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3-2:こじらせ狼の弱音

 やっと。やっと昨日あいつと繋がれるんだと思った。  これでも毎日せっせとアプローチしてきたのに、一切気付かない鈍い女をようやく落とせたんだと思ったのに。 「くそ……もう酒なんか飲まねー……」  途中まで……はぎりぎり記憶にある。  スイートルームではしゃぐ浅木をかわいいなって思った。絶対好きだろうと思ってあそこをわざわざ予約した甲斐があった。なかなか懐にはいいダメージを与えてきたけど、あいつが笑ってくれたからそれでいい。  その後、俺の下であいつが甘い声出してんのもなんとなく覚えてる。思い出すだけで全身が熱くなるようなあの声。  ただ、そこからが問題だ。俺には……その後の記憶がない。  気がついたら一人ぼっちのベッドで寝ていた。もちろん浅木はどこにもいなくて。  やっちまったと思いながら会社には平然とした顔で来ている。  昨日の夜のことで俺がどれだけ後悔して、やり直しをしたいと思ってるかあいつは知らないだろう。  ようやく好きな奴と寝られるんだと期待してたのに。  ……俺の遅すぎる初めての本気の恋が成就するんだと思ったのに。 「おーい、菅原。飯行こうぜー」 「……おー」  誘われて渋々立ち上がる。ほんとは浅木のとこに行きたい。  でも、どんな顔をしてあいつに会えばいいかわからなかった。一昨日昨日とやらかしてる時点であいつがなにを考えてるかあんまり考えたくない。  最後まで満足にできない男だと思われてたらやだな、なんて。  気乗りしないまま食堂に行って、同僚の話を聞きながら飯にする。  あんまり味がよくわからなかったのは、多分同じタイミングで浅木も小坂と飯を食いに来てたからだろう。間違いない。 「でさ、この間の――」  いつ飯の仲間が五人に増えてたのか気付かなかった。おかげで俺が話さないでいても誰もおかしいとは思わずにいてくれる。  一口食ってはぼーっと浅木の方を見て息を吐く。  あいつは俺をどう思ってるのか。  いや、嫌いという言葉は死ぬほど聞いてきた。それでいて相手してくれるんだから、そこまで嫌われてるわけじゃないと思いたい。  ……あ、コロッケ落とした。  小坂になにか言われて動揺したらしい浅木がおかずのコロッケを落として慌てている。  女にしては冷静で、俺にあれだけそっけなくするくせに、おかずを落としたくらいで焦っている。 「……やっぱ、好きだな」  知らず、そう言っていた。  幸い食堂が騒がしいせいで誰も聞こえなかったようだ。聞かれても別に構わないと言えば構わない。むしろその方が牽制になるだろう。  俺と直接やり合おうなんて男、いるわけがない。その程度にはモテてる自覚だってある。  それをわかってないのは浅木だけだ。最高に鈍い俺の初恋の相手。
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