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スキトカキ

 秋晴れの空に、ブーケが舞った。  別にブーケをとったからといって、次は自分の番、とも思えないし、決まった相手もいない。けれどキャラ的には必死でとるふりをしないといけないんだろうし、何となくそういうものを期待されていると思うと、冷ややかに見守る事もできずに、玲愛はおおげさな動きで、友人何人かとブーケに群がった。  手の中にあるピンクの花束を持て余しながら、二次会の席で、黒須玲愛(クロス レア)曲木櫂斗(マガキ カイト)に再会した。  正しくは、披露宴の時から、参列者の中に櫂斗がいる事に玲愛は気づいていたけれど、テーブルが別だった為に、会話をしたのが二次会の席になってから、という状況だ。 「何、次は黒須?」  向かいに座り、話しかけてきたのは、坂元充(サカモト ミツル)、玲愛、櫂斗、充の三人は、大学で同じサークルに所属していた。文化祭や、その他学内イベントで、バーやクラブの真似事をするというもので、玲愛は主にポスターや看板、内装を行う美術担当、櫂斗は照明や機械系の手配と操作、充はいわゆるお祭り男というやつで、人を呼んだりもてなす事が好きな男だった。  一見ちゃらちゃらしているように見える充だが、実は小学校教師をやっている。  学校では、ジャージ姿で児童にも父兄にも人気らしい。  今日の充は、いかにも結婚式に参列したという感じの、少し派手目のスリーピース。  いかにも遊んでいそうな見た目の充と、メガネで、野暮ったいスーツ、真面目くさった風貌の櫂斗はちぐはぐな取り合わせだが、不思議とこの二人は仲がいい。 「予定は未定、仮にあったとしてもあんたらは呼ばない」  玲愛はきっぱりと言い放った。  玲愛は、大学時代に、櫂斗にふられている。  SF映画や、カメラや家電が好きで、趣味も合い、気が合う相手だった櫂斗に、『付き合って欲しい』と言ったのは玲愛の方だった。  けれど返事はノーだった。『友達としか見られない』というありきたりな理由で、玲愛はふられ、卒業後、何となく疎遠になり、機種変更時に変わってしまったメールアドレスを伝えないまま、今日に至る。  櫂斗が、下級生に告白されて付き合い始めたらしいと噂で聞き、玲愛の胸は少しだけ痛んだが、卒業後、仕事を覚えるのに必死で、仕事を覚えたら覚えたで、今度は忙しくなり、恋愛する心のゆとりは今もない。  むしろ、櫂斗や充の左手の薬指にこそ指輪がはまっているのでは無いかと思ったが、どうも話をしてみると三人とも三十目前にいまだ独身のようだ。  疎遠にはなっていたが、元々気の合う三人の事、飲み足りないという事になり、櫂斗のアパートへ押しかけ、朝まで痛飲した、というのが、秋の出来事。その後、付き合いが復活し、何度か櫂斗の部屋に集まって飲み会やら映画鑑賞会をやり、冬になった。 「小学校教員は忙しいんだよ、なんたって師走っていうくらいなんだから」  という充の言葉で、三人で集まれなくなると、櫂斗とふたりきりで会うというのも気が引けて、クリスマスと年末年始は過ぎていった。  年が明け、爆弾低気圧に首都圏が覆われた日、そんな日に限って、玲愛は残業で帰宅が遅くなった。  天気予報を見て、一応雪への備えはしてきたものの、積雪は予想を大きく上回り、玲愛の最寄り駅にたどり着く前に電車が運行を停止してしまった。  タクシー代は上司に相談すれば出るかもしれないが、宿泊代金はどうかな……と、降りた駅前ロータリーで途方にくれる。案の定、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。  駅前にビジネスホテルは二軒あったが、空き部屋があるか確かめる為に、雪の中を歩きまわるのも躊躇われ、電話をしてみたが、二軒とも話し中。  実はビジネスホテルよりも軒数の多いラブホテルに一人で泊まる勇気も無く、カラオケかネットカフェでも、と、思いつつ、玲愛はひとつの可能性について考えていた。  降りた駅は、櫂斗のアパートの最寄り駅だったのだ。  