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2-13:逃げられない二度目の夜

 次の日、また当たり前の日常がやってくる。  あの後、私は結局いたたまれなくて帰ってしまった。  あいつは空っぽのベッドを見てなにを考えたんだろう。またやりそこねたかーくらいには思うかもしれない。なにを思うにしろ、私がどう感じたかなんて考えてはくれないに決まっている。  正直、惨めだった。  酔ったのはまぁ、しょうがないとする。  でも、酔ってほっぽり出せる程度にはどうでもいい扱いってこと。  そう、それこそ一晩だけのお相手、みたいな。 「美波、これ確認しておいてもらってもいい?」  忘れるように、美波に声をかけて手元の記事を渡す。  酷評されたってとりあえずやるしかない。いつか評価されると信じて。 「いいけど、あのさ」  美波が声を潜める。  そして、ちょいちょいと遠くの席で不機嫌そうにしている菅原を指した。 「菅原くんとなにかあった?」 「……なんで?」 「だって今日、全然こっち来ないでしょ? いっつもなにかしらちょっかいかけに来るのに」 「来ないなら助かるけど。仕事も捗るし」 「喧嘩したんなら仲直りした方がいいよ」 「喧嘩なんてしてないってば」 「そうは見えないけどなぁ」  そう。今日菅原は私にまだ一度も話しかけてきていない。  視線を感じるときはあったけど、全部無視していた。気にしてたってどうしようもないし。用があるならちらちら見てないで声かければいいでしょ。お前は女子かって言いたい。 「これの確認、菅原くんの方がいいんじゃない?」 「変なこと言わないでよ」 「でもこのネタ、前に菅原くんがやってたよ。いろいろ突っ込んでくれると思うけどな」 「……だったら尚更見せたくない」 「強がりだなー。仕事だって割り切れば?」  それを言われると痛い。私だって公私混同したいわけじゃないし。  嫌いな奴だけど、菅原は仕事ができる。見てもらった方がきっといいんだろう。 「……あいつに見せるなら、もうちょっと見直してからにする」 「ん。それがいいと思うよ」  渡した記事を再び受け取って手元に引き寄せる。  ……あいつと喋るきっかけが欲しかったわけじゃない。よりレベルの高い仕事をするために、これが必要だっただけ。  そう自分に言い聞かせながら、くすくす笑う美波をちょっと睨む。 「笑わないでよ、バカ」 「かわいいなーと思って。菅原くんのこと意識してるの、バレバレだよ」 「だ、誰が!」 「……ふふふ、わかりやすいのは志津だけじゃないけどねぇ」  にやにやしながら美波は自分のデスクに戻っていった。  なにを言いたいのかあえて聞かない。きっと冷静に聞けないだろうし。 「……はぁ」  なんだかこの間から頭痛の種が増え続けている気がする。  こめかみを押さえながら、私は自分の作った記事をぼんやり眺めた。
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