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reborn

|淫魔《サキュバス》だからといって、はじめから淫らで手練手管に長けている訳じゃない。 それなのに目の前にいる男は、期待に満ちた目を私に向けている。心の中で舌打ちしながら私を見ている男をにらみ返すと、すぐ側に控えていたロザリンド師に咎められた。 「シェリ。怒りのオーラが出ていますよ」 たおやかな声がして、渋々ながらも怒りを鎮めようとした。幾ら嫌だと思っても受け入れざるを得ない理由がある以上、現実を受け入れなくてはならないのだ。だからこれが生まれたときから定められた運命なのだと言い聞かせた。 「おい、ロザリンド。早くこいつをどうにかしろ。このままでは何もできんぞ?」 「畏まりました、王よ。では、早速……」 長い黒髪を面倒くさげにかき上げながら男が言う。そのあとすぐに師はそれに頷いて、私が着ている服を脱がせようと白い指先を伸ばしてきた。細い指先が服というには、余りにも薄っぺらい布地に触れようとしたとき、私は無意識のうちに後ずさりしてしまう。すると肉感的な肢体を惜しげもなく晒しているロザリンド師が、愁いを帯びたため息を漏らした。 「シェリ、おとなしくなさい。あなたは淫魔王の娘。つまり次代の―――― 「分かりました! 分かりましたから!」 そう、今向かい合っている男は魔王で、私は淫魔王の娘だ。付き添いの師に諭されてしまい、半ばやけっぱちのように言い放った直後、着ているものが一瞬のうちに消えうせた。 「いつまで待たせるつもりだ。そうこうしている間に夜が明けるぞ」 明らかにいら立ちが滲んだ声がして魔王を見ると、険しい顔して私に近づいていた。物凄い威圧感と迫力を目の当たりにしてしまい、蛇に睨まれたカエルさながらその場から動けなくなってしまう。そればかりか、本能的な恐れを感じているからか、体がぶるぶると小刻みに震え始めた。全身から熱が消えていく。じわりと肌から冷たい汗が噴き出した。 無数の傷を体中に負った男が目の前まで迫ってきた。獣のように四つんばいになりながら近づくごとに、濡れたような艶を放つ長い黒髪が逞しい肩から滑り落ちていく。男であっても女であっても、この男に見つめられたら最後、魂まで奪われるほどの美貌を持つ魔王。向けられた黒い瞳から目をそらせなかった。 「いいか? お前が次代の淫魔王になるには、俺の魔力とお前の魔力を交わらせないとならないということを忘れるな」 敢えて声を抑えているのだろう。だがはっきりと怒気が滲んでいる。堕天した男は混沌の中にあった魔族を次々と制圧し魔王となった。そして制圧された魔族の中に淫魔の一族も含まれていて、そのとき一つの約束が交わされた。 それは次代の淫魔王を魔王の妃にすることだった。そしてそのために、淫魔王の力は生まれたときに封じ込められていて、魔王と魔力の交換をしなければ淫魔王の力は目覚めない。魔力の交換、それは男女の交わりだ。今宵女になった瞬間私は淫魔の王になる。だけど――――。 「いっ、淫魔王になんかなりたくないもん……」 引くつく喉から振り絞った声は思いのほか震えていた。淫魔に生まれたくて生まれた訳じゃないし、淫魔王になんかなりたくない。思う男に抱かれることを嬉しく思わない訳じゃないけれど、そこに愛情がないのに抱かれることが嫌だったのだ。 淫魔だって誰かに恋するし、一人の女として愛されたい。それなのに目の前にいる男はそのことを知らずに、淫魔王の力を解放するだけのために抱こうとしている。できることなら今すぐこの場から逃げ出したい。淫魔になどならず、人界へ降りて一人でひっそり生きていたい。