広さ優先で借りたという築年数二十年だという木造アパートは、駅徒歩十五分という距離だが、このままタクシー乗り場で空車を待ちながら凍える思いをするよりはいい、と、考え、玲愛は櫂斗に電話をする決心をした。  電車が止まって、タクシーも来ず、困っているという事を伝えたら、櫂斗は 「いいよ、うち、来れば? ……何もないけど、それでよければ」  と、いつもの調子で答えた。  玲愛としては、屋根と暖房のあるところで休めるだけでもありがたいと、早速櫂斗の部屋へ向かい、歩き出した。  駅前のコンビニエンスストアに立ち寄ったが、納品前のようで、ろくなものが無い。  櫂斗のアパートの近くに、ローソンがあった事を思い出し、途中で立ち寄る事に決めて、降り積もる雪の中を、玲愛は再び歩き始めた。  車道沿いの商店の前は、まだ店が開いているうちに店員が多少は雪を避けたのか、まだ歩きやすかったが、道を一本入った商店街は、車も通らないせいか、雪が完全に積もってしまっている。  降り積もったボタ雪は、足首をすっぽりと覆うほど積もり、パンツスーツの裾はすでにぐしょぐしょで、冷えた足先は、歩くたびに不快感が増す。  雪がやんでいればまだいくらかマシだったろうが、三段式の折りたたみ傘のやわな生地は、雪の重みでたわみ、時折手元をゆすって、雪を落としてやる必要があった。  視界の悪い中、ぼんやりと目印代わりにしていた自動販売機の明かりが見えて、玲愛はあと少しだ、と、姿勢を正した。  目印は、コンドームの自動販売機。  意識しているわけではないのだけれど、ちょうと櫂斗の部屋へ行く途中で曲がる必要がある。  すぐ横は薬局なのだが、薬局の名前は覚えられないのに、この自動販売機はやけに印象に残っている。いつもなら黙って曲がる角、玲愛はまじまじとそれを見つめてしまった。  櫂斗の部屋には既に充と共に何度か遊びに行ったし、泊まりもしたが、一人で行くのは初めてだった。  いやいやいや。  自分の脳裏をよぎった妄想をふりはらうようにして、玲愛は自動販売機の前を通り過ぎ、コンビニに入った。  駅前のコンビニ同様、納品のトラックが立ち往生しているのか、弁当やおにぎりの棚はからっぽだ。夕食をとっていないので、何か、と、思ったが、カップラーメンやスナックしかなさそうだ。冷凍食品の鍋類や、ヨーグルトも無い。かろうじて残っていたチアパックのゼリーをかごに入れた。歯ブラシは携帯用のものがバックに入っているので、スキンケアセットと、かえの下着はサニタリーショーツしかなかったが、この際文句は言えないだろう。  陳列棚の中にある、カラフルないくつかの箱が再び目に入ったが、ちらっと見ただけですぐに視線を移し、宿代がわりにとビールも買って、コンビニを出ると、櫂斗の部屋はもうすぐだった。 「いらっしゃい、寒かったろ、風呂、わかしといた」  扉を開けると、部屋は暖められていて、何か料理中なのか食欲をくすぐるいい香りもしている。  お風呂はさすがに……と、玲愛は逡巡したが、体は冷えきり、服も濡れている。温かい風呂はとても魅力的で、新品らしいTシャツとハーフパンツまで用意されているという。 「いや、さすがに悪いよ」 「俺、そういうのいつも安い時に買いだめしてるから、気にすんなよ、その間に俺、メシ仕上げちゃうから、……まだだろ?」  玲愛には、櫂斗が菩薩に見えた。  温かいシャワーを浴びると、滞っていた血流がよみがえるような気がした。  いつもより念入りに体を洗って、浴槽に身を浸すと、先ほどまで風雪にさらされていたのが嘘のように、体がほぐれる。  玲愛は思わず、「ふうううううう」と、大きなため息をついた。  櫂斗の部屋の風呂に入っている自分が、なんともたよりなく、落ち着かない。しかし、風呂は心地よい。冷えきった身体には、何よりのごちそうだった。  櫂斗は、今現在、彼女は居ないと言っていたが、そつのないもてなしぶりに女の影を感じて、玲愛は少し複雑な気持ちになった。  櫂斗に告白した後輩は、玲愛にとっても後輩だった。時折甘えたような声を出す、かわいい子だった。私はダメで、彼女はよかったのか。  ふと、学生の頃の頃を玲愛は思い出す。気が合うと思っていたし、一緒にいるとのが楽しかった。けれど、櫂斗は自分を選びはしなかった。  