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4-3:焦り焦られ前途多難

「だいたい、お店のパスタって好きじゃないの。なんていうの、あれ。もちもちしたのが好き」 「生パスタ?」 「そう、それ!」 「生パスタって単語もすぐ出てこねぇ程度には、女捨ててるんだなって思った」 「……あのね」  お行儀が悪い、とは思いつつ、びしっと菅原を箸で指す。 「女捨ててるって言うけど、料理ぐらいなら自分でできますから」 「へぇ?」 「パスタだって自分で作ったやつの方がおいしいから外で食べないの。それだけ」 「お前料理できるんだ」 「ちょっとは見直した?」 「うん」 「……うんって」 「食ってみたいと思った」  そう言いながら無邪気に笑ったのを見て、どきっと心臓が音を立てる。  まじまじその笑みを見てしまい、すぐに目をそらした。  何がどきっ、なのか。こいつにどきどきするぐらいなら、そのまま心臓が止まっちゃえばいい。 「あ……あんた以外の人間にならいくらでもご馳走するけどね」 「俺が一番うまいって言ってやれるよ?」 「言われても嬉しくない」  言い捨てて、さっさとお皿の上の料理を片付ける。  最後まで取っておいたからあげを口に運ぼうとして、ちょっと考えた。  食べる前に、菅原のお皿に放る。 「おい」 「一個欲しかったんでしょ。あげる」 「なんで」 「貸しにしといて」 「はぁ?」  どうしてそんなことしたのか、どうしてそんなことしようと思ったのか、私にだってわからない。  食べたいって言うなら分けてあげてもいいかなと思った……んだと思う。  なんとなく菅原を見ていられなくて、食器を手に立ち上がった。  この食堂はちゃんと洗い場まで持っていかないとおばちゃんたちに怒られる。 「なぁ」 「……なに」 「好きなもんなのに、いいのか」 「いらないなら食べる」 「……いや、くれるならもらうけど」  菅原のくせに歯切れが悪い。  借りを作りたくないから?  もしくは、私が急に優しくしたから動揺してるか、のどっちかだろう。  どっちにしろ、私はなんとなく気分がいい。 「お前、こういうこと他のやつにもしてんの」 「なんでそんなこと聞くわけ?」 「勘違いされそーじゃん」 「勘違いって。ちょっとおかず分けてもらったくらいでどきどきしちゃうような人、この会社にいないでしょ」  鼻で笑うと、菅原はなんとも言えない顔をした。  あれあれ、もしかして喜んでた? どきどきしちゃってた?  そう考えるだけで楽しい。今日はいい一日になりそうだ。 「まぁ、勘違いしてくれるならそれでもいいけどね。今、恋人募集中だから」 「俺でいいじゃん」
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