ただ一人の男だけを思いながら。 「淫魔になりたくない、だと?」 地を這うような低い声。ハッとして向けられている目を見ると、黒い目が金色になっていた。怒りが頂点に達したとき魔王の目は金色に変わる。垂れていたはずの長い黒髪が、意志を持った生き物のようにゆらりと逆立ちかけていた。それを目にした直後本能的に怯んでしまい、無意識のうちに後ずさっていた。 だが逃げようとしていると思ったのか、すぐさま強い力で腕をとられてしまい、そのままがっしりとした腕の中に囲われてしまう。目に入った男の体に刻まれている古傷が、ほのかに赤みを帯びていた。 「淫魔にならないなら、お前を殺す。今すぐに」 うなり声ともつかぬ声だった。その上肩に爪を立てられる。ぎりっと鋭い痛みを感じた。体から力が抜けていく。それだけでなく、熱が奪われていくと同時に意識が朦朧とし始めた。死ぬんだ、私。薄れゆく意識のままそう思ったとき、ロザリンド師の声が遠くの方から聞こえてきた。 「おやめください! このままではシェリが死んでしまう!」 「ロザリンド、下がれ。もうよい。我が物にならぬなら、いっそこのまま殺してやる」 私を抱きしめる腕が熱い。ものすごい勢いで熱を奪われているのがはっきり分かる。好きな人の腕の中で死ねるなら、それもいいかと思ったとき、頬に熱いものが落ちてきた。そのせいで沈みかけていた意識がつかの間はっきりして、輪郭を失った魔王の姿が目に入った。 「シェリ、言え。淫魔になると」 体を揺さぶられ問われたけれど、声が思うように出せないから頷きで返した。すると金色だった目が黒に戻ったばかりか、険しかった表情がみるみるうちに思いつめたものになっていく。そして黒翡翠を思わせる黒い瞳は潤んでいた。 「このままでは死ぬぞ。それでもいいのか?」 なぜそのような表情をするんだろう。なぜ涙を浮かべているのだろう。魔王にとって私など、取るに足りぬ存在なのに。私が淫魔王にならなくたって妹たちがいるし、私が死んだあとは妹を抱いて淫魔王にすればいい。そう思いながら、次第に重くなりゆく瞼をゆっくりと閉じた。 腕に抱いたシェリの体がどんどん冷たくなってきた。淫魔王になどなりたくないと言ったことが許せなくて、怒りのままに魔力を吸い取ったからだ。 (なぜ、淫魔王になることを拒む。淫魔王になれば俺の隣に堂々と並べるのに) 今にも息絶えようとしているシェリ。見上げている銀色の目がどんどん細くなってきた。それと同時に白くなよやかな腕が力を失い、くったりと落ちていく。長い長い銀色の髪からみるみるうちに艶が消えうせた。 ずっと好きだった。彼女が幼いころからずっとこのときを待っていた。それなのになぜシェリはそれを拒むのだろう。それを聞きたいところだが、シェリは何も答えてくれないまま死のうとしている。彼女の命の灯が細くなっていくのをひしひしと感じているとき、背後で女の声がした。 「王よ、よろしいか?」 シェリが淫魔王となった姿を見届ける役目であるロザリンド師の声だった。師はシェリの乳母でもあり、育ての母親ともいえる存在だ。そして今宵のために彼女に房術を授けた師でもある。 愛弟子が今にも死に絶えようとしていることに、耐えきれなくなったのだろう。肉の塊に成り行く愛しい女の体を抱いたまま振り返ると、寝台の側で控えていた師が美しい顔を陰らせ目を伏せた。そしてため息を吐き出したあと、憎々しげににらみ付けながら濡れたような艶を放つ赤い唇をゆっくりと開く。 「ぬしさえはっきり言ってくれたなら、シェリは喜んで抱かれたはず」 「どういうことだ?」 飛び出た言葉の意味が分からず慌てて師に問うた。するときっと睨まれてしまい、その直後体が全く動かなくなった。