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4-7:焦り焦られ前途多難

 舌が私の口の中を舐めて、くすぐっている。  そんなの聞く限りでは気持ち悪そうにしか思えないのに、こいつにされるとこんなに気持ちよく感じてしまうのはどうしてなんだろう。  嫌だって言いたいのに、キスが邪魔をしてなにも言えない。  バカって言って突き飛ばしたかった。もう二度と触らないでって、前の私なら言えたのに。  今はもう……言えそうにない。 「すが……わ……らぁ……」  ようやく唇を解放されてから出た言葉は甘えたような、私のものとは思えない情けない声。 「……っは。俺のこと誘ってるわけ?」  熱っぽい目で見つめられてぞくっとする。  こいつのこういうときの顔の方が『誘っている』ように見える。  もっと欲しいって言わせる危ない顔。  今も私から抵抗する気力を奪おうとしていた。 「こういうの……会社では……」 「……じゃ、今夜合コン行くな。そしたら聞いてやる」  ぷつんと私の頭の中で音がした。 「なんで? なんでそんなに私に嫌がらせしてくるの?」  まだ甘い熱の残る唇を拭ってその身体を押しのける。  ちゃんと抵抗できたと思う。突き飛ばすほどの強い力は、震える手じゃ出せなかったけれど。 「あんたなんか大嫌い。私だって好きな人を作ってもいいでしょ」 「……っ、おい」  引き止められる前にちょうどエレベーターが止まってくれた。  ほっとしてすぐにその場から逃げ出す。  会議があると言っていたくせに、菅原は私を追って出てこようとしなかった。  無事に会議が終わった後、フロアへ戻ると菅原の姿がなかった。  うっかり探してしまった自分に嫌気が差す。  いつからあいつのことを目で追いかけるようになっていたのかわからない。  見ないように気を付けてはいたはずなのに……。 「志津、お帰りー」 「……ただいま」  出迎えてくれた美波が私に資料の束を渡してくる。 「えー、これやらなきゃだめ?」 「違う違う。次、コンペだって。ネタあるならどうぞーってお知らせ」 「うそ、ほんと?」  ぱっと受け取って食い入るように資料へと目を通す。  確かにそこに書いているのはコンペのお知らせだった。  各自、自分のネタを持ち寄ってそれを記事にしたいとアピールする。  そのプレゼンが通れば晴れて企画を担当することができるというものだ。  今まで私がプレゼンを通した経験はたった一回。記事になったとはいえ、評価は散々だった。今思い出しても苦いものがこみ上げる。  そういえば、その記事の評価を見た夜だったっけ。あいつと初めてそういう雰囲気になったのは。 「志津はなに出すのー?」 「まだなんにも考えてない。女性向けってなると、また詰めなきゃいけなくなりそうだし」 「あはは、ふぁーいと」  美波と話しながら考える。  コンペのことじゃない。菅原のことを。
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