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第5話 一章 4

 快感が一気に突き抜けたと同時に体がこわばり、肌という肌から汗が一斉に噴き出した。  その直後、すぐさま弛緩し、通り過ぎた快感の余韻に浸っていた。  亜紀は顔を上気させ、浅い呼吸を繰り返した。息をするたび、うっすら汗が滲んだ乳房が上下する。すっかり潤んだ瞳は、どこともつかないところを見つめていた。  ぼんやりと霞む意識の中、無意識のうちに絶頂の残滓を追いかけていた。しかし、その反面、快楽に飲まれてしまった自分が嫌になる。  快楽に飲み込まれそうになったとき、ぎりぎりのところで亜紀を引き留めたのは過去の思い出だった。それは家族という存在がありながら、ずっと孤独を抱き続けた彼女にとって心のより所となっていた幸せな記憶だ。しかし、男によって無理やり押しつけられた快感で、木っ端みじんに砕け散った。  まるで、心から切り離されてしまったような気がした。亜紀はその思い出を、どうにかかき集めようとしたけれど、絶頂の余韻が尾を引いているせいでできなかった。  必ず迎えに来ると言った青年の姿は、もう思い出せない。辛うじて覚えている声も、ぼんやりとしか浮かばない。それに大学時代から付き合っていた恋人だってそうだ。彼の姿を最後に見たのは、もう四年も前のことだし、遠い異国の地で結婚したと聞いている。  よくよく考えてみれば、自由な結婚など許されるわけがない。自分の婿として認められるだけの材料がなければ、男なら誰でもいいというわけではないのだから。だから、自ら身を引いたのだ。上条家という荷物を相手に背負わせたくなくて。  こんな家になど生まれなければよかった。男に生まれていればよかった。それに女に生まれたばかりに、こうもいともたやすく男に痴態を見せてしまっている。それが悔しくて情けなくて、亜紀は天井をぼんやりと見上げながら目に涙を滲ませていた。  すると、男が目の前に横たわり、包み込むように抱きしめてきた。亜紀は抗うこともせず、身を委ねている。自分を抱きしめる腕も、肌から伝うぬくもりも、それらは望んだものではない。しかし、受け入れざるを得ない状況なだけに、それらを拒むことができなかった。  だが、背中を優しく撫でる手の動きは、不快に思わなかった。むしろ、背中をなでられているうちに、ささくれだった心が鎮まっていく。そんな自分に亜紀は驚いた。  それだけじゃなく、不思議に思ったことがある。それは、その手の動きに覚えがあったからだった。この男とは初めて顔を合わせたはずだ。それなのに懐かしさを覚えてしまうのはなぜだろう。亜紀が記憶をたぐり寄せようとしたとき、男の声がそれを遮った。 「……済まなかった。気が急いてしまって」  男の声には、わずかに後悔が滲んでいた。亜紀は、返事をすることなく黙り込んでいる。 「気が進まない縁談なのは百も承知している。だが今回の話を断れば、次回はもっと強硬な手段を取られてしまうのは明らかだ。だから、俺で手を打ってくれ。必ずあなたを―――― 「……もう、いいわ」  男が言い終わるのを待たず、亜紀は遮った。そのとき、背中を撫でていた手の動きがぴたりと止まる。亜紀はそっと目を閉じた。 「もう、どうでもいいの。この結婚は決まったも同然なんでしょうし。でも、ひとつだけ言わせて。キスは、絶対しないで」  子供を産むため、行為は欠かせない。子供を産むためだと思えば、好きでもない相手に抱かれることも我慢できよう。だが口付けだけは、どうしても受け入れ難かった。それを許してしまったら最後、愛した男との思い出が塗り替えられてしまうような気がしたからだった。亜紀が告げると、男は黙り込んだ。背中には、まだ大きな手が添えられている。服越しに伝う熱が、どうしてか罪悪感を抱かせた。 「……分かった」  地を這うような低い声だった。男が納得していないのは明らかだった。しかし、考えてみれば彼だって、家同士の繋がりの為の結婚を受け入れざるを得ない状況だ。それならば、自分と同じように割り切ってくれるに違いないし、むしろそちらの方が気が楽だ。  