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Escort You

「RTしたフォロワーを自分の世界観の小説のキャラにする」で、しんくさんからいただいた「デスマーチと銀の弾丸」に登場しそうなキャラで思い浮かんだエピソードです。 ちなみにしんくさんからいただいたキャラは「法務部の美魔女。契約書の作成からアメリカ本社との折衝まで、幅広く取り仕切り辣腕を振るう。高嶺の花として社内の男性陣から遠巻きで熱い視線を注がれていたが、ある日突然アメリカ本社のマネージャーと電撃結婚。現在は、日米を行き来しながら変則勤務中。」というものでした。 《登場人物》 峰岸 希和 (みねぎし きわ) 31歳 外資系企業の法務部で働いている。英語・フランス語を話すことができる。現在中国語のレッスンを受講中。 ルーカス・クロフォード 38歳 希和が勤務している会社のアメリカ本社勤務。やり手のプロジェクトマネージャー。 「パーティに限らず、これから先ずっとキワをエスコートしたいし、させてほしい」  そう言ってルークは、パーティ帰りの車の中で真剣な目を私に向けた。アメリカ本社の敏腕マネージャーであるルークは、常に冷静で誰に対しても厳しい要求を突きつける男だ。そのような彼から求婚ともとれる言葉を突然掛けられて、私は今非常に驚いている。  二日前アメリカ本社へ出張で来たけれど、全ての仕事が終わったとき親しいスタッフから今夜のパーティに誘われた。パーティと言ってもアットホームなパーティだからと言われ、気楽な気持ちで参加したら、いきなりルークが現れて「エスコートさせて」と言われたのだ。  彼のエスコートは完璧だった。まるで恋人のように親しげだけど、厚かましくない程度だ。その距離感が心地よくて、気づけばパーティは終わっていた。そしてエスコートを務めてくれたルークに別れを告げようとしたとき、こう言われたのだ。 「キワをホテルに送り届けるまでが私の仕事。送っていくよ」  紳士的な誘いをむげに断ることも出来なくて、アルコールを口にしていない彼の車に乗り込んだ。そしてホテルの前に到着したとき名残惜しさを感じたけれど、ありがとうとさよならを告げた。すると突然求婚の言葉を告げられたのだ。予期せぬ展開に頭がついて行けなくて、向けられた黒い瞳を見つめ返すことしかできない。彼は真剣な表情を浮かべて、私の返事を待っている。  なぜ彼が私に求婚しているのか分らない。だって顔を合わせても、仕事の話しかしたことがないからだ。とはいえ、彼と顔を合わせる機会なんて、さほど多くはなかったけれど。彼は仕事で世界中を駆け回る男だ。仕事で日本に来たとしても、用事をさっさと片付けてすぐに機上の人となってしまう。そんな彼からのプロポーズに私はなんと返事をしたらいいのだろう。心の中で迷いながら彼の理知的な顔を見ていると、いつもと同じように自信に満ちた表情を浮かべていた。濡れたような艶を放つ黒い髪と私を見つめる黒い目は、日本人であるおばあさまからのギフトだと彼は話していた。  そういえば彼は教えてくれた。彼の祖母は先の大戦が始まったとき、敵国であったアメリカにいたことを。そして彼の祖父と出会い結婚したが、日本人であるがゆえとても辛い状況に立たされたということも。 「どんなに辛い状況にあっても、祖母は祖父を愛していたから決して側から離れなかった。祖父だって祖母をとても愛していたから、盾になって守ったと聞かされている。私はそんな祖父母をとても誇りに思っているし、祖父母のような夫婦になりたいと思ってるんだ」 (あ……。あれってもしかして……)  その話をしながら彼は隣のシートに座っていた私を熱っぽく見つめていた。そのときの事を思い出した途端全身が一気に熱くなる。ものすごい勢いで心臓が脈打った。  あれは半年前のこと。日本での仕事を終えたルークとともにアメリカ本社へ行ったときのことだ。都合良く彼の帰国と私のアメリカ本社出張が重なったのだ。そして普通の飛行機ではなく、チャーター機でアメリカに向かうことになったのだが、その間彼は自身のことを話していた。彼はプライベートなことを、誰にでも話す男ではないと聞いている。そんな彼がなぜ祖父母の話や両親のロマンスを話してくれるのかその理由が分らなかった。  そのときの彼は普段の彼とは明らかに異なっていた。普段の彼は仕立てがいいダークカラーのスーツを一分の隙もないほど見事に着こなして、冷静を絵に描いたような男だ。それに滅多なことでは表情を崩さない。笑みを見せるときもあるようだが、ビジネスライクな作ったような笑顔。それでもいいから、その笑顔を向けて欲しいと言ってはばからないスタッフも多いらしい。