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1-6:ひねくれ処女の強がり

 私の背中に声がかかる。妙に確信めいた声。自信に満ち溢れていて嫌になる。  無視すればいい。まっすぐデスクに戻って、何も聞かなかった振りをすれば。  大丈夫。足を前に動かして階段を降りよう。それで――。 「――お前みたいな女、誰も抱かないだろ」  ……このやろう。  思わず振り返って睨みつけていた。妙に真面目な顔で、それでいて口元に笑みを浮かべたまま、菅原は私を見つめ返してくる。 「あら、図星?」 「あんたなんか大っ嫌い!」  こんなことしか言えない自分が虚しかったけれど、これだけ言うのが精一杯だった。  どうせ私はかわいくない。どうせ女らしくない。どうせ甘やかしたくならない。  頑張って変えようとしたって全部うまくいかなかった。だって、もともとそういう性格じゃなかったから。  言いたいことは考えるより先に口を突いて出てくる。下手をすれば手だってすぐに出してしまう。もっとおしとやかで大人しい素直な子になりたかったなんて、私以上に望んだ人がいるなんて思えない。  もう菅原の顔も見たくなかった。  今度こそ声が聞こえないように屋上を後にする。  半分だけお茶が残ったペットボトルを置いてきたことに気付いたのは、自分のデスクに戻ってからだった。  ……昼間に嫌なことがあったせいか、どうも仕事の調子まで落ち込んだ。気が付けば一人帰り二人帰り、定時を過ぎて二時間以上経過している。  悔しいことにここの会社はいわゆるホワイト企業だった。ほとんどみんな残業なんてしない。そんな非効率的なことをするのは、仕事ができないかわいそうな奴。例えば私とか。  あと少しだけ取材した内容をまとめたら帰ろう。そう決めて最後の作業に取り掛かる。  気が付けばもう誰もオフィスに残っていない。かちかちという時計の音が悲しく響いた。  もう少し、あとちょっと。  文章を考える度に、菅原の『文章が男くさい』という嫌味な言葉がよみがえる。  仕事ができるからって調子に乗って。いつかぎゃふんと言わせてやる。  いつの間にか菅原への怒りでいっぱいになっていた私は、ドアが開いたことに気付かなかった。当然、そこから入ってきた人も、誰が入ってきたのかも。 「……お前、まだ残ってたのか?」  しんとしたオフィスに響く低い声に、不意打ちを食らった私はびくっとした。  なんでこんなときに。  振り返ると案の定、菅原がいる。 「あんたこそ……なんでいるの」 「資料室に引きこもり。全然データなくてさ」  かつ、と足音が響く。菅原がこっちに来る音だった。  ……なんだか二人でいるのが落ち着かない。菅原が今は嫌味な笑みを見せていないせいだろうか。 「俺、もう帰るけど」 「……お疲れ様」 「浅木は?」 「まだ……やること残ってるから」  本当はもういつでも終わらせられる。だけど今終わらせたら、こいつと駅まで仲良く帰る羽目になってしまう。それだけは避けなければならない。 「手伝ってやろうか?」
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