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第6話

すると突然、鏡夜が席を立ったかと思うと私の方へつかつかとやってきた。 そしてそのまま、私の腕を掴んで席を立たせると、 「今日はもうお開きだ」 それだけを告げて、私を引きずってこの場から連れ出そうとした。 「ちょ、痛いっ」 そのとき、ガシャンと食器の割る音が響いた。 思わず、鏡夜の足が止まる。 音の方向へ顔を向けると、美織が苦しそうに胸を抑え、今にも倒れ込みそうになっていた。 彼女に発作が起きたのだと理解すると同時に、私の腕を強く掴んでいた鏡夜の手があっさりと離れる。 じんじんと二の腕の痛みだけを残して、彼は美織に駆け寄った。 その様子を、ぽすんと床に座り込みながら眺めていた私の姿は、きっと滑稽だったに違いない。 赤い痕のついた二の腕を擦りながら、私は心がじくじくと痛むのには気づかないふりをしていた。 きっと気のせいなんだ。 だって、彼は初めから美織のもの。 だって、彼は私に酷いことしかしてこない。 それなのに、寂しいなんて思ってしまうのは。 掴まれた二の腕の痛みが恋しいなんて。 そんなのは、きっと私の気のせいなんだ。 与えられた部屋に戻ると、雑然とした室内を見渡してはたと気づいた。 「そっか、私この部屋でちゃんと眠ったことなかったんだっけ」 夜になれば鏡夜から呼び出しをうけ、毎夜彼の部屋で抱かれるのだ。 部屋を追い出され、自室に戻ったところで満足に眠れるわけもなかった。 また、本郷家に連れてこられたときの荷物もまだきちんと片付けられてはいなかった。 もしかしたら、片付けたくなかったのかもしれない。 片付けて落ち着いてしまえば、ここが自分の居場所だと錯覚してしまいそうだったから。 本当は、ただ一時の仮住まいに過ぎないのに。 ぼすっとベッドに寝転がって瞼を落とすと、先ほどの光景が否応なしに蘇ってくる。 発作を起こした美織に駆け寄る鏡夜の表情は、どこか焦っていたように見えた。 実際に焦っていたのだろう。 だって、鏡夜は美織を愛しているのだから。 今日、初めて二人でいる姿を実際に目にして嫌というほど思い知らされた。 あぁ、この二人が結婚するんだなって。 顔は整っているものの、どこか冷たく鋭い印象のする鏡夜と、ふんわりとした空気を纏った美織はとてもお似合いの二人だった。 そのことがどうしても寂しかった。 どうしてだろう? どうして私の心はこんなにも疼いているんだろう。 まさか、とは思うけれど。 私は鏡夜のことを……。 いいや、これ以上は考えない。 考えたくない。 だって、そんなはずはないもの。 私が鏡夜のことを、なんて。 認めたくない。 認められない。 認めてしまったら、私はきっともうここには居られなくなるから。 彼の子を美織に渡すなんて、とてもじゃないけれど……出来やしない。 ただ今だけは、あと少しの間だけは、彼の少し意地悪で横暴な熱だけを感じさせて。 心までは欲しやしないから。
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