2 / 3

第2話

「あ、たっちゃん、ガムテープ見つかった?」  ソファに座ってテレビを見ながら、ミサが振り向く。  そうだ、ガムテープを探してクローゼットを開けたのだった。あまりの衝撃に前後の脈絡など吹っ飛んでいた。 「んん……まあ……」  曖昧に頷きながら、じっとミサを見下ろす。  不自然に固まっている俺を、ミサが不思議そうに見上げた。 「どうかした?」 「それ……バレンタインチョコだよな?」  ローテーブルに置かれている箱を指差すと、彼女は「えへへ」と気恥ずかしそうに笑った。  開封済みの箱の中、格子状に区切られて、宝石のようにチョコレートが整然と並んでいる。その秩序ある行列には既に幾つか虫食いがあって、誰かさんがつまみ食いしたことが明らかだった。 「うん、自分用。本当は明日が当日だけど、待ちきれなくってさ。夕飯後のデザートってことで」  俺と対照的に甘いものに目が無いミサが、バレンタインデーに自分へチョコレートを買ってくるのも、いつものことだ。  ──ということは、クローゼットの奥に隠されていた包みは、自分用ではない。 「あっ、たっちゃんにはちゃんとお酒買ってあるよ! 明日あけようかと思ってたけど、どうする、今飲んじゃう?」  ──俺宛てでもない。 「……会社で配る義理チョコは、もう用意してんのか?」 「? うん、同期の子と合同で買ってあるよ。職場のロッカーに置いてきちゃった」  ──義理チョコでもない。 (やっぱりアレは、他の男にあげる分かよ……)  確信すると、腹の底がグッと熱くなった。  ふざけるなよ、と身体中の血が煮えたぎる。  確かにここのところ、恋人らしいムードは無くなっていた。お互いに仕事が忙しくて、一緒に暮らしているのにほとんど会話が無い日だって少なくなかった。  だからって、浮気をするのは卑怯だ。ルール違反だ。 (俺じゃない誰かと恋愛しておいて、何食わぬ顔で毎日ここに帰ってきてたのかよ) 「……たっちゃん? 黙っちゃってどうしたの? まさかチョコ食べたい? なーんちゃって、辛党のたっちゃんが欲しいわけないよねぇ」  人の気も知らずのんびりした口調で笑うミサの平和な雰囲気が、俺の神経を逆撫でした。 「きゃっ……! たっちゃん?」 「うん、俺も食べたいんだ。くれよ」  ミサの隣、ソファにドスンと腰を下ろす。  ミサがキョトンと目を見張った。 「えっ、チョコだよ? 甘いよ? たっちゃん、甘いの嫌いでしょ」 「いいから」  ひょい、とチョコレートを一粒つまみ上げ、口に含む。  甘ったるい味が口の中いっぱいに広がる。やっぱり甘いものは好きじゃない。 「平気なの? 無理しないで……んんっ」  心配そうに覗き込んでくるミサの後頭部を片手で抱え、唇を合わせた。ミサの驚きが、ポカンと開いた口の形から伝わってくる。 「うう……ん、んっ……」  性急に舌を絡めると、ミサがますますびっくりしたように舌を縮こめる。まるで拒否されているようで、ますます衝動に火がついた。  ドロドロに溶けたチョコをなすりつけるように、ミサの舌を引きずり出して自分の舌でしごく。ミサが苦しそうに声を漏らした。  カカオの甘い匂いが鼻に抜けていく。  口内から苦手な味が消え、慣れ親しんだミサの味だけになった頃、ようやく顔を離した。ミサが頰を赤らめて、不思議そうに俺を見つめている。 「……どうしたの、急に? そういえばたっちゃん、さっき歯も磨いたんじゃなかった?」 「したいんだよ、いいだろ?」  ミサのブラウスの裾に手を差し込むと、目の前の瞳がまん丸になった。 