4 / 7

4.20歳を過ぎました

 この世界に召喚されてから3年が過ぎ、私は20歳になっていた。王が亡くなったのはその頃のことだった。  宮廷魔導師の仕事は思っていたよりもたいへんだった。  魔法というのは日夜新しいものが生まれる。有用なものについては生み出した方法などイメージを正しくまとめる必要があった。そういった魔法の研究や、王族外出の際や行事などの警備、魔法使いの召喚、王侯貴族のわがままに振り回されたりとお茶の時間もまともにとれないほどだった。 (これがいわゆるブラック企業ってやつかしら)  どの世界でも多忙な仕事があるということを学んだ。  城に仕えている者たちは既婚者以外城内、もしくは城の近くにある寮に住むことになっている。魔導師長はいつ呼び出されてもいいように城内に部屋があった。私は最初寮に住んでいたが、宮廷魔導師になったことで城内に部屋を用意された。とはいっても魔導師長の側ではなく、反対側の棟だと聞き内心落胆したのだった。  城内に住むことによって少なからず弊害はあった。  残業が増えたのはまだいい。そんな時は魔導師長が一緒にいてくれたから。  魔法で灯りを点したランタンはろうそくの灯りよりは明るい。けれど元いた世界にあった電灯ほど明るくはないから、残業の時はすぐ近くで顔をつき合わせて書類の確認などをしていた。そんな時きまって、長めの前髪の奥にある瞳が見られて私は内心ラッキーと思っていた。  城内に住んでいる限り手料理などを振舞う機会はない。城内に住む官吏には専用の食堂があり、寮よりも豪勢な食事が用意されている。どうせ元の世界でろくに家事の手伝いもしていなかった私にとってとても助かる話だった。ただ仕事が多忙でどうしても食事の時間がずれることが多々あったので、朝食のバイキングで余分にパンをもらい自分でサンドイッチを作っていたら魔導師長の目を引いたこともあった。 「理都、それは何をしているんだい?」 「途中でおなかがすいた時用に軽食があるといいと思いまして……」  どうもこの国ではパンにジャムやバター、ハムなどを乗せて食べる習慣はあるがパンに挟んで食べることはしていなかったらしい。 (なんでパンがあるのにサンドイッチがないわけ?)  ゆで玉子をナイフで切り、レタス、マヨネーズをかけてパンに挟んだらそれだけで感動された。 「これは片手でも食べられるし、なによりもおいしい! 異世界の食事というのはなんと画期的なのだ。これで書類仕事をしながらでも食事ができるぞ!」  何故か文官たちに感謝され微妙な気持ちになった。さすがに食事する時間はとりましょうよ。  ただこのサンドイッチのおかげで小腹がすいた時や夜食に困らなくなったのでそれはよかった。でもできれば残業は減らした方がいいと思う。 「貴女、宮廷魔導師なんですって? この私に魔法薬を献上する栄誉を与えてあげるわ」 「魔法薬、ですか。どのような薬がご入用でしょう?」  時折いろいろ勘違いした貴族令嬢に声をかけられることもある。 「そんなもの、惚れ薬に決まっているじゃないの」 「たいへん失礼ですが魅了の薬というものは存在しないんです」 「なんですって!? そんなわけないわ、貴女隠してるんでしょう!?」  おそらく町でエセ魔導師に妖しい薬をつかまされたことがあるのだろう。残念ながら魅了の薬というのは作れない。そんなものがあったら私がとっくに魔導師長に使っている。  脅しかけられたりひっぱたかれたりすることもあり、惚れ薬などを売っている者たちはみんな捕まってほしいとしみじみ思う。 「部下が何か失礼でも?」 「あ、いえ……ほほほ。私の勘違いでしたわ、失礼します」  ただそんな時めったに研究室から出てこないはずの魔導師長が通りかかって助けてくれたので、それほど悪いことではなかった。 「惚れ薬か……王より通達されているはずなのだが。……痛かったろう?」 「大丈夫です。こんなの唾つけておけば治りますよ!」  かまってもらえたのが嬉しくて叩かれた頬の痛みも感じなかった。 「唾か」 「はい! って……」  魔導師長が頭を下げたかと思うと、ぺろり、と私の頬を舐めた。 「これで治るだろうか」 「……え」  何をされたのかわからなくて呆然としていたら、またぺろり、と舐められる。 「……は、はははははいっ! 治りましたもう治りました!」 「……よかった」  叩かれたことで赤くなった頬は、全身をカッと覆った熱でさらに赤くなったに違いない。時折こういうことをされるから望みがあるのではないかと思うのだ。  私の想いはそうやって日に日に募っていった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!