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1-8:ひねくれ処女の強がり
やっすい挑発に乗った結果、今、私はふかふかのベッドに座る羽目になっている。
ここはいわゆるラブホテルという場所だった。意外にも内装は普通のホテルとそう大きく変わらないように見える。まぁ、テレビの位置が食器棚らしき場所の上にあったり、そこにカラオケセットが置いてあったり、いまいちよくわからない違いもあったけれど。
菅原は妙に慣れているように見えた。もっとも、私が慣れていない――というか初めて!――なせいで、そう見えるだけかもしれない。
「先、シャワー浴びてこいよ」
「ほ……本気……?」
「今更びびってんの?」
「……別にそういうわけじゃないけど」
声が小さくなったのは、それが当たらずも遠からずという所だったから。
だって、ラブホテルに来るどころか、そもそもそういう経験すらない。まず、男と二人っきりでベッドのある場所にいる状況が初めてだ。そりゃあもちろん父親は除くとして。
これでびびらない方がおかしい。相手が好きな人で、長年の片思いの末に結ばれる……なんて運命的な展開なら、びびるより嬉しさやらときめきやらそんな緊張でいっぱいになれたのに。残念ながら私の目の前に白馬の王子様はいないし、こっちを微妙な顔で見つめているのはにっくき菅原だ。こんな状況でどきどきなんてしてやるものか。
「私がシャワー浴びてる間に、あんたの方こそ逃げ出さないでよ」
「誰が逃げ出すかよ、バーカ」
べ、と舌まで出されて私もやり返す。なんでこう、子供というか小学生みたいな知能レベルなんだろう、この男は。一応仕事ができるはずなのに不思議な気持ちになる。
でもまぁ、どうせここから先に進むはずがない。必ずどこかで止まるに決まってる。
だって、抱かれる女が私だなんてお笑いにしか思えない。
だからこそ、私は堂々と浴室へ向かう。
引き所に困ってるのは菅原の方。私はあんたが情けなく「やっぱり無理でした」と頭を下げるのを待てばいい。大丈夫、優位なのは私。こういうのって私から何かするようなことはないわけだし。
菅原を置いてさっさと浴室へ。そこもやっぱり普通のホテルと変わらない。
「シャンプーもあるし、リンスもあるし、ボディーソープもあるし……」
本番はないだろうけど、どうせならきちんと洗うことにする。まぁ、時間稼ぎの意味もあったけれど。
いろいろと確認していると、妙なものを見つけた。
よく駄菓子屋に置いてあったゼリーのお菓子みたいな、変なもの。給食にもこういうジャムやドレッシングが出てきてたっけ。
手に取って見てみる。小さな透明の袋の中身はよくわからない。液体だってことぐらいしか。シャンプーもリンスもボディーソープも確認した。じゃあ、これは何?
「……使って、みる?」
鏡の中の自分に問いかけてみる。お風呂に置いてあるならお風呂で使うものだろう。
ほんのちょっぴりわくわくしながら袋を破こうとして――。
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