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3-1:こじらせ狼の弱音
「……はぁ」
「どした、菅原?」
ため息を吐いた俺は、声をかけてきた同僚に適当に首を振って反応する。
今日が超絶不調なんて言ったってどうせ茶化されるだろう。
その理由が離れた席にいて、たまにこっちを睨んでくる浅木志津のせいなんて言ったら余計に。
「……ちくしょう」
絶不調の理由は、昨日のやらかしのせいだった。
思い出すだけでも自分のバカさ加減にイライラする。
「……やっとだと思ったんだけどな」
そもそも浅木とあんなことにまでなったのは、奇跡みたいなものだ。
強気な浅木が俺の究極に頭の悪い挑発に乗ってくれたおかげで、まず最初の夜を迎えられた。
……ずっと俺が望んでいた夜を。
それなのにその日は結局最後までできなかった。どうでもいいクソみたいな電話のせいで、浅木に逃げられたせいだ。
昔から大事にしてるお守りを見て唇を噛む。……あいつは俺がこれを持ってることを覚えてるんだろうか。
もしかしたらいけるかも、なんて期待したらもう引けなかった。だから昨日もホテル取ってあいつをなんとか連れ込んだのに、緊張しすぎて……飲みすぎた。
飲みすぎたっていうのは正しくないかもしれない。なんというか、酒の回りが早かった。
今度こそあいつを抱けるかもって思ったら、心臓が止まりそうだった。そんなこと、あいつに言ったら鼻で笑われるだろうとわかってはいたけれど。
大体、なんであいつが俺にだけはなびかないのか理解できない。
この会社どころか、今まで話してきた女の誰よりも特別扱いしてやっているつもりなのに。
……ただ、ずいぶん前に小坂には怒られた。
好きな子をいじめていいのは小学生までらしい。んなこと言われたって、なんか言ったときのあいつのむっとした顔がかわいいんだからしょうがない。こう、きゅんと来る。
――そう、俺は浅木のことがずっと前から好きだった。
今まで恋愛らしい恋愛もしてこなかった俺が、唯一好きだなって自覚したのがあいつだった。
女なんて適当に俺の顔をちやほやしてくるだけで、適当に相手してればそれで満足する生き物でしかなかったのに、浅木だけは妙に目を惹かれて。
見てたら笑えるくらい強気でひねくれた奴だなって思った。そんなに実力ないくせに、一生懸命あがいて努力してるところが……かわいかった。応援してやりたくなった。
もう一度お守りを見る。
これをくれたことを、きっとあいつは覚えてない。
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