それなのにそのときの彼は優しい笑みを浮かべているだけでなく、ジョークを交えながら祖父母や両親の話をし続けていた。そのときのことを振り返っていると、ルークが私の手を包み込むようにしながら持ち上げて、形のいい唇に近づけた。 「キワ、私は決して清廉潔白な男ではない。だけどあなたの前では誠実な男でありたいし、そのための努力は決して怠らない。だから私と結婚してほしい」  聞き惚れてしまいそうなほど魅力的な声でそう言われたら、何も考えずに頷いてしまいそうだ。落ち着いた低い声はするりと耳に入り込んできて、あっけないほど簡単に思考を溶かしていく。だめだ、冷静にならなくちゃ。そう自分自身に言い聞かせていると、予期せぬ出来事が起きた。彼が私を見つめながら、指に唇をやんわりと押しつけてきたのだ。  指先へのキスは賞賛。そして彼は私の指を口に含んだ。シャンパンベージュのネイルを施した指先が、濡れた口内に入り込んだ。そして肉厚の舌で指先をねろりと舐められたとき、体がぶるりと震えてしまい声を漏らしてしまった。 「ん……っ」  声を漏らしてしまったことが恥ずかしくて目を閉じようとした、そのとき。彼の唇が指から手の甲に移る。手の甲へのキスは敬愛だ。そして持ち替えて手のひらにキスをする。手のひらへのキスは懇願。ルークは手のひらにキスしながら、何かを求めているような瞳を私に向けている。手のひらに彼の熱い息がかかる。弾力のある唇が手のひらに押しつけられるたび、体が熱を帯びていく。彼から目を離せずに見つめていると、今度は手首にキスされた。手首へのキスは、欲望を表している。そのとき薄い皮膚に濡れたものが触れた。彼がそこを舌先で執拗になぞる。 「あっ……」  舐められて濡れた場所がひんやりとする。彼は私の腕を支えながら、舌先を滑らせていた。肘の内側にたどりついた彼は、薄い皮膚に唇を押しつける。そして急に抱きしめられた。一瞬の出来事に頭の中が真っ白になる。 「ここからどうしようかな……」 「え……?」  彼の低い声が温かい息とともに耳に掛かる。言葉の意味が分らずじっとしていると、彼が悩ましげなため息を吐き出した。 「プロポーズの返事を聞きたいところだが、それよりも今は……」 「今、は?」 「キワのかわいい唇にキスしたい。だけど嫌なら諦める」  そう言ってルークは私の体をより一層強い力で抱きしめた。だが求婚よりキスより先に確かめたいことがあるから、声を振り絞り彼に問いかけた。 「あ、あのっ、ルーク……」 「どうした?」 「プ、プロポーズっていうのはお付き合いをした先にするもの、よね? この認識は合ってる?」 「夫婦と恋人はイコールじゃないのか? どちらも最愛の人だろう?」 「そっ、その前に、私達なにもお互いのことを知らないし……」 「結婚したあと一つずつ知ればいい。きっと毎日が新鮮だ」 「じゃ、じゃあ仮に結婚したとしたら、私達どこに住むの?」 「結婚してくれるのか?」 「だっ、だからそこは仮に! 仮定だから!」 「アメリカに住めばいい。ニューヨークとロサンゼルスに家がある。どちらもプール付きだ」 「ということは、仕事やめなきゃならないの?」  ルークがピタリと動きを止めた。それまで間髪おかずに切り返していたのに、何も応えない。 「私、今の仕事好きなの。誇りも持ってる。だからやめたくないの……」  ルークは私を抱きしめたまま黙り込んだ。大学を卒業し入社したところは、とても働きがいのある会社だった。働きながらスキルを磨くことができるし、やった分だけちゃんと評価される。それに女だからと言われることがないし、女であることがハンディキャップになることはない。ただしアメリカ本社とやりとりするときは、時差に苦しむことがあるけれど、それでも今の法務という裏方でみんなを支えているのだという自負があるからこそやっていける。それを奪われたくない。たとえ多少なりとも好意を抱いている男であってもだ。  ルークからの求婚に驚きはしたけれど、嬉しかった。祖父母や両親の話をしてくれたときのルークに、ほのかな恋心を抱いたのは事実だ。こんなに自分の家族を誇りに思える男性を、好きにならないはずがない。こんな人とならば、きっと素敵な家族になれるだろうなと思っていたから。でも私には決して捨てられないものがあるのも事実だ。求婚してくれたルークに申し訳ない気持ちでいると、彼がゆっくりと体を離した。 「じゃあ、そこをクリアしたら結婚できるってことだね?」 「え?」 「だって今の仕事を辞めたくないんだろう? ならば方法を考えるよ」  そう言ってルークは自信に満ちた笑顔を私に見せたのだった。
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