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第41話 七章 2

「それでは亜紀さま、和明さま。これにて失礼いたします」  土曜の昼下がり、柔らかな日差しが窓から差し込むリビングで、別荘の管理人・|八木橋《やぎはし》は白髪頭を恭しく下げた。彼は伊豆の別荘の管理をしている。亜紀は挨拶を済ませた八木橋が部屋から出て行くのを見送ったあと、和明へと目を向けた。  和明は庭に面した窓から、外を眺めている。その視線の先にあるのは、恐らく隣接している境家の別宅だ。亜紀は父親から聞かされた話を思い出しながら、窓辺にたたずむ和明を眺め始めた。その背中から、近寄り難いものを感じる。  どのような事情があるのか分からないが、まるで世間の目から逃れるように、和明と彼の母親はそこで暮らしていた。そして、母親が亡くなり、和明は一人になった。たとえ守り役がいようとも、母を失った喪失感は並大抵のものではなかっただろう。それを思ったとき、視線の先にいる和明の姿が痛々しく見えた。それと同時に、和明が遠くにいるような気がして仕方がない。亜紀は知らず知らずのうちに、和明へと近づき、彼の背中に体をすり寄せた。  シャツの布地越しに体温が伝う。顔をすり寄せると、嗅ぎ慣れた匂いがした。確かにここに和明はいるはずなのに、体温も匂いも感じるのに、こうやっていてもやはり遠く感じてしまい、亜紀は苦しげな表情で思わずシャツを握りしめた。 「どうした?」  背中にしがみつくようにしている亜紀に気がついたのか、和明が振り返りながら彼女に問いかけた。だが、亜紀はそれに応えない。胸の裡に潜む不安の影を悟られたくなかったからだった。  伊豆へ来たのは、父親から言われた二人の時間を過ごすことが理由ではない。もちろん蛍を見たいからでもない。和明から過去の話を聞き出し、抱えている謎を解くためだった。  過去に触れるものをできるだけ遠ざけようとしている和明から、全てを聞き出すことは難しいとは思う。だが、父親から聞いた話を切り出せば、どうにかなるのではないかと亜紀は踏んだのである。その為には、出だしを間違えてはならないし、何かきっかけのようなもの、例えば蛍を眺めながら切りだすつもりだった。その前にどのようなことがあったとしても、決して感づかれてはならない。  だが、不安は募る。亜紀が何も応えずにいると、それまで背中を向けていた和明が、急に体を反転させた。それだけでなく、彼女を抱き寄せる。するりと背中に回り込んだ手が、緩やかに動き始めた。優しく背中を撫でられて、体から力が抜けていく。 「もしかして、寂しいのか? 俺が週明けからいなくなるから」  いつもであればそのような言葉を掛けられたら言い返すところだが、今はそんな気分じゃない。今はただ、少しでも多く和明を感じていたい。それを暗に示すように、亜紀は和明の胸に顔をすり寄せた。 「そうよ、悪い?」  今の亜紀には、これが精一杯だ。 「……悪くはないが、どうせならもっと可愛く言ってほしいところだな」  からかうような言葉とは裏腹に、きつく抱きしめられた。自然と胸に顔が押しつけられてしまい、より強く体温と匂いを感じてしまう。全身で和明を感じているうちに、心に根付いた不安がゆっくりと溶け出した。  こうして抱き合っていても、ぴったり重なっていないような気がした。それは、二人のあいだに秘密と嘘が存在しているからで、それらがなくならない限り決して重なることはないだろう。それを思うと、途端に心細くなり、和明の体に腕を回していた。亜紀はまぶたを閉じて和明の体を抱きしめる。だが、そうしても不安は消えうせてくれなかった。  午後のまぶしい日差しが差し込む窓辺で、和明と抱き合っているうちに、亜紀はいたたまれない気持ちになっていた。体が勝手に動いてしまい、その結果こうしているのだが、この先どうすればいいか分からないからだった。かつての恋人である嘉納と今と同じように抱き合ったことはあるけれど、そのときとは明らかに思いの深さが違う。抱きしめている男が、ただ愛おしくてたまらない。  昨夜久方ぶりに元恋人と再会したが、和明と再会するまで抱いていた感情はすっかり消えうせていた。