全ての魔族の母であるリリスの娘である師の力は強大だ。楽園を去ったリリスは夜の女神となって、闇に潜むものを生み出し、それが魔族と呼ばれている。そしてそのリリスの娘は淫魔王の後見をずっと務めていた。 その師の紫色の目が金色に変わった。闇夜のごとき漆黒の髪がゆらりと逆立ち、その怒りの度合いが伝わってくる。何がまずかったというのだ。それを教えてくれないと何も分からないし、シェリがなぜ淫魔王になるのを拒んでいるのか分からない。それを問いたいが体が動かないばかりか声も出せなかった。 「シェリはぬしが城にやって来る度、喜んで出迎えたであろう? それを見て何も感じなかったのか?」 師がゆっくりと立ち上がる。肉感的な白い肢体が現れた。師は未だつぼみのままのシェリの体を熟れさせる手助けをするという役目もあるから、衣装を身に着けていない。鷲掴みにして揉みしだきたくなるほど美しい曲線を描く乳房。引き寄せたくなるほど細いくびれ。むっちりと張った尻へと続く滑らかなライン。あらゆる種族の男を惑わす肢体が迫ってきた。 「まあ、それが分かっていたならばこのような失態はおかさぬよのう。シェリが生まれた直後から、あれやこれやと用事を作っては、城にやってきた理由を|妾《わたし》が知らぬとでも思うてか?」 ほっそりとした冷たい指が顎に掛けられ持ち上げられた。目だけは辛うじて動かせたから、目の前に立っている師を上目にして見上げると、背筋が震えるほどの艶麗な笑みを浮かべながら見下ろされていた。 「シェリが淫魔王になるのを拒んだのは、取り決めによってお前に抱かれることが嫌だったのだ。ただ淫魔王の力を引き出すためにだけ抱かれることがな」 凍り付くほど冷たい視線を浴びせられ、告げられた言葉は衝撃以外何物でもなかった。だがそれを今分かったところで、どうしたらいいのだ。魔力が尽きたシェリは瀕死の状態で、奪った魔力を戻すには交わらなければならない。しかもそれは相手が生きたいと願うことが不可欠で、今のシェリはそれを願ってなどいない。一方的に魔力を送り続ければ命は助かる。だが心は死んだままで、それだと生き返させる意味がない。屈託のない笑顔のシェリに戻すことができないのであれば、いっそこのまま……。 「今ならまだ間に合うぞ」 師の声が頭上から聞こえてきて我に返った。目線だけを上げると、師が思わせぶりな笑み浮かべている。どういうことか分からず、見つめ返すと、顎を持ち上げていた指がすっと離れていった。その直後それまで石のように硬直していた体が自由を取り戻した。 「シェリの命の灯が完全に消えてしまう前に淫魔王の力を解放すれば、失った魔力以上のものが蘇る。だが肝心なのはそのあとだ。思いの丈を伝えて、シェリの心を蘇らせなければならない。ぬしにそれができるか?」 俺は迷うことなく頷いた。するとすぐさま師が膝立ちになり、俺が抱きしめているシェリに腕を伸ばす。彼女の体を師に預けると、師はシェリの体を背後から抱きかかえ、彼女の頭を優しく撫で始めた。そして何やらぶつぶつと呟き始めたかと思いきや、小ぶりな乳房を背後から両手でそっと持ち上げた。 「まだまだ硬いのう……」 師は優しい笑みを浮かべながら解すように揉み始めた。白いふくらみが徐々に柔らかくなり始めたのか、その形を変えていく。それとともに|頂《いただき》が赤く色づき始め、芯を持ったようにふっくらと立ち上がった。それに気が付いたようで、華奢な指先でそこを転がすように撫でていく。それを眺めていると、それまで何の反応も示さなかったシェリの体が、もじもじと動き始めた。 「|妾《わたし》が教えた通りに反応する。|愛《う》い娘だ」 嬉しそうな笑みを見たとき、妙に腹立たしかった。