思いがけず付き合いが復活して、玲愛はつい期待してしまう自分の気持ちを抑える事に苦労している。  櫂斗は、充と違って、自分から女性に話しかけるタイプでは無い。けれど、草食系な見た目が安心するのか、警戒されるタイプでも無い。いわゆる『いいひと』タイプで、自分からいく事がないので、玲愛は拒絶されると思わなかった。しかも自分が断られた後に、同様に自分から告白してきた後輩と付き合う事になったと聞いた時は、本当にショックだった。  自分は『女として』求められていないのだ、そう思った。 「どーせ、魅力ないですよ、女らしくないですよーーーーーーぅ!」  櫂斗のいない飲み会で、思わずそんな事を言ってクダをまき、痛飲した挙句に、玲愛はその場にいた先輩と勢いで寝てしまった。 「じゃあ、試してみようか?」  そう、先輩は言った。酔った勢いでホテルへ行き、そのまま玲愛は処女を喪失した。  男の指に触れられると、あんな声が出るのか。  とか、  男の身体はあのときあんな風になるのか、とか。いろいろと新鮮な驚きや発見があった。  特別好きではない相手と寝た事も、処女ではなくなった事も、玲愛にとってそれほどショックでは無かった。まあ、こんなものか、とも。 「魅力、なくないよ、かわいかった」  そう先輩に言われて、むしろ玲愛は少し救われたくらいだった。  あそこで、先輩を好きになってもおかしくない状況なのに、そうはならなかったのは、まだ、櫂斗に思いが残ってたのか。  ……じゃあ、今はどうだろう。  玲愛は、鏡に映る、化粧を落とした自分の顔をぼんやりと見た。すっぴんだって何度もさらしているし、夜通し飲んで雑魚寝をしたりもする。櫂斗にとって、自分は『友達』かもしれないけれど、『女』ではないんだろうなあ、と、考えながら、玲愛は風呂からあがった。  髪をかわかして、浴室から扉を開くと、すぐそこはダイニングキッチンだ。  チーーーーン♪というよい音が、メインディッシュの完成を知らせた。  櫂斗の部屋にダイニングテーブルは無く、ダイニングキッチンの隣のフローリングの六畳に出されたこたつの上に、カキフライとビールが並んだ。 「えー、櫂斗、カキフライなんて作れるんだ」 「レシピの通りやっただけ」  そう言って、買ったばかりなのだというウォーターオーブンのレシピブックを見せてくれた。 「つか、よくあったね、牡蠣なんて」 「充が実家から送ってくれた」 「え! マジで! つか、それ、フライにしちゃったの?」  充の実家は広島だ。玲愛も一度送ってもらったことがあるが、たいそう美味だった。 「もったいなー! 生で食べた方が美味しくない?」 「んー、なんか、食べそびれて、冷凍しちゃったからさ、火を通した方がいいかもって、鍋にするには野菜の買い置きがなかったから、フライの方がいいかなって、一人で食べるには、多かったし」 「冷凍しちゃう前に、呼んでくれればよかったのにー!」 「いや、クリスマスとか、年末年始は、黒須も忙しいかなーと」  それにクリスマスに誘うのって何か意味深だもんな、と、玲愛は心の中で櫂斗の言葉を補完した。  ひとしきりそんなやりとりをしてから、食卓代わりのこたつにあたりながら、ありがたくカキフライをいただく事にした。 「ウォーターオーブンでもカキフライとか作れるんだね」  そう、玲愛が尋ねると、櫂斗は嬉々として機種選定について説明を始めた。櫂斗は家電好きなのだ。  カキフライは美味しかった。というか、玲愛は、そこそこ自炊はするが、揚げ物は面倒で自分では作らない。櫂斗のマメさは相変わらずという事か。 「そういえば、私の妹、牡蠣と柿の違いを知らなかった、っていうか、カキフライって甘いんだとずっと思ってたんだよね」 「まあ、給食で出たりしないしなー、カキフライは、俺も、充に勧められるまで食べたことなかったし、親も好きじゃなかったしね」 「苦手な人は嫌いだよね、生臭いといえば生臭いような気もするし、でも私は好きだよ、生牡蠣と白ワインとか」 「飲んべの好みだなー」  ビールを買ってきてよかったなと思いながら、ふと思い出して、玲愛は言った。 