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1-7:ひねくれ処女の強がり

「な、なんで」 「なんでって……困ってそうだから?」  何か悪いものでも食べたのかと逆に心配になる。菅原は嫌がらせばっかりで、残業の手伝いを申し出るようなかわいい奴じゃない。何かを企んでいると考える方がよっぽど自然だ。 「悪いけど、あんたに手伝ってもらうくらいなら家でやるわ」 「……ふーん」  断られることなんて分かってただろうに、ちょっぴり傷付いた顔をされる。  そんな顔、しないでほしい。私が悪いことをしたみたいに見えるから。  もう一度お疲れ様と声をかける。菅原から再びデスクに向き直り、残りの作業に目を向けた。  あいつがいなくなって十分したら帰ろう。そう決めたけれど――。 「なぁ」 「ひっ」  真後ろで声が聞こえて、つい情けない声を上げてしまう。  この距離は知っている。朝もこれぐらい近くで菅原の声を聞いた。ということは、振り返ったらすぐ側にいるということだ。  硬直する私には構わず、菅原がデスク上の散らばったメモに手を伸ばす。  まるで後ろから抱き締められているようで落ち着かない。  乱雑なメモだって見られたくなかった。どうせあんたみたいに的確な内容は書いてないし、面白みだってない。 「……ほんと、色気のねぇネタ」 「う、うるさいなぁ。どうせ誰も抱きたいと思わないようなつまんない女がまとめたネタですよ!」  何が悲しくて自虐しなくちゃならないのか。  苛立ちついでに、つい、余計な一言が飛び出す。 「あーあ! この際、誰でもいいから恋人が欲しいわ! なんだったら一晩のお相手でもいいくらい!」 「……それ、本気?」 「なーに? 菅原くんには刺激が強かった? ごめんなさいねー」 「いや、それなら立候補しようかと思って」 「……は」  頭の中がぐるぐるする。菅原の顔は今見えないけれど、どうせ笑っているに違いない。こいつはいっつもそう。私を馬鹿にして、嫌がらせばっかりして……。 「な……なんであんたが」 「……まー、お前の相手をさせられる奴がかわいそうだし? 俺でいいじゃん?」 「馬鹿なこと言わないでくれる? あんたなんかに私を満足させられるわけないでしょ。っていうか、そもそもあんたはどうなの? いっつも女の子に囲まれてるみたいだけど、付き合ったとかなんとかそういう話はひとっつも聞かないよね。もしかしてそっちの経験ない? 童貞さん? かわいそー」 「あのな、好き勝手言うなよ」 「あら、図星?」  ふふん、と口元が緩む。今日一日の嫌がらせもこの一瞬で全部すっきりした。悔しがる顔を見たくて菅原を振り返る。  だけど。 「童貞かどうか、教えてやろうか?」 「……え」  悔しがるどころか、菅原はいつもの不敵な笑みを浮かべていた。  馬鹿なことを口走った私を嘲笑うみたいに。  何か言い返そうとしたけれど、いろいろと頭が追いつかなくてはくはく口を開け閉めするだけになってしまう。  馬鹿じゃないの、って言わなくちゃ。これ以上こいつの嫌味ったらしい挑発に乗るわけには――。 「か……かかってきなさいよ」  ――ああ、私って本当に馬鹿だ。
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