二人の間には愛情など必要ない。それに、それを示すような行為はむしろ邪魔なだけだ。そう結論付けたあと、亜紀は男の胸に体をすり寄せた。すると、それまで背中に置かれていた手が、迷うことなくファスナーを引き下げた。  亜紀が同意してからの、男の行動は早かった。  着ていたワンピースを器用に脱がせたあと、下着だけになった亜紀の体に覆いかぶさり、ほっそりとした首筋に顔を埋めている。くびれた腰に添えられていた手は、体のラインに沿って撫でていた。  不遜ともとれる言動を繰り返していた割には、体に触れる手つきはとても優しかった。丁寧ともいえる愛撫を施されているうちに、愛されているような気になってくる。いっそ先ほどまでのように、強引にしてくれたらいいのにと亜紀は思う。そうすれば、これがただの生殖行為だと割り切れるのに。  亜紀の心は、次第に振り子のように揺れ始めた。それとともに、肌に触れる唇と指の動きがもどかしくなってきた。亜紀は僅かに開いた唇を手で覆い隠す。そうしていなければ、吐息と声が漏れてしまいそうだからだ。しかし男の唇と指は、ゆっくりとそして的確に淡い快感を白い肌に刻んでいく。  既に敏感な部分で絶頂に達し、その余韻が冷めやらぬうちにもたらされる快感は、淡いものではなくなっていた。現に鎮まったはずの火照りと疼きは、とうの昔に体の芯に蘇っている。その証拠に、秘めやかな場所から温かいものがにじみ出ていた。  熱を持ったところから、とろりと愛液がこぼれるたびに、亜紀は身もだえていた。肌を這う唇の感触や指の動きに、心ならずも感じ入っていることに戸惑いを感じながら。  そして両の乳房を救い上げられ、ふっくら盛り上がった胸元に唇を押し付けられた。そのとき気が緩んでいたのか、不覚にも声を漏らしてしまった。 「ん……っ」  とっさに口を閉ざしたせいで、声は抑えられた。その代わり、甘えるような声が鼻から漏れてしまい、亜紀は羞恥に耐えきれず顔を赤らめる。  たかだか肌に吸い付かれているだけで、このような反応を示してしまっていることが恥ずかしくてたまらない。しかし、抑え込んでいた声を漏らしてしまうと、その後は歯止めが利かなくなってしまい、自然と漏れてしまう。吐息とともに漏れだす声を抑えようとすればするほど、声の艶はいや増していった。  やはり、この男は女に慣れている。そう実感したとき、急に虚しくなった。だが、思いを交わし合った恋人とのセックスよりも、体は喜びの声を上げている。それが虚しさを更に助長させていく。  揉みしだかれている乳房は、大きな手の動きによって形を変えている。先端の小さな尖りは、触れられることを待ちわびているかのように、ふっくらと立ち上がりかけていた。時折そこをいたずらに触れられるたび、じんと疼きにも似た快感が走り、硬くなっていることを実感させられる。  すると、突然そこが熱くなり、亜紀は思わず声を詰まらせる。男がピンと立ち上がる乳嘴(にゅうし)の根本を淡い色の乳暈(にゅううん)ごと口に含んで、弾力のある舌でしごき始めたからだ。  舌で転がされ、しごかれて、押しつぶされるたび、亜紀の体はびくびくと痙攣する。異なる刺激と快感がより合わさって、鋭い快感となり全身へと広がっていった。  潤んだ瞳を切なげに細め、開いた唇から嬌声を漏らす姿は、もはや快楽に打ち震えている姿としか思えない。口を押さえる指の隙間からは、途切れ途切れの吐息に交じってか細く頼りない声が漏れていた。  男は快楽に打ち震える姿を盗み見みながら、ひたすら愛撫を続けている。ひとしきり乳房を弄んだあと、男はふくらみの根本に唇を這わせていった。  男がどこに向かおうとしているのか、そして何をしようとしているのか、まだ亜紀は気付いていない。すっかり息が上がってしまっている彼女には、それを考える力は既に残っていない。くびれた腰をしっかり掴んで、形の良い臍をたどり、男が行き着いた先は薄い茂みに覆われたところだった。  それに亜紀が気付いたのは、今正にそこに男が顔を埋めようとしていたときだった。気付いたときにはもはや手遅れで、しっかりと腿を抱えられている。どうにか逃げようと、腰を引いたが無駄だった。  