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第1話

「あれ?」 玄関に出てきた人物を見て、あたしは首をかしげた。祖父は一人暮らしなのに、いったい何者だろう。 「あ、もしかして遥花?」 名前を口にされて、相手をまじまじと見る。背が高く小顔で鼻筋の通ったなかなかのイケメンくんだ。どことなく見覚えがあるような……。 「まさか俺、忘れられちゃった?」 ややムッとしたような表情を見て、彼の名を思い出した。 「龍生!?」 祖父の弟の孫、だったと思う。父親同士がイトコだから、あたしと龍生はハトコだと聞いた覚えがある。 「うわー久しぶり!」 龍生とは同い年で、子どもの頃は親戚が集まる時よく一緒に遊んだけれど、中学に入ってすぐ曾祖母が亡くなり、それから龍生の祖父は遠慮して実家に来なくなった。だから龍生と会うのも5年ぶりぐらいだ。 「じいちゃんは?」 「近所の新年会だって、うちのじいちゃん連れて出かけた」 龍生は自分の祖父と2人だけで来たらしい。 「お母さんに頼まれて来たんだ。みかん持ってってあげてって」 あたしの家は隣町で、一人暮らしの祖父の家に届け物を頼まれるのはよくあることだ。 「自転車で?」 「うん、そんなに遠くないし。荷物積めるから」 自転車の後ろに載せてきたみかんの箱を指差すと、龍生は玄関から出てきて運んでくれた。そういえば彼は、頼む前にサッと手を貸してくれるような気のきいた性格だった。昔と変わっていないことが、何だか嬉しい。 「時間あるんなら上がってけば?」 誘いを断る理由はない。 あたしはマフラーと手袋を外し、上着も脱いで茶の間のこたつに足を入れた。 龍生はポットのお湯でお茶を煎れ、湯呑みをあたしの前に置くと対面に座った。 「どうぞ。……って、おじさんちのお茶だけど」 「ありがと」 両手で湯呑みを包み込むように握ると、お茶の熱でじんわり指が暖まってくる。 「龍生、よくあたしだってわかったね」 「昔とあんまり変わってないから。そのまま大きくなったって感じで」 「……子ども体型だもんね」 あたしは薄い胸を見下ろしてため息をついた。中学高校と身長は少しずつ伸びたけれど、胸やお尻は貧相な大きさのまま成長する気配がない。 「龍生は変わったよね。背高くなったし、声変わりもして」 「男がこの歳で小さいまんま声変わりしてなかったらおかしいだろ」 龍生は笑った。 昔から落ち着いているくせに表情が豊かで、親戚の小さい子たちにもなつかれていたことを思い出す。 「ね、覚えてる?」 あたしが思い出話をはじめると、龍生もあれこれ語り出し、記憶の相違があったり見方が違っているのが楽しくて、すっかり盛り上がってしまった。 「何年も会ってなかったなんて嘘みたいだね」 「それな」 龍生は少しも気取ったところがない。なのに下品じゃなくて、あたしが嫌だと感じるような言い方もしない。同級生や先輩の男子たちとは全然違うなと思った。 「学校でモテるでしょ?」 あたしが質問すると、龍生はちょっと意外そうな顔をして、さぁと言って首をかしげた。 「嘘だぁ。モテないはずないよ!」 この見た目だけでも女子がほっとかないだろう。 「モテなくはない、かな」 龍生はニヤッといたずらっぽく笑った。 「彼女いるの?」 「いると思う?」 「うん」 「いないよ」 あっさり否定した龍生は、あたしの目をじっと見た。 「遥花はどうなんだよ?」 「モテないけど、ちょっと前まで彼氏いたよ」 「まじか……」 何だか落胆したようにも見えるけど、そんなわけないよね。 「フラれちゃったんだ」 あたしは自嘲気味に笑った。 「小学生の妹と同じだって言われて」 「え、何が?」 さすがにはっきり言いにくくて、あたしは黙って自分の胸を指さした。 「……そいつに裸見せたの?」 「は、裸なんか見せてないよ」 龍生の口から裸なんて単語が出てきて、あたしはドキドキしてしまう。 「下着は?」 「し、下着?」 カーッと顔が赤くなるのを感じた。 「ブラ、とかさ。見せたの?」 龍生は目をそらさない。なんでこんな流れになってしまったんだろう……あたしはウンとうなずくのがやっとだった。 「へぇ……見せたんだ」 ため息をついた龍生は立ち上がって、さっき持ってきたみかんの箱に手をかけた。 「これ、食べていい?」 「あ、いいんじゃないかな」 龍生は箱を開け、みかんを何個か取り出してこたつに戻ってきた。 そしてなぜか、あたしの横に座る。 「遥花のぶん」 みかんを手渡す龍生があんまり何気ない態度だから、あたしは呆気に取られて何も言えなかった。 狭いところに並んで座っているので肩や腕が密着し、パーカー越しに龍生の体温を感じてしまう。女子とは違うごつごつした感触……あたしは発熱した時のようなふわふわした高揚感に戸惑った。 「俺は小さい方が好きだな」 龍生が、ぼそっと言った。 「えっ」 どういう意味だろう? 隣を見ると、龍生は手にした小ぶりなみかんをほぐすように揉んでいる。 長い指に包まれたみかんは、柔らかく揉まれてフニフニと形を変える。 「小さい方が可愛い」 耳元で囁くような低い声。 揉まれ続けるみかん。 あたしはだんだん自分の胸を触られているような錯覚に陥って、龍生がヘタの部分を指先でつまみ上げた瞬間、思わず声を漏らしてしまった。 「あっ……」 聞こえてしまったかな……あたしは恥ずかしくて龍生の方を見れなかった。 「遥花、口開けて」 唐突に言われて顔を上げると、龍生はいつの間にか皮をむいたみかんをひと房、あたしの口元に差し出している。 「口、開けて」 催眠術でもかけられたかのように、あたしは唇を開く。龍生にみかんを差し入れられた瞬間、ぞくりと背筋を電流のようなものが走り抜けた。 「遥花、なんでそんなヤラシイ顔してるの?」 龍生はあたしの唇に指先を触れたままだ。 「感じちゃった?」 そっと下唇をなぞられると、さっきより激しい電流におそわれ、体の力が抜けて倒れかかってしまった。 龍生はあたしを受け止めると、ぎゅっと抱きしめた。 「顔も忘れてたようなハトコに欲情するなんて、遥花はいつの間にそんなに淫らになったの?」 「ちがっ……」 「違わないでしょ。俺の知らないところで彼氏まで作ってたくせに」 「だって、龍生には会いたくても会えなかったからっ」 あたしは涙目になっていた。 「こんなに大きくなってるって知らなかったの。記憶にあるのは小学生の時の顔だったし……初恋の人を忘れるわけない」 龍生はあたしの両肩をつかんで離すと、強い視線で顔をのぞき込んできた。 「初恋ってほんと?」 「嘘じゃないもん」 答えた瞬間、あたしの視界は龍生の顔でいっぱいになった。 唇が熱い……キスされていることに気付いたのは5秒ぐらい後だった。
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