嘉納に対して、懐かしさしかないことを自覚したと同時に、和明への思いが深くなっていることを改めて感じさせられた。  だが、それとこれとは話が別だ。亜紀は、感情を素直に出すことができない。その上和明を前にしてしまえば、恋を知り染めたばかりのようになってしまう。ふだんでは考えられないほど大胆な行動をしてしまったことを悔いながら、亜紀は身じろぎひとつできないままじっとしていた。  すると、和明の体から発せられる匂いが変化したことに気がついた。抱きしめている体が熱を帯びている。背中に添えられていた手が、いつの間にか腰へと下りていた。その動きを追いかけると、手はゆっくりとした動きで腰のあたりを撫で始めた。それらに気づいた途端、亜紀の体は一気に熱を帯びる。慌てて体を離そうとしたら、頭上から声がした。 「蛍は日没を待って見に行こう。夕方までまだ時間はあるが、どうする?」  その言葉がどのような意図を持っているのか知らないわけではない。だが、それにどう答えたら良いか分からず、亜紀は返事もできぬままだった。だが、勝手に火照り出す体は、それを待ち望んでいるようで、無意識のうちに頷いていた。 「じゃあ、上に行くか」  そう言うや否や、和明が体を離す。そして、戸惑う亜紀の体を両手に抱き上げて、リビングをあとにした。  二階の寝室に着くなり抱きしめられて、唇を押しつけられた。  性急に腰に回された手が、ワンピースの裾を荒々しくたくし上げる。白いレースに包まれた肉付きのよい臀部がさらけ出された。無骨な手が柔らかい尻を鷲づかみ、形が歪むほど揉みし抱く。息こそ乱れていないが、その手つきが余裕のなさを感じさせた。  噛みつかれるようなキスをされながらも、亜紀は和明が着ているリネンのジャケットを脱がしにかかる。それに気づいたのか和明が、抱きしめていた腕を解き、手伝うように腕を上下させる。  シャツのボタンを外しながら、和明が体を押しつけてくるものだから、自然と亜紀は後ずさる。そしてベッドまでたどり着いたとき、二人はなだれ込むように倒れ込んだ。  両脚のあいだに和明の脚が差し込まれ、まくれ上がったリネンのワンピースをたくし上げられた。亜紀は和明の背に回した腕を解き、両手を上げる。するりと着ている服を脱がされて、白い下着を身につけただけの姿にさせられた。  唇がなんの迷いもなく離れ、ほっそりとした首筋に押しつけられる。シーツに広がる髪の生え際から鎖骨に至るまで口づけられて、その心地よさから亜紀はすっかり濡れた唇から吐息を漏らした。和明の腕を掴む指先に力がこもる。  ボタンを外し終えた和明は、片手で体を支えながら、白い胸元に唇を押しつける。そして、ベルトを緩めシャツを慌ただしく脱ぎ捨てた。あらわになった逞しい体が、ベッドに横たわる女体に覆いかぶさり、濡れた唇を荒々しく奪う。  呼吸を乱しながら組み敷く男の体が熱い。その熱に呼応するように、体の芯が再び熱を帯びてきた。繊細なレースに隠れた場所がじんと火照りだし、触れられるときを待ちわびてむずむずと疼き始める。それを逃そうとして、亜紀は和明の腰を脚で挟み込もうとした。そうすれば、疼きを逃がすことができると思ったからだ。  すると、いつの間にか腿に下ろされた手により、ぐっとそれを持ち上げられる。開いた脚を押さえるように、硬い脚で押さえ付けられてしまった。そのことにより、疼きがどんどんひどくなり、亜紀を苛み始める。  目にも鮮やかな紺色のベッドカバーは、亜紀が体を捩らせるたびに乱れていく。午後の日差しが窓から差し込む部屋に、二人の切羽詰まった息づかいとベッドが軋む音が響いていた。部屋に漂う空気さえ、次第に熱を帯びてくる。  本音を言えば、今すぐにでもこの疼きをどうにかしてほしかった。だが、肝心の和明は、未だに体に触れてこない。それがどうにも焦れったくて、亜紀は急かすように腰を押し上げた。  すると突然、ブラのレースを引き下げられた。ワイヤーに押し上げられた柔らかな乳房が、ふるんと揺れながらまろび出る。その先端はふっくら立ち上がりかけていた。しっとりと汗ばむ乳房を円を描くように和明が揉みし抱くと、さらけ出された尖りがぷくんとそそり立った。 「ん……っ」  いきなり乳房を荒々しくこね回されて、亜紀は舌を絡めながら声を漏らす。