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1ー1:ひねくれ処女の強がり

 明雲(めいうん)出版。それが私、浅木志津(あさぎしづ)の働いている会社の名前。昔から編集の仕事をしたくてせっせと努力し続けていた私は、五年前からここに勤めていた。  ようやく雑用ばかり押し付けられ――もとい、任され続けていた生活が終わり、ついに新しい企画に携わるようになった。その最初の記事がついに出版され、店頭に並んだけれど。 「はー……」 「おはよ、どしたの」 「んー……」  がっくり肩を落とした私に声をかけてきたのは、同僚の小坂美波(こさかみなみ)。同じ編集部で働いてはいるものの、直属の上司に恵まれたおかげか、私よりも一年早く雑用を脱している。  持っているページは美容やファッション。いかにも女子力の高いそれを、まず彼女本人がうまく自身に取り込んでいる。  起きたらちょっと髪を梳かすだけ。お化粧は全部同じに見える。香水? そんなものは論外にもほどがある。そんな私とは正反対の、今時女子が美波という女だった。  それなのに、彼女はどうも私とウマが合う。性格があまりにも逆すぎると、むしろ歯車が噛み合ってしまうらしい。  女らしくない私と、引くてあまたの『女』を極めた美波。尊敬はするけれど、羨ましいとはあまり思わない。だってこれが私で、今更変身しようと思ったってどうしようもない。  諦めがちで怠け者な性格と、そして、もう一つ困った性格が私のマイナスポイント。 「ハガキ届いてるじゃん。……んー、なになに? 『SNSに載ってる情報と代わり映えしない』『なんか勘違いしたおっさんが作った記事って感じ』『今時こんなキラキラした女子いる?』」 「声出して読まないでよ……」 「だって面白くて。せっかく初めて企画して記事出したのに、散々だねぇ……」 「まぁ、最初から大絶賛の嵐っていうのもどうかと思うし、このぐらいがちょうどいいんじゃないの。こんなのどうとも思わないよ、今更」 「出た。志津のあまのじゃく」 「うるさいなぁ」  私を一番分かりやすく形容してくれて、一番ダメな女だと分からせてくれる性格。それが『あまのじゃく』だった。  美波はどちらかというとかわいらしく言ってくれる方だと思う。もっとひどい言い方をすれば『強気すぎ』『ひねくれ者』『敵を作るのが好き』……今まで散々言われてきた。  私だってもちろん、こんな性格じゃダメだろうなってよく分かっている。だからって今更どうにかできるものでもない。だってこの性格のまま、もう二十代の後半に片足を突っ込んでしまった。  二十七というのはとてつもなく都合のいい年齢だ。まだ二十七と安心することも、もう二十七と不安になることもできる。そう思いたい。
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