「だっ、ダメだよ! 私まだお風呂入ってないよ?」 「いいって、そんなの」 「ええ? なんか今日のたっちゃん変……ふやぁっ」  ブラジャーの中に指を滑らせ、まだ柔らかい尖りをキュッとつまむ。優しくクリクリすると、あっという間に芯を持った。 「あ、それ、ダメだってば……っ」 「何がダメなんだよ」 「……だって、明日も仕事だしっ。たっちゃん疲れちゃうよ?」  そうだ、いつからだったろう。ミサに触れたい気持ちよりも、明日も続く現実のほうが重たく感じられるようになったのは。  付き合い始めの頃は、ただミサが欲しくて、愛し合いたくて、それだけだった。ミサとキスすれば疲れなんてどこかへ消えて、次の日にどんな用事があろうと頑張れた。  けれど付き合いが長くなって新鮮味が薄れてきたら、段々と暗黙の了解が出来上がっていった。  エッチは休みの前の日だけ、ちゃんとお風呂に入って歯を磨いた後。きちんと夕飯の食器まで洗って、何の憂いもない状態になってから、照明を落とした寝室で抱き合うのだ。  清潔な体で触れ合うのは心地よいし、次の日ゆっくり寝坊できると思うと安心感がある。悪いことじゃない。お互い望んだからこそこうなったのだと思っていた。  だけど所帯染みた生活感が、ミサには不満だったのだろうか? いつのまにか愛情がすり減ってしまっていたのだろうか? 「あっ、いやぁ、それ……やだってばぁ」  ブラウスをたくし上げ、ブラジャーをずらして、ピンク色の突起を口に含む。敏感にしこった乳首にたっぷりと唾液を絡め、舌を押し当てながら吸うと、ミサが悲鳴を上げた。白い喉が晒される。 「やだやだって、何がイヤなの? 気持ち良さそうじゃん」 「あっ、ばかぁ……っ」  吸い上げているのと反対の尖りを指で捻じる。じっくりと舌で転がし、指で甘やかに責めると、ミサが縋るように俺の頭をキュッと抱きしめた。髪をそっと掴む控えめな感触。 「だって、お風呂も入ってないし明日も仕事なのに……気持ちよくてその気になっちゃうから、いやなの……」  恥ずかしそうに、しかしとろけそうな声音で囁かれて、全身がガソリンを浴びたように燃え上がった。 「あっ!」  ソファに押し倒す。  ぐいと片脚を持ち上げて肩に掛けると、めくれ上がったスカートの奥、黒タイツで隠れた秘部は既に濡れてわずかに色を濃くしていた。 「見ないでよぉ……恥ずかしいよぅ……」  明るいところで交わるのが久しぶりだからか、ミサは耐えきれないと言わんばかりに両手で顔を覆った。  そうだった、ミサはいつまで経っても羞恥心が抜けなくて、毎回最初はぎこちなく緊張しているのだ。昔はそのこわばりを丁寧にほぐしていくのが、蕾が徐々に開くのを見守っているようで楽しかった。  それが段々と、毎回手順を踏むのが億劫になって、形だけの前戯とワンパターンの挿入に落ちていった。ミサが恥ずかしそうに反応を抑えたまま、達せずに終わっていることは気づいていたけれど、何も言われないからミサも不満は無いのだろうと思っていた。 (本当は不満だったのか? ……それで幻滅して、他の奴に惹かれたのか?)  怒りと嫉妬で目の前が真っ赤になる。  本当は、最近の自分がいい彼氏じゃなかったことぐらい、とっくにわかっていた。だけどミサの笑顔に甘えて、許されているだろうとタカをくくっていた。  俺が油断して手を抜いていた隙に、ミサの心は奪われてしまった。ひょっとして、もう体すらも。 「あっ、たっちゃん……っ!」  ショーツごとタイツを脱がすと、ミサが顔を隠したまま切なそうに名前を呼んだ。 「! ひゃあんっ!」  