それを合図にしたかのように唇が離れ、喉をたどり胸元へと下りていった。今度は唇を押しつけられるだけでなく、吸い付かれていた。場所を変えるたびに痛みが走るが、耐えられないほどではない。むしろ、そうやってあとを付けてほしいと、亜紀は思う。そうすれば、離れているあいだ寂しさを感じずに済むような気がして。もっとねだるように、和明の頭に手を伸ばし、しっとりと汗ばむ髪に指をくぐらせた。  和明の手が、まだレースに覆われているふくらみに伸びた。そして、ゆっくり焦らすように引き下げると、すっかり立ち上がった|乳嘴《にゅうし》とともに、うっすら赤みを帯びた乳房があらわれた。片方の乳房をこね回していた手が、根元に添えられぐっと持ち上げる。それまで胸元に口づけていた和明が、ピンとそそり立っている先端を口に含んだ。 「あ……っ!!」  勃ち上がっていた乳首が熱い。急に柔らかなものに包まれて、その上硬いもので転がされる。思わずそちらに目を向けると、和明が乳房を捏ねながら、もう片方の乳房にむしゃぶりついていた。亜紀は浅い呼吸を繰り返しながら、その様子を眺め始める。弾力のある舌先で転がされては、聞くに堪えない音を立てながら吸い付かれる。それだけでなく、柔らかい唇で挟まれながら軽く引っ張られていた。同時に揉みし抱いていた乳房の尖りをきゅっとつままれる。 「んっ!!」  両の乳房の先端から、異なる痛みが走る。その痛みが引くのと同時に、快感がそこから伝ってきた。亜紀は軽く背を反らす。 「もっと、してほしいのか?」  濡れた先端に熱い息が掛かる。喉さえ反らしていた亜紀は、潤んだ目を眇めながら、和明へと目を向けた。すると、乳首に舌を這わせたままの男から、狡猾そうな笑みを向けられている。彼の髪にくぐらせていた指先が、どうやら頭をかきむしっていたらしい。それを要求と捉えられたらしく、だからわざと尋ねてきたのだろう。無意識とはいえ、ねだるような真似をしてしまったことが急に恥ずかしくなり、亜紀はふてくされた顔をしてぷいとそっぽを向いた。 「たっぷりしてやる。お望みのままに、な」  すると、それまでとは異なる痛みがそこから走った。亜紀は思わず顔をしかめさせる。  それまで乳房をこね回していた手が突然離れた刹那、素早くショーツに無骨な手が差し込まれる。 「ああっ!!」  指先は敏感な突起を通り過ぎ、迷うことなく下りていった。そこを一瞬でも掠められたとき、鋭い快感が電流のように突き抜け、亜紀は声を詰まらせる。男にしてはほっそりとした指が、既にしっとりと濡れている秘所へたどり着いた。指先が入り口をくるりと撫でた瞬間淡い快感が走り、亜紀はとっさに逃げようとして腰を捩らせる。だが、それも虚しく指は淫蜜がしみ出している場所へと入り込んできた。 「なんだ。胸しか触れていないのに、すっかり濡れているじゃないか」  暗に淫らと言われた気がして、亜紀は耐え難いほどの羞恥を覚えた。体の芯だけでなく、全身が一気に熱くなる。しかし、差し込まれた指を、知らず知らず締め付けていた。 「これだけで、良いのか? 締め付けてるぞ、俺の指を」  浅いところを抜き差しされるたび、そこからじわじわと快感が迫る。亜紀はそれに耐えようと、今にも泣きそうな顔で指を噛んだ。その姿に気づいたのか、和明が険しい顔になる。指を奥へと進ませて、ある部分を撫で始めた。それと同時に、親指で敏感なところをぐりぐりとなで回す。  すると、じんじんと疼いていたところから、鋭い快感が走る。指で撫でられているところから走る快感が、強烈な快感により増幅されただけでなく、ひとつになって膨れ上がった。  一気に膨れた快感は、どんどん密度を増していき、亜紀を急速に高みに押し上げた。体がひとりでにわなわなと震え出す。やがて、体の内側で膨れ上がった快感が突然はじけ飛んだ。意識と思考が一気に消え失せる。亜紀は和明の頭をぎゅっと抱え込み、体をがくがくと震わせた。 「あああっ!!」  溜まった熱と膨れ上がった快感が混ざったものが一気に放出されたとき、亜紀は全ての感覚を失った。
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