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第1話

濡れた髪を備えつけのクリップで留めてベッドへ近付くと、若い男はさっと立ち上がって私を抱擁した。 先にシャワーを浴びた男の肌はとうに乾いていた。タオル一枚腰に巻いた姿で、まだぬるい雫の垂れる私の首筋に顔を埋め、本当にいいんですねと念押しを重ねる。短く肯定の返事を示せば、その手は私の頬に伸びた。激しく唇を重ねながら、私は目の前で目を瞑っている男の表情を冷めた瞳に映した。焼けた肌が似ていない。団子っ鼻、似てない。すっと、瞳を閉じる。 濡れた髪が背に広がる感覚に男が髪を解いたのだと知るーーせっかちなところ、全然似てない。 安いホテルの硬いスプリングが軋んで、背に触れるシーツが僅かに湿る感触がした。覆いかぶさる男の身体は熱い。熱い体温ーー花岡さんと私の苗字を繰り返すところも、あの人とは似ても似つかない。 私は似ていないことに安堵しながらその行為を受け入れる。指輪の光る左手をキツく握りながら、望まれるままに相手の欲に応えながら。 「花岡さん、結婚してたりします?」 「……あぁ、これ?」 左手の薬指に光る指輪を持ち上げてみせると、男はそうそう、と軽い調子で頷いてみせる。 「旦那さんがいるなら悪いなーって。でも、バーで誘ってきたの花岡さんだし……もしかして夫婦生活冷めてるんですか?」 自分なら旦那の代わりに夫婦生活を満たせるとでも言わんばかりの表情に、私は苦笑した。後腐れのなさそうな軽さは確かにセフレとしてはうまくやっていけそうだったが、私が求めているのはセフレではなかった。 「昔の話よ」 そう、昔の話。私は指に光る透き通った青灰色の石を目を細めて眺める。ーーこれが旦那なのだとのたまえば、この男はどんな反応を見せるのだろう。束の間頭をよぎった好奇心は、すぐに胸の痛みに打ち消される。 「そんなことより、もう一回できないの?」 私は指で男の肌をなぞりながら問いかける。誤魔化されたことに気付いて不満を顕にした男だが、身体は素直に反応した。 そのままもう一度ベッドに沈む。夜が明けるのには、もう少し時間が必要だった。
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