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1-2:ひねくれ処女の強がり

「ね、メモ挟んであるじゃん。『よくこのネタからこんな女らしくない内容にできるな』」 「……やめて、その字見ただけで頭痛くなんの」 「なんで? だってこの字って――」 「おーっす、お疲れさん」  背後から聞こえた声にぎょっとする。……いや、ぎくっとした、の方が近いかもしれない。  振り返るのは嫌だった。だって絶対にやけた顔と向き合う羽目になるから。  だけど美波は振り返ったようだった。『あいつ』に何も思う所がないんだから当たり前と言えば当たり前だろう。 「おはよう、菅原(すがわら)くん」  やっぱり『あいつ』だった。美波のかわいらしい女子力の塊みたいな声を聞いても、そんな感想しか出てこない。  ああ、足音が近付いてくる。自分の自信を鼓膜からも叩き込んでやろうかというようなあの嫌な足音が。  ……足音が止まる。それも、私の真後ろで。 「メモ、ちゃんと見てくれた?」 「勝手に人の机漁って汚いメモ置いていかないでよ!」  振り返ると同時に、思いきり両手を突き出す。  思った通り、菅原――菅原昂輝(すがわらこうき)は息が触れるくらい近くにいた。突き飛ばさなければキスしてたんじゃないかと錯覚するぐらい近くに。 「っと、あっぶねー……。人がせっかくお前のためを思って残してやったのに、その態度はないんじゃないの?」 「うるさいなぁ!」  気が付けば美波は嵐の予感を察して自分のデスクに逃げてしまっている。  そう。私と菅原はいつもこうだった。  他社から転職してきて以来、トップの成績をキープし続けている化物。取材させればどこも知らない情報を仕入れて、記事を担当させればキラーコンテンツに変える。売り上げを倍以上に伸ばした雑誌は数知れず、最近ではほとんど死にかけていた『週間盆栽クラブ』の知名度をテレビに取り上げられるまでにしたとか。  そんな人とも思えないものすごい男が、なぜか顔を合わせる度に突っかかってくる。……いや、最近では顔を合わせなくても向こうから来るようになった。 「で? 私に何か用?」 「別に?」 「っ……じゃあ、二度と話しかけてこないでくれる……?」 「やなこった」  お前は小学生か、と喉まで出かかってなんとかぎりぎり飲み込む。同じレベルにまでは落ちたくない。例え、一足先に逃げた美波がそうは思っていなかったとしても。
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