男がためらいもせずにそこに顔を近づける。秘所を覆う茂みに呼気が掛かった。亜紀は無意識のうちに体を竦ませる。 「あ……っ」  亜紀はとっさにシーツを握りしめた。それまでの愛撫によって更に敏感になったところを舐められたとき、そこから伝うざらりとした舌の感触のせいで、腰から力が抜けていった。  絶え間なく滲みだす淫蜜のせいでぬかるんだところが、ひくひくと切なく蠢き出す。そこを舐め上げられるたびに、粘ついた音が立ち上がった。それだけでなく、愛液を啜る音さえ耳に入り、やるせない気持ちにさせられた。  しかし、体は正直だ。絶頂に達した体は、重ね重ね与えられる快感をたやすく受け入れる。だらしなく両脚を開き、更なる快楽をねだるように秘所を押し付けながら腰を揺らす自分が、なんとも濫(みだ)りがましく思えてきて、恥ずかしかった。  亜紀の意に反して、男は執拗にそこを舐め続けている。形に添って舐め上げていた舌先が、絶えずひくつくところに差し込まれた瞬間、亜紀は腰をくねらせた。 「いや……っ!」  亜紀が涙目で訴えても、男は容赦なく責めを繰り返す。尖った舌先を花芯の奥へと差し込み、抜き差しし始めた。それに伴い、ぷっくりと膨らんだ淫芽を鼻先で刺激する。さらに、狙ったかのように埋めた顔を揺らすものだから、快感が押し寄せてきた。亜紀はひっきりなしに喘ぎを漏らし、体をのたうたせる。  亜紀は混乱していた。たった一人にしか体を許していない彼女にとって、強烈な快楽は恐怖の対象だった。そこまで乱れたことがないというより、次々と鋭い快感が体を突き抜けるような経験はなかったと言っていい。  勝手に体ががくがくと痙攣する。下肢が力んで、脚がつりそうになっていた。声を出して過ぎた快感を逃がしたいのに、喉が引きつってそれができない。体の内側、それも腰のあたりがむずむずと疼きだし、そこから熱がぐっとせり上がってくる。  もう少しで達しそうになったとき、何を思ったのか男がそこから顔を離した。形のいい唇はすっかり濡れており、覗いている舌先からは細く透明な糸ができていた。男は唇を赤い舌で舐めたあと、膨れ上がった淫芽に唇を押し付けながら、濡れそぼつ花弁の真ん中に指を差し入れた。 「ああ……っ!!」  亜紀は背をのけぞらした。男の指を飲み込んだところが、ひくりと収斂しながらそれを締め上げる。そのせいで、指の圧迫感と異物感が伝ってきた。  浅いところを音を立てられながらすられ、淫芽を舌と唇で嬲られて、絶頂へと向かいそうになる。しかし、そこに至るような決定的な快感を得られていなかった。  大きく開いた脚がぶるぶると小刻みに震えだした。シーツをつま先でぎゅっと踏みしめると、波のようなしわが出来上がる。 「だ、め……、お願い……。もう……」  自然と口から漏れた言葉は、余りにも濫(みだ)りがましいものだった。しかし、そんなことなどどうでもいい。胎の奥に生まれた熱と疼きを鎮められるのは、ただひとつ。それをみっちり埋め込んでほしかった。  しかし男は、淫芽の表面を舌で突きながら、奥の感触を確かめるように指の抜き差しを繰り返している。じんじんと疼く淫芽の真下に当たったとき、亜紀は今度こそ明確に拒絶の言葉を口走る。 「い……や……っ!!」  だが、抗いの声も虚しく、男はそのあたりを軽く引っかきながら、淫芽を吸いながらそこに歯を立てる。そのとき、体の内側で熱と疼きが一気に膨れ上がった。それに呼応し、た膣内(なか)が収縮を繰り返す。男の指を締め付けたことにより、快感がそこから広がっていく。それは鋭いものではなく、深いものだった。亜紀は未知の快感に恐れをなしてしまい、脚をじたばたとさせて逃げ出そうとする。 「やめ……てっ! いやっ、怖……い!」  全身で抗う亜紀の目には、涙が滲んでいる。だが、男は責めの手を緩めなかった。はち切れんばかりに膨らんだ淫芽を舌先で押し潰しながら、執拗なまでにそこだけを摩り続ける。絶頂の気配がじりじりと迫り、体が勝手に戦慄(わなな)いた、その直後。  鋭い快感と深い快感が混ざり合ったものが、体を一気に突き抜けた。そのとき、体は勝手に跳ね上がり、肌から汗が一気に噴き出した。