だがそれよりも腹立たしいのは、師の愛撫によってシェリの白い体が少しずつ上気し始めたことだった。声こそ漏れていないけれど、体を捩る動きがどんどん大きくなっている。そして無表情だった顔が切なげに歪み始めていた。 「そろそろ、こちらを解すとするか」 右の乳房を弄っていた手がするすると迷うことなく下腹へ下りる。そして力が抜けてわずかに開いている両脚の付け根に潜り込んだ。そこを覆うものが全くないせいで、白い指先が赤く色づいているところを行き来するのが丸見えだ。 しばらくすると粘ついた水音が聞こえてきたと同時に、甘酸っぱい匂いが立ち込めた。シェリの赤い唇から漏れる息遣いが乱れ始める。快楽を受け入れることが怖いのか、頭を左右に振り始めた。 全身を震わせながら両脚を擦り合わせ身悶えする姿は、興奮を誘うには十分だった。当人の意志に反している姿を眺めているうちに、股間のものが硬く張りつめてきて腰がどうしようもないほど疼く。全身が熱い。からからに渇いた喉を湿らせようと、唾をごくりと嚥下した。目の前で魔法にでもかかったようにシェリがほっそりとした両脚をゆっくりと開いていく。 「程よく濡れておるゆえ、ゆっくりと御身を沈められよ。シェリは乙女。破瓜の痛みは相当のものだがその痛みで淫魔王の力が目覚めるゆえ、すぐに快感に変わる」 快楽の芽を執拗に捏ねられ続けているせいで、シェリのその部分が赤くなっていた。そして引くついている場所からとめどなく透明な粘液が染み出している。師の指がすっと降りて、しとどに濡れそぼつ場所から蜜を指ですくいあげた。その指は糸を引きながら、ふっくら盛り上がった花びらにそれを塗りたくる。シュリの腰が何かをねだるようにくねくねと動き、その動きに合わせて発情している雌の匂いと卑猥な音が立ち上がった。彼女はか細い喘ぎを漏らしながら、体を捩らせ打ち震えている。 その姿に吸い寄せられるように両脚の間に体を割り入れ、潤みを帯びている場所へ猛ったものをゆっくり押し当てた。 強烈な痛みが全身を貫いた直後、全ての感覚が急速に戻ってくる。それまで背後にあったはずの熱が消えていた。混濁していた意識が急激に引き上げられた瞬間、男の姿がはっきりと見えた。苦しそうに顔を歪めていて、荒い息を吐いている。乱れた息とともに聞こえてきたのは、信じられない言葉だった。 「愛してる、シェリ。俺の元に戻ってこい」 熱っぽい瞳に見つめられ、愛の言葉を囁かれ、嬉しくない訳がない。その言葉を聞いたとき、体の奥から、熱いものが勢いよくせり上がってきた。全身に何かが急速に広がっていく。息が苦しい。体が熱い。そして体の芯が溶けてしまいそうなほど強烈な快感が迫ってきた。溶ける、そう思ったときだった。 突然体をぎゅっと抱きしめられてしまい、その痛みのせいで迫りつつあった快感が遠のいていく。そしてそのまま唇を奪われ、肉厚な舌が入り込んできた。引き寄せられるように舌を近付けると、熱い舌に絡めとられた。するとぐっと後頭部を押さえつけられてしまい、より深く口づけられる。 重ねた唇の隙間から漏れる荒い息遣い。抱きしめる逞しい腕。押し付けられている胸は汗で濡れてはいるが、とても熱かった。そして下腹に残る鈍い痛みが、破瓜によるものだと気づいたとき、重ねられていた唇がゆっくりと離れていく。 濡れた唇に掛かった息はすっかり乱れていて、とても熱い。縋るような目を向けられて、切なさに胸が痛んだ。するとじくじくと痛んでいるところが熱くなってきた。その熱は淡い快感へと変化して、それが全身へと飛び散っていく。そして目の前にいる男と今このとき繋がっている悦びが、その淡い快感を深いものに変えていった。それは大きなうねりとなって私の体に襲い掛かる。あられもない声を上げながら、