうともうこの屋敷には居られない。だからと、実家へ帰るとも幸司には言えない。  どうすれば良いのか、息が詰まりそうになるとトランクを閉めて車から離れる。  悲しみに包まれた美幸は寝室へと戻るとベッドの中へ潜り込んでしまった。  それからベッドの中で意識を失うかの様に眠った。  昨夜は幸司に甘い言葉を囁かれ続け、体中に幸司からの愛を受けた。眠ることを許されず美幸にとっては至福の時となった。そんな至福の時間を再現するような夢を見た美幸は、こんな時なのに心地よく眠っていた。  さっきまで幸司と晴海の関係に悩んでいたのが嘘の様に、夢の中では幸司と幸せに浸りながら愛し合っている、そんな楽園を彷徨う夢を見ていた。 「ん……」  愛しい人の逞しい腕に抱きしめられている夢を見ていた美幸だが、ふとそれが夢心地にしてはかなり現実的な感触に目を覚ます。瞼を開くとすぐ目の前には幸司の寝顔がある。とても均整の整った素敵な寝顔が美幸の目の前にあった。 「幸司さん」  小さな声で呟くと、「うん」と寝ぼけた様な返事を返す幸司が美幸をギュっと抱きしめる。そして「美幸」と寝言を言う幸司を見て胸が熱くなる。 「私、幸司さんを好きでいていいの?」  幸司の幸せを考えればこの屋敷を出なければと思いながらも、今の幸司の姿を見ると『大事にする』と言われた言葉を信じたくなる。  美幸の心は葛藤の渦に引きこまれ、どうすれば幸司が幸せになれるのかと胸が締め付けられる。

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