快感の衝撃が余りにも強すぎて、息をするのもままならなかった。亜紀は上気させた顔を苦しそうに歪めながら、はくはくと喘いでいた。  すると、男が体をゆっくり起こし、膝立ちになった。開いた両脚で絶頂に達し震える脚を押さえつけ、亜紀を見下ろしながらベルトを手早く外し始めた。金属同士がぶつかり合う音。そしてファスナーが下ろされる音が耳に入ってきた。けれど、もはやどうでもいい。亜紀は手足をベッドに投げ出したまま、視線をさ迷わせている。  噴き出した汗のせいで肌はしっとりと濡れている。大きく上下しているふくらみの先端は、ピンとそそり立っていた。その姿を、男はうっとりとした顔で見下ろしている。  男の体は、見事に引き締まっていた。男らしさを感じさせる逞しさに満ちあふれ、色気さえ漂わせている。そして股間のものは茂みの中から猛々しくそそり立っていた。つるりとした先端からは先走りが滲んでいて、根元から先端に向かって太い筋が浮かび上がっている。それを手で支え持ちながら、男は亜紀の脚の間に体を割り込ませた。先走りの雫が光る先端を、しとどに濡れて柔らかくなった花弁に押し当てる。  亜紀は、熱く疼いている場所に、ひたりと当てられたものに気が付いた。それはゆっくりと膣内(なか)へ入り込んでくる。幾ら男の愛撫によって解されたとはいえ、四年ぶりとなる交合に変わりはない。自然と体がこわばってくる。  もどかしいほどゆっくりとした動きで、怒張は入り込んできた。異物感と圧迫感、そして熱杭でも穿たれたようなじりじりとした痛みが広がり、亜紀は顔を歪ませながら耐えていた。  久しぶりに男を受け入れた狭い隘路(あいろ)は、それを飲み込みながらも容赦なく締め付けた。男の顔が苦しげなものへと変わる。 「これだけ濡れているのに、まだ狭いな。もしかして男を受け入れたのは久しぶりなのか?」  男に問われたが、亜紀は答えなかった。痛みや圧迫感、そして異物感、それらをやり過ごせるほど、彼女の体は解れていない。肉体的には男を受け入れられるほど解れていても、心が受け入れることを頑なに拒んでいるようで、それが体をこわ張らせている原因となっていた。  男は声を詰まらせながら、浅いところを抜き差しし始めた。そこが力が入っているせいで、男のものを容赦なく締め上げてしまう。それが男を苛んでいるようで、時折声が漏れていた。  ゆるゆると緩やかな抜き差しをされているうちに、体に馴染んできたらしい。奥から淫蜜が染み出し、そのせいで粘着質な水音が立ち上がる。滑りが良くなってきたからなのか、男のものは少しずつ奥へと入り込んできた。  絶頂の余韻が鎮まったと同時に、ずっと満たされないままになっていた疼きが再燃した。奥へと進む男根を、熱く熟れた柔肉が挟み込む。子種を搾り取ろうとするように蠢き出し、更に締め上げた。すると、男が荒い息を吐きながら、掠れた声を漏らす。 「ああ、頼むからそんなに締め付けるな。すぐに果ててしまうから……」  熱がこもった声だった。その声が耳に入ったとき、胎の奥が切なく疼いた。子宮を締め付けられるような痛みがやがて疼きになって、そこから腰全体へと広がっていく。  締め付けに耐えきれなくなったのか、男が亜紀の体に覆いかぶさった。それまで緩やかだった抜き差しが、少しずつ激しくなってきた。その動きに合わせて、吐息と声が漏れる。  やがて、胎の奥がじんわりと温かくなってきて、腰を穿たれる動きがもどかしくなってきた。接している場所がひくひくと小刻みに痙攣し始める。再び絶頂へと駆けあがろうとしたそのとき、急に抱きしめられた。 「行かせてやる。お前が本当に自由になれる場所へ。だから……」  男は苦しそうに告げた。亜紀は迫りくる快楽の波にのまれそうになり、男の体にしがみ付いた。亜紀の耳に男は唇を寄せる。 「俺と結婚しろ、亜紀。そうすれば連れて行ってやる。お前がお前らしくいられるところに」  男はそう言うや、抜き差しを激しくさせた。すると、体の奥から快感が一斉に湧き上がり、その熱と疼きに飲み込まれ、亜紀は再び絶頂へと押し上げられた。
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