37 / 50

3-8:こじらせ狼の弱音

「は、早くどけて……」 「……くそ」  こうなったら続けるわけにはいかない。名残惜しさを感じながら、浅木から離れる。  あと五秒だけでよかった。それでこいつと繋がれたってのに。 「こ……こういうこと、もう職場ではしないで。怒るからね」 「やだ」 「子供みたいなこと言わないでよ」  声の主が近づいて来る前に、お互い身なりを整える。  俺のこの行き場のない欲は一体どこに向ければいいんだ。 「そもそも、生でしようとするなんて最低でしょ」 「……まぁ、そこは俺も反省してます」 「したいならちゃんと私の身体のことも考えて。じゃないと……」  言いかけて、浅木ははっとしたように自分の口を押さえた。  ただでさえ赤かった顔が、みるみるうちにもっと色を増していく。 「べ……別にしたいから……言ってるわけじゃ……ない、し……」  消え入りそうな声が耳に入った瞬間、棚の向こうに人がいるのも忘れてキスをしていた。  舌で唇を割って中を擦り上げる。  さっき挿れられなかった分、キスで繋がれるように。 「ひ、と……いるんだけど……っ」 「だってキスしてーんだもん。お前がかわいいこと言うから」 「ばかっ!」  浅木が少しだけ大きな声を出す。  その瞬間、がたっと本棚が揺れた。 「あれ? 誰かいるの?」  まだ俺たちに気付いていなかった誰かが、とうとう気付いてしまう。  はぁ、と溜息を一つこぼして、俺は浅木の代わりにそっちへ向かった。  棚を越えて行くと、別の部署の女社員が二人いる。  名前は覚えてないけど、この間声をかけられたような気はしないでもない。 「二人もなんか探してんの?」 「菅原くん……!」 「俺、これ探してるんだけど一緒に手伝ってくんね?」 「うんっ、いいよ!」  頼まれた資料のメモを見せながら、二人をうまく別の場所に誘導する。  きっと今のうちに浅木はさっさと逃げ出すことだろう。あいつはそういう女だ。  ……でも、俺からは最近そこまで逃げない。多分、一昨日の出来事があったから。 「……期待していーのかな、俺」 「菅原くん、どうしたの?」 「あ、ううん。なんでもない。それでさ、こっちの資料なんだけど……」  いつもいつもあと少しで失敗する。  それは俺がいつまでもあいつに本当の意味で踏み込めない臆病者だからなのか、それとも、本気の恋をこじらせすぎてるせいなのか、それはまだ、わからなかった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!