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3-3:こじらせ狼の弱音

「菅原、なに見てんの?」  横から覗き込まれて曖昧に笑う。 「あっち見てる」 「……あ、小坂?」  ちげーよ、バカ。  あいつ、スペック高いけど浅木の親友こじらせすぎて頭おかしいんだぞ。  頻繁に俺に睨み利かせてくる怖い女なんだぞ。  ……そういや、俺が浅木を好きだって最初に気付いたのも小坂だった。  浅木にちょっかいかけてたら怒られたんだっけな。 「小坂、超かわいいよなー。でも菅原は狙うなよ。勝ち目ねーから」 「狙ってねーよ。俺の好みじゃねーもん」 「うっわ、言ってみてぇ」 「お前なら選り取りみどりだろ。合コンとかすげーって聞いたけど」 「んー……まぁ持ち帰られそうになったことなら何回もあるな」 「持ち帰れよ! 男だろ!」 「えー、いらねーし」  俺が欲しいのは一人しかいない。一番難易度の高い女だ。  それはそれで燃えるのは内緒にしておこう。 「菅原ってモテてる割にそういうの聞かねぇよな。結婚しねーの?」 「なんか遠距離恋愛してるって聞いたけどマジ?」 「どっから聞いた情報だよ、それ」 「誰だっけなー」 「……結婚より先に、まず付き合ってもらわねぇとなー……」  ぼそっと言った瞬間、周りが驚いたように目を丸くした。  次いで、身を乗り出してくる。 「ままままさかお前でも落とせねぇ相手がいんのか?」 「あー、なんか菅原も人間なんだなって感じだわ」 「なんだそりゃ。俺だって恋に悩むお年頃なんですぅー」 「ふざけんな、お前の悩みは贅沢すぎんだよ!」  ぎゃはは、と品のない男の笑いが響いた。  うるさかったのか、ちらっと浅木がこっちを見てくる。俺もそっちを見ていたおかげで目が合った。  なのにすぐそらされてしまう。苦い顔をしているように見えたのは気のせいだったと思いたい。まぁ気のせいじゃないだろう。  きっと昨日のことを思い出してる。好きな女に肝心なとこで手を出せない情けねー男だと思ってる。好かれてる自覚がないのが困りどころだ。 「お前の好きな奴って、誰?」  おお、来た来た。女みてーな質問。  隠す必要もないということで、俺はまっすぐ浅木を指さした。 「あいつ」  どうやらこっちの様子を窺っていたらしい浅木がぱっと立ち上がった。顔を真っ赤にして、小坂と食堂を出て行ってしまう。  いつもならなにかしら「ふざけんな」とでも言い返しにくるものを、今日はそうしないのが寂しい。やっぱり昨日のせいだろう。  去り際の小坂の眼差しに軽蔑と呆れと嘲笑が混ざっていた。あの女、ほんとに性格が悪い。  俺を牽制するように浅木にくっついたのもむかつく。ああいうのができる女の特権が憎い。  まぁ、俺は一応突っ込む一歩手前までいったんだけどな。言ったら殺されそうだから言わねーけど。 「小坂は趣味じゃねーって言ってたじゃん」 「ちげーよ、浅木」 「あー、お前そういう逃げ道作っとくのずるくね?」 「あん?」 「確かにずりーわ」  どうやら、本気には取ってもらえなかったらしい。  普段からガキみたいなやり取りして、あんまり男女って感じのことをしてないせいかもしれない。  浅木の方がそういうのを避けるし。許されるなら俺も小坂みたいに肩抱いて歩いてみてぇよ。
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