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第9話

   * * *  呼吸すら忘れるほどの激しいキスに、真理子は目を白黒させた。  どうして私、こんなところでキスをされているの? 「んんっ、んっ、んぅ、う……」  抗議の声はくぐもったうなりにしかならなかった。琉偉の舌に口腔を蹂躙されて、しゃべるどころか息を吸うことすらままならない。 「ふっ、んぅ……、うっ、うう」  たくましい腕にしっかりと包まれて、身をよじることもできない真理子は腕を動く限りに振り回して、琉偉の腰を強く叩いた。けれどそれは抵抗とは呼べないくらい弱々しいもので、自分を抱きしめる腕もキスも、すこしもゆるまない。 「んぅうっ、ふ……っ、ん、ぅうっ」  息苦しさに、真理子の目じりに涙が浮かんだ。それでも琉偉の唇は真理子を解放しない。背中に触れている手が動き、スカートの中をまさぐられて、真理子はガクガクと恐怖と官能に怯え震えた。 「んっ、ぅう、うっ」  琉偉の手は迷うことなく真理子のショーツを引き下ろし、下生えをまさぐって恥丘を擦る。上あごを舌先でくすぐられ、自然と浮いた真理子の舌は琉偉に吸われて甘く噛まれた。ジワリとにじんだ快感が、喉を滑り落ちる。 「ふっ、ぅ……、は、ぁ……、んぅっ、うう」  首を振って唇から逃れようとしても、琉偉はしっかりとついてくる。唇をすっぽりと覆うキスは性急すぎてついていけない。――はずなのに、真理子の体は熱を帯び、女の谷がうっすらと濡れていく。 「ふぁ、あっ……」  つぷ、と指が濡れはじめた女の花園に沈んだ。クルクルとかき混ぜられて、悪寒に似た快楽が真理子の膝を震わせる。 「は、ぁあ……、あっ、ああ」  琉偉の唇が首筋に下りて、真理子の喉から嬌声が漏れた。 「ふぁ、あっ、んぅ、うっ」  腰のファスナーが下ろされ、肩紐が落ちる。現れたブラジャーもあっけなく取り払われて、ツンと尖った乳頭に琉偉がぱくついた。舌先ではじかれながら甘えるように吸いつかれ、小刻みな快楽の声が真理子の唇からこぼれ出る。 「っ、イヤ……、あっ、ああ」  こんなところで肌を乱されるなんてイヤだ。  真理子は首を振って琉偉の肩を掴んだ。 「そんなに甘く切ない声で鳴いておきながら、イヤもなにもないだろう? ここはこんなに、俺のキスによろこんでいる」 「ひっ、ぁあ……」  コリコリと乳首を軽く歯でこすられて、真理子は高い悲鳴を上げた。指摘されるまでもなく、そこが痺れるほど硬くなっていると真理子は自覚していた。 「それに、君のココはもうこんなに濡れて、俺を欲しがっている」 「ああ、イヤ……、イヤ」  琉偉の指に女の花を開かれて、真理子は首を振った。羞恥の涙が目じりを伝う。 「素直じゃない唇だな」 「んっ、ふ……、ぅう」  とがめる言葉でキスをされ、真理子は琉偉の肩にしがみついた。乱された肌が熱くて、脚に力が入らない。そうしなければ、くずおれてしまいそうだった。 「恥じらいなんて捨ててしまえ……、真理子。ここには誰も来ないから」  そんなことを言われても、信じられなかった。ここはどう見ても通路で、いつ扉を開けて従業員が入ってくるかわからない。あるいは、奥から表へ出るために、誰かが通るのではないか。そんな危うい場所でキスをされ、ドレスを半ば脱がされているのだから、恥ずかしくならないわけがない。 「ど、うして……、こんなっ、あ、あ」  胸の先がうずいて、刺激を求めて震えている。琉偉の指を飲み込んでいる箇所はたっぷりと濡れて、琉偉が指を動かすごとに、クチュクチュと粘着性のある濡れた音が立った。 「どうして……、の先は? 真理子」  いたずらっぽく輝く青い瞳に見上げられ、真理子は下唇を噛んだ。  どうして、の先は、こんなに乱れているのだろう、だ。自分の体が自分のものではないような気がしている。