「そういえば、もう誕生日過ぎたよね、おめでとー、んで、今年はいよいよ三十路かね」 「黒須だってそうだろ、同級生なんだから」 「あー、まあ、そうだねー」  しまった、これは諸刃の剣であった、と、玲愛は思いつつ、続ける。 「櫂斗はなんかないの、三十前までにやっておきたい事とか」  玲愛の質問に他意は無かったが、とたんに櫂斗が痛いところを、という顔を作った。  そして、青くなったり赤くなったりしてから、グラスにまだ大量に残っていたビールを一気にあおり、タンッ! と、大きな音をたててグラスを置き、言った。 「……童貞を、捨てたい」 「はい?」  玲愛は、驚いて少し後ずさった。 「だから、魔法使いになりたくない」  童貞のまま三十歳を超えると魔法使いになる、というネットロアは聞いた事があったが、まさかそれを本気にしているわけではないだろう。意味としては、単に言葉通り、童貞で居続けたくないという事なのだろうが……。 「……マジで? え? だって、櫂斗彼女いたじゃん」 「……キスだけ。セックスはしてない。つか、それ言ったら黒須だって」  流石に、自分が振ってから彼氏いなかっただろう、とは言わなかったが、卒業してから彼氏がいなかったという話は前したから、玲愛が、彼氏居ない歴=年齢、というのは櫂斗だけ でなく充も知っている。 「でも、私、処女ではないよ?」 「えっ!?」  櫂斗は、今日会って一番大きな声をあげた。 「誰と!?」  わりと失礼な事をずけずけ聞いているのは動揺ゆえだと諦めて、玲愛は答えた。 「谷山先輩」  櫂斗は、返事もできないままわなわなと震えている。 「やだ、まさかだけど妬いてんの?」  まさかね、と、思いながら玲愛は尋ねた。 「うん、妬いてる」  ストレートに言い返されて、なぜか玲愛は照れてしまった。 「なんで、だって、櫂斗、私の事振ったのに」 「黒須は俺の事ずっと好きなんだと思ってた」 「何それ、ちょっと思い上がってない? 仮に私が櫂斗の事を好きなんだとして、そう思ってたのに自分は彼女作ったの? それ、いくらなんでもひどすぎない?」  嫉妬をされてうれしいという反面、じゃあなんであの時振ったんだという思いもあって、玲愛は一気にまくしたてた。 「いや、俺、黒須の事はずっと好きだ」 「ごめん、ちょっと意味がわからない」 「なんかさ、俺、『彼女』っていうのは、こう、見ててムラっとするとか、エロい気持ちになる相手なんだって思ってて」 「つまり私に対して欲情しなかったと?」 「なんか、黒須って、あんまり女を感じないというか、『女』って思う前に『黒須』っていう人間として認識してたっつーか、なんか、うまく言えないけど、オカズにできないっていうか」 「それは、褒めてるの? けなしてんの?」 「いや、そういうんじゃなくって、罪悪感? みたいな気持ちがあったんだよ、昔は。でも、こないだ淳哉の結婚式の時にさ、着てたじゃん、ドレス、あと、久しぶりに見て、あー、なんか、目をひく女がいんなー、と、思ったら黒須でびっくりした」 「そりゃ、どーも……」 「今も、なんか、自分ちの風呂場で黒須が全裸になってるって思ったら、なんかすげー興奮した」 「それって単にやりたいってだけなんじゃないの?」 「うー、それを言われるとツラいな、いや、ちゃんと、くどいて、付き合ってくれって言うつもりだったんだけど、今、黒須が谷山先輩としたって聞いたら、すげー、がまんできなくなったというか」 「……じゃあ、言ってよ」  唇をとがらせて玲愛が言った。 「……なんか、恥ずかしいな」  櫂斗は照れながら頭をかいた。 「私は言ったよ! ……昔だけど」  そう、玲愛が言うと、櫂斗はこたつから足を抜き、正座をして、背筋を伸ばした。 「黒須、俺、お前の事が好きだ、付き合ってくれ」  こういうの、なんて言うんだろう、なりゆき?  でも、まあ、いいか、玲愛は思いながら、答えた。 「……わかった、いいよ」  うつむき気味だった玲愛が、櫂斗の方へ向き直ると、おもむろに櫂斗の唇が玲愛の唇に重なった。  壁際においつめられて、逃げ場が無いまま、玲愛は櫂斗の両腕に囲まれてしまう。 「ふっ……」  あー、なんか、暖かいなー、唇、と、玲愛がぼんやりと身をまかせていると、櫂斗の舌が玲愛の口の中に侵入してきた。 