花芯に唇を寄せると、手を置いた白い太ももがビクンと跳ねた。  皮を剥くと、真っ赤に震えるいやらしい芽が顔を出す。ぷっくりした突起を舐め上げると、「ひぃっ」と悲鳴を上げて、スカートをまとわりつかせたままの薄い腹がペコっと凹んだ。 (もう、ここも……俺じゃない誰かに可愛がられてるのか?) 「いやぁっ、あっ、ああっ! たっちゃ、それっ! ああぅ……」  なすすべもなく勃起して存在を主張する肉豆を、ソフトクリームのように舐め溶かしてしまいたい。そうしたら最後に触れたのは俺になるのに。  ミサが一番好きなやり方で、裏の繊細な部分を執拗に舐める。硬くした舌先でつつき回したり、舌全体をべったりと押し付けて舐め上げたりしていると、ミサの嬌声がどんどん高くなっていく。 「たっちゃんっ! もう、もうっ……!」  ふにふにの太ももで俺の頭を挟んで、ミサがいやいやと首を振る。 「ああ、ごめん。こっちも欲しいよな」 「っちがっ! ふやぁあん……っ」  肉芽を舌で弄くり回しながら、ドロドロと蜜を溢れさせる秘裂に指を差し入れる。燃えるように熱い中は、生き物のようにきゅっきゅっと収縮して、侵入者である指を締め付けた。 (たとえ浮気されたって、俺が一番、ミサの感じるところを知ってる……) 「っ! いやああぁあっ!」  前壁を揉み込むと、ミサの全身が魚のように跳ねた。  腹側のザラザラしたスポットを見つけ出して開発したのは俺だ。指先を使ってグリグリと圧を掛け、ぐにぐにと掻き、根気よく徹底的に快楽だけを与えていく。ミサの喘ぎ混じりの呼吸がどんどん浅くなり、白い肌がしっとりと汗で濡れていく。 「ああっ! もうっ、だめぇっ、たっちゃん……!」  絶叫と同時に大きく痙攣して、数秒のちにミサの全身から力が抜けた。  顔を隠していた手もいつのまにか脱力して、小さく万歳の形を取って顔の横に投げ出されている。  真っ赤に上気した頰、焦点を失ってトロンとした瞳。誘うようにうっすら開いた唇。 「……綺麗だな」 (ミサのイった顔なんて、しばらく見てなかった……)  こんなに美しくて、扇情的で、愛おしいものだったっけ。  この表情を、もう他の誰かが見ただろうか。──これ以上の表情を、ミサは見せただろうか。  胸が痛む。裏切られた、という怒りは過ぎ去って、今はただ身を切るような痛みだけが全身に広がっていく。 「えっ、やだ何、キレイじゃないよ」  照れてあたふたする姿も愛しい。のしかかるように覆いかぶさり、ぎゅっと強く抱きしめる。柔らかい体が、当たり前のように俺を受け入れて抱き返してくれた。 「ミサ……好きだよ」 「……えへ。私も」  耳元で幸せそうに囁かれた声が、今この瞬間だけでも真実だと信じたい。  熱く猛る塊を、ぐちゃぐちゃのぬかるみに擦り付けると、ミサが子犬のように甘く鳴いた。 「ミサ……っ!」  ぐ、と押し付けて侵入を開始する。熱くぬるつく襞を掻き分けて、最奥まで自身を沈めると、どちらからともなく熱っぽく吐息した。 「……ね、たっちゃん」  動き出す間際、ミサがうっとりした目で俺を見上げた。 「なんか、今日、変だけど……何かでモヤモヤしてるんなら、モヤモヤ全部、私にぶつけていいよ。たっちゃんのものなら何でも、私、受け止めたいから……」 「……ミサっ!」  我慢できずにいきなり激しく抜き差しを始めても、ミサは言葉の通りひっしと俺にしがみついて、甘やかに何度も名前を呼んでくれた。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!