琉偉の唇や指に、ほんのわずか愛撫をされただけなのに、薄い皮膚の下に甘美な熱が生まれて肌身を焦がし、胎内を潤ませている。  琉偉の目が愉快そうに細められ、真理子はドキリとした。 「こんなに濡れて……。いやらしい体をしているんだな、真理子は」 「ち、違う」 「なにが違う? この音が聞こえないのか」 「っは、ぁあっ、は、はぅう」  指で大きくかき回されて、真理子の脚はガクガクと震えた。もう立っていられない。 「――おっと」  力の抜けた真理子の腰を、琉偉の力強い腕が受け止める。 「立っていられないほど、感じているのか」  そうだ、とは言えなかった。 「俺も、限界だ」  耳元に熱い息を吹きかけられたかと思うと、硬くたくましいものが下肢に押し当てられた。 「真理子が欲しくてたまらない」  私も、とは思っても口には出せない。本能は琉偉を欲しがっているのに、理性が拒否をしていた。  こんな、いつ誰が来るかもしれない場所で、体を繋げるなんてとんでもない。 「真理子」  求める声は熱っぽく艶やかで、真理子は許可も拒否もできなかった。  私――。  迷っている間に、琉偉の熱は濡れそぼった真理子の内側を押し開いた。指でやわらかくほぐされた箇所は琉偉を歓迎し、歓喜に震えて奥へ奥へと彼を招く。 「……は、ぁ、あ」  首をそらした真理子は天井に向けて断続的に声を放った。ズブズブと琉偉が胎内に沈んでいく。隘路を広げ、ゆるりゆるりと繋がる淫靡な幸福に、真理子の胸は甘く切なくおののいた。 「ああ、真理子」  うっとりとしたささやきが唇に触れる。真理子は自然とキスに応えて、片脚を琉偉の腰に絡めた。琉偉がグイッと身を寄せて、真理子の背中を壁に押しつける。 「あっ、ああ……、はっ、はぁあぅ」  互いの下生えが重なる。これ以上ないくらい深く密着した体から、官能に満ちた匂いが立ち上った。真理子の隘路は琉偉の熱杭にしがみつき、ヒクついている。あわあわとした蠢動に刺激され、息を乱した琉偉に唇をついばまれた。 「ああ、真理子」  ここまできて、やめてほしいなんて言えやしない。真理子の奥は琉偉を欲しがっていた。それがわかっているらしく、琉偉はニヤリと頬を持ち上げ、ゆるやかに腰を揺らめかせた。 「あっ、あ……、はっ、はんっ、は、ぁうう」  えぐるように腰を回しながら上下する琉偉に、真理子は翻弄された。そんなふうに快楽を引きずり出された経験はない。体の内側に包んでいる琉偉の熱は恐ろしいくらいに硬いのに、奔放に暴れまわらず真理子の隘路が淫靡な蠢動をするよう促してくる。  じわりじわりと濃艶な熱にあぶられ、こげついた真理子の理性はここがどこであるのかを忘れた。 「あっ、は、ぁあ……、あんっ、あっ、はんっ、は、はぁあ、あっ、あ」  もっと激しく突いてほしいと、無意識に腰を揺らせば琉偉が勇躍した。 「んはっ、あっ、あああ……、あっ、ああ、あんっ、ぅうう」  肌と肌がぶつかる音と濡れ音が絡まり、真理子の嬌声と琉偉の荒々しい呼気が通路に響く。ワンワンとこだまする音と声に意識を侵され、真理子はますます乱れ求めた。 「ああっ、あ……、琉偉、ああっ、あ」 「真理子、ああ……、真理子」  琉偉の動きが激しさを増し、真理子は振り落とされまいと必死に彼にしがみついた。 「んあっ、あっ、ああ、琉偉、ああ、琉偉……、もう、ああ、ちょうだい、ねえ、琉偉」 「んっ、俺も……、真理子がほしい……、真理子」  空虚を覚えた胎内が、埋められるのは琉偉だけだと言っている。それに従い声を放った真理子の望みに、琉偉の情熱が重なった。ふたりはすべてを忘れて体をぶつけ、高みを目指した。 「あっ、ああっ、あ、あ、ああ、あ……、っ、あぁああ――っ!」  先に昇りつめたのは真理子だった。キュウッと締まった蜜道に締めつけられた琉偉がうめいて、灼熱のしぶきを胎内に注ぐ。