「んッ……」  舌が、絡みあう。  こいつ、本当に童貞なのか……と、玲愛は思いながら、櫂斗のキスに翻弄されっぱなしだった。  櫂斗の手が、玲愛のTシャツをまくりあげた。  ギョッとして、玲愛が唇を離す。 「ちょ、待って!」  ノーブラでまくり上げられ、見えてしまった乳房を隠しつつ、シャツを戻しながら、玲愛が言った。 「展開、早くない?」 「むしろ今までが遅かったってのどう?」 「ごっ、ゴムの準備とか」 「もう買ってある」 「いつから!? てか、やっぱ女いたんじゃないの?」 「いない、この部屋にあがった女はおふくろと黒須だけ」 「せめてベッドにいかない? あと電気も消して欲しいんだけど、できれば」 「明るくないとどこに入れていいかわからない」 「……せめて、常夜灯にして」  ベッドへ移動して、二人は並んで座った。これ以上何か言うと笑い出しそうな気がして、玲愛は自分からキスをした。  目を閉じて、玲愛が櫂斗の唇に優しく触れると、櫂斗は、手の置きどころをさぐりながら、玲愛の胸に触れた。  そんなにそこに触りたかったか、と、玲愛はふっと目を開けた。すると、櫂斗と目が合った。 「……見るなよ」 「なんでよ」 「恥ずかしいから」 「人の乳まさぐりながら何言ってんだか」 「……だって、さわりたい、え? てかダメ?」 「いいよ」  玲愛がそう言うと、櫂斗は再び玲愛のTシャツをまくりあげた。素肌がさらされて、一瞬玲愛は身をすくめたが、寒さを感じる前にあたたかな舌が玲愛の先端に触れた。 「ちょ……」  それは、『触る』じゃなくて『舐める』だろ、と、玲愛は思ったが、舌の熱さと、背筋を走る様な快感に、思わず甘い声を出す。 「あ……ッ、ん」  櫂斗は、舌で、玲愛の固くなり始めた乳首の、乳輪を辿り、じわじわ外側から核心に近づくようにじらしてから、おもむろに乳首を口に含み、口の中で弄んだ。 「はッ……ああん」  玲愛が、いっそう高く甘い声で鳴くと、櫂斗は玲愛を押し倒し、上におおいかぶさった。乳首の片方を口で、もう片方を指先でなぶり続けると、玲愛の身体はゆるやかにほどけていった。  ちゅぽん! と、音をたてて櫂斗が唇をはなすと、とろけるような顔の玲愛がいた。 「気持ち、よかった?」  櫂斗が聞くと、 「ん」  玲愛が小さい声でうなずいた。  櫂斗は、無遠慮に玲愛の両足を広げると、すでにうるみ、ひくつきはじめたそこを指で軽くなでた。 「ひあっ!」  玲愛が驚いて声をあげると、 「あ、ゴメン、痛い?」 「ううん、ちょっと……びっくりしただけ」 「これって、もう入れても大丈夫なのかな……」 「わかんないよ」 「なんで、一応、……経験者じゃん」 「一回しかしてないし、酔っ払ってたから、よく覚えてない」 「んー、やっぱ舐めたりした方がいいのかな……」 「えっ! いいよ、汚いし」 「さっき風呂入ったじゃん」 「……そうだけど」 「谷山先輩は……ココ、舐めたの?」 「してない……って、はッ、ああン!」  玲愛が答えるより先に、櫂斗の舌が玲愛の秘裂をなぞった。 「うそッ、やッ! あッ」  櫂斗は、ちゅくちゅくと玲愛の敏感な部分を探りながら、舌での愛撫を続ける。玲愛は、快感のあまり、足先をピンと伸ばし、甘い嬌声をあげながら、櫂斗の愛撫に溺れた。 「あああッ!」  ひときわ大きな声をあげて、玲愛が果てると、櫂斗は満足そうに唇を離した。 「……もしかして、イった?」 「……あんた、本当に童貞?」  ゆるんだ顔で、息も絶え絶えに玲愛が毒づいた。 「研究したから」  そう言いながら、櫂斗はコンドームを取り出して、慣れた感じで着け始めた。 「……もしかして、それも?」 「……練習したから」  ドヤ顔って、こういう顔だよな、と、櫂斗の顔を見ながら玲愛は思った。 「……入れるよ」  まじめくさって言う櫂斗の様子がおかしくて、玲愛は思わず笑いそうになってしまったが、そうなる前に、櫂斗が玲愛の両膝を広げ、固く、熱くなったそれを押し付けた。 「……ッ」  初めてしてから、何年経ってるんだっけ、と、玲愛は計算しようとした。 「……なんか、入る気がしないんだけどッ」  腰を押し付けながら、櫂斗が言う。 