声にならない悲鳴を上げて、真理子は細かく全身を震わせながら、恍惚の余韻を味わった。 「は、あ……、あ、あ…………」  うるんだ視界に琉偉の輪郭がぼやけて映る。苦しげに眉をひそめてほほえんだ琉偉の唇が、真理子の目じりに触れた。 「真理子……、ああ」  熱にうかされた琉偉のかすれ声に、真理子はうっすら笑みを浮かべた。体も心も満ち足りて、ふんわりとやわらかな心地がする。忘我の幸福に漂う真理子は、無意識に琉偉の唇に甘えていた。 「んっ、ふ……」  琉偉がそれに、やさしく応える。  ふたりはゆっくりと床に腰を下ろした。繋がったままの箇所が擦れて、真理子がビクリと背すじを伸ばすと、琉偉は慎重に自分を引き抜いた。すっかり彼が抜け切ると物足りなさが心をよぎり、真理子はさみしくなった。それが瞳に浮かんだらしく、琉偉がなぐさめのキスをまぶたにくれる。 「……真理子」  ささやきに真理子はうなずき、琉偉の広く大きな肩に頭を乗せた。ポンポンと軽くリズミカルに、琉偉が背中を叩いてくれる。あやされてホッとした真理子は、くつろいでいる自分をすこしも不思議に思わずに、琉偉にすべてを預けていた。  そうして快楽の余韻がすっかり引いてしまうまで、真理子は琉偉に自然と甘え続けた。    * * *  静かな呼吸に、真理子は眠ってしまったのかと琉偉は思った。それでもいい。まだしばらくは、この通路は誰も通らない。そろそろ、というときに彼女を起こせばいいだろう。  それにしても――。  琉偉は自分の行動に驚いていた。まさかこんなに大胆に彼女をさらって、性急にその身を己のものとしてしまうとは。  あの男は誰だったのか。  琉偉の脳裏に、真理子とテーブルをおなじくしていた男の姿が浮かび上がる。年のころは真理子よりも上に思えた。身なりも身ごなしも悪くなく、堂々とした態度は自然だった。この船、あるいはこの船と同等のクルージングに慣れているふうに見えた男は、真理子のなんなのか。想像通り、彼女の秘密の恋人だったら、俺の登場をどう捉えただろう。  ふ、と耳の下でちいさなうめきが聞こえ、むずがるように真理子が身じろいだ。彼女はモゾモゾと衣服を整えている。琉偉の肩に顔を乗せたままでいるのは、表情を隠したいからだろう。  恥じらう所作に、琉偉は口の端に笑みを浮かべた。 「真理子」  低くささやくと、真理子はビクリと震えて動きを止めた。 「服を整えたいのなら、ちゃんと起き上がったほうが楽じゃないのか」  返事はない。真理子はじっと動かない。こちらの出方を待っているのかと、琉偉は少々惜しみつつ、真理子の肩を掴んで自分から離した。 「真理子」  うつむいている彼女の顔は、髪に隠れて見えない。ふうっと息を吐いて立ち上がった琉偉は身なりを整えた。 「後ろを向いておく。そうすれば、いいだろう」  やはり返事はなかったが、真理子の動く気配と衣擦れの音がした。しばらくして、真理子が「もういいです」とつぶやき、琉偉は振り向いた。真理子はうつむき、琉偉から目を離したままで言う。 「それじゃあ……、私、戻ります」 「どうして」 「カバンを、あの席に置いたままなの」  ああ、と琉偉は彼女が荷物を手にする余裕も与えずに、ここに連れ込んだのだと思い出す。改めて、突発的な自分の行動に驚いた。琉偉の「ああ」をどう捉えたのか、真理子はうらめしそうな目で琉偉をにらみ、鼻を鳴らして歩き出した。 「どこに行くんだ」 「言ったでしょう。カバンを取りに戻るんです」 「俺も行こう」 「来ないでちょうだい」  ピシャリと声で叩かれて、琉偉は肩をすくめた。 「ひとりで戻って、彼になんだったのかと聞かれたらどうするんだ」 「あなたには関係ないでしょう」  真理子の声はイライラと尖っている。ついさっきまで、あれほどなよやかに俺の体にしなだれかかっていたのに。いまは、まるで全身の毛を逆立てて威嚇をしてくる猫だ。  