「実は、未遂だったってオチじゃ、ないよね?」 「んー、長らくしてないと、キツくなるらしいから」 「……痛い? やっぱり、やめる?」 「ここまできて、ヘタれた?」  挑戦的に玲愛が言うと、櫂斗はムッとして、 「……人が、優しくしようとしてれば、そういう事言う?」 「思うようにしてみて、多少、私が痛がっても、気にしなくていいから」  玲愛が言うと、 「わかった、じゃあ」  覚悟を決めたように、櫂斗がぐいっと、腰に力を入れる。 「……ッ!」  玲愛は、一瞬、痛みに顔を歪ませたが、入ってきた熱の塊をなんとか受け入れた。 「……入っ……た?」 「実況しなくていいッ ああン」  玲愛が、言う前に、櫂斗が一度腰を引き抜いて、もう一度ズン! と、押し込んだ。 「あッ!」 「ゴメン、黒須ン中、あったかくて、なんか、俺、も、無理」 「ちょ、バカッ!」  ぐちゅぐちゅと音をたてながら、櫂斗が抽送を始めた。 「あッ、ああッ」 「やばっ、ごめん、すぐいッ」 ------------------------------------- 「……なんか、ゴメン」  櫂斗と玲愛は、裸のまま、並んで横になっていた。  すまなさそうに櫂斗が言った。 「いや、別に、そんな、あやまらなくても……」 「がっかりした?」 「してないって」 「なんか、俺ばっか気持ちよかったんじゃないかって……」  ぽつりと言って、背中を向けた櫂斗に、玲愛は後ろから抱きついた。 「そんな事ない、私も……気持ちよかった」  きゅ、と、玲愛が抱きつくと、 「……おっぱい、あたってるんだけど」 「ん、肌の感触が気持よくて」 「そんなんされると」  がばっと、櫂斗は起き上がり、再び玲愛におおいかぶさった。 「また、したくなっちゃうんだけど……」  真面目くさった顔で、必死そうに言う櫂斗がなんだかおかしくて、玲愛はまぶたを閉じ、くちづけを待った。  覚えたての猿のようだった……と、夜が明ける頃、ようやく二人共に力尽き、翌日が休みで本当に良かった、と、玲愛は思った。  櫂斗は力尽きたように隣で眠っている。  驚くほどあっさりと、事は済んだ。学生時代、ふられた直後の自分に、あきらめるな! 三十前にセックスできるよ! と、言いに行きたいような気持ちだった。  新鮮なまま、生で、ではなくて、冷凍庫で寝かされた上、油ではなくて、ウォーターオーブンの蒸気で調理された、『揚げてない』カキフライを思い出して、何だか自分たちのようだ、と、思って、玲愛はふふ、と、笑った。 「んあ?」  だらしない声をあげて、櫂斗も目覚め、玲愛にみおろされている事に気づいた。 「もう、起きたんだ」 「うん、ねえ、ひとつ気になってたんだけど、いつ買ったの?」 「何を?」 「ゴム」  玲愛に言われて、櫂斗は絶句した。 「……教えない」 「だって、気になる」 「……の、前」 「何? 聞こえない」 「だから! クリスマスの……前」  そう言って、櫂斗は布団をかぶってしまった。 「もしかして、クリスマス、誘おうと思ったりしてた?」  玲愛が尋ねると、櫂斗は布団から出て、体を起こした。 「……でも、なんか、それって、すげぇ、狙ってる感じ、つか、あざとい感じがして……」 「魔法使いになりたくないってのも相当だと思うけどね……」  ため息まじりに玲愛が言うと、 「うん、だから、ちゃんと告白して、って、思ってたら、何か、他のやつとした、とか聞いて、すげー、独占欲っていうか、嫉妬っていうか……ごめん、嫌だった?」 「いやじゃないよ、でも、もう一回、ちゃんと言って」 「……好き、だよ」  恥ずかしそうに櫂斗が言うので、玲愛は過去のわだかまりはどうでもいいような気持ちになっていた。まあ、自分も、一途に思い続けていた、ってわけでもないし、おあいこだな、と、思いながら、 「私も、好きだよ」  と、玲愛は答えた。  外は、雪がやんだようで、まぶしい朝陽が遮光カーテンの隙間から漏れていて、くぐもったタイヤの音が、雪道を慎重に走っているらしい車の様子を思わせた。 (終)
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