フッと琉偉が笑みをこぼすと、気配を察したのか真理子が振り向き射貫く目で琉偉を見た。怒気をはらんだその瞳に、琉偉はゾクゾクと官能の高揚を覚えた。  なんて魅力的な目をするんだろう。  まっすぐに見つめてくる真理子を美しいと感じ、琉偉は無意識に手を伸ばしていた。それを真理子が容赦なく払いのける。 「気安く触らないで」 「さっき、俺のキスをおとなしく受け入れてくれたのに?」 「お、おとなしく受け入れたんじゃないわ」  声の動揺とともに視線が揺れて、琉偉は彼女に一歩近づいた。 「なによ」  さきほどまでの威勢のよさは虚勢だったと、わかりすぎるほどに伝えてくる怯えた様子に、琉偉は嗜虐趣味はないはずだと自分に確認して立ち止まった。 「そう怯えないでくれ。――さっきのは、そう……、なんというか、嫉妬だったんだ」 「嫉妬?」  真理子の片目がけげんに細められた。 「ああ、そう。……嫉妬だ」  両手を肩の高さに上げて、ついでに肩をすくめて危害を加えるつもりはないと示す。すると真理子の警戒し尖っていた肩が落ちた。 「――なにに嫉妬をしたの?」 「もちろん、君と談笑をしていた相手に決まっているだろう」 「どうして、あなたが嫉妬をするのよ」 「忘れたのか。俺は君を介抱するときに、君の恋人になると言ったんだ。真理子が、恋人でもない相手に注意をされる筋合いはないと言ったからな」  真理子の目がまんまるになり、琉偉は彼女を猫みたいだと思った。驚いた猫と、いまの真理子の表情はそっくりだ。彼女の中身も猫のように、気まぐれなのだろうか。体はとても、しなやかだったけれど……。  情事の熾火がくすぶりかけて、琉偉は深く長く息を吐いてそれを抑えた。 「……本気で、私の恋人になった気でいたっていうの?」 「その他に、俺が嫉妬をする理由があるとでも思うのか」  呆然としたまま首を振る真理子を、琉偉は愉快な心地でながめる。彼女は一時の方便で体を許してしまう奔放なタイプなのか。いいや、そんな女性には見えない。ならばどうして俺には許してくれたのだろう。  グルグルと琉偉は考えをめぐらせながら、真理子を見つめた。彼女は居心地が悪そうに、ソワソワしている。 「どうした? 俺がいっしょに戻って君の都合のいいように話を合わせれば、彼の機嫌を損ねなくていいと思うがな」  イヤだと言われても、琉偉は行くつもりでいた。あの男と真理子の関係を、きっちりと知っておく必要がある。  なんのために?  決まっている。この船を不正な恋愛の温床にしたくはないからだ。――いや、違う。いままではそんな連中を「めんどうなことだ」とあきれ半分に傍観していた。船の上はどこの国にも属さない、自由な――つまり、自分たちで責任を持つなら、ケガをしたりさせたり命を危険にしない限りは、なにをしてもかまわない空間なのだ。これは理由にはならない。  そう、俺はいつの間にか、真理子の魅力にやられてしまっている。素直にそれを認めれば、彼女はどんな態度を取るのか。真理子という人間が、どんな相手なのかを知らないうちは、自ら降参をするに等しい告白はしないでおこう。  恋人になると言った方便を、この船に乗っているうちは、という注釈つきの関係として彼女に思わせておく。その間に真理子を俺に振り向かせればいい。旅程は半分も終わっていないのだから。 「つまり、俺はこの船にいる間は、君の恋人でいるつもりなんだ。別の男性と親しくしている姿を見れば、嫉妬をして当然だろう? それとも俺を受け入れたのは場の流れで、本当の恋人はあの男だと君は言うのか。もしもそうなら、なおさら俺を連れていって、彼に弁明をするべきだと思うがな」  直接あの男と会話をしてどこの誰だかを突き止め、真理子の心を奪ってやろう。  あんな中年男の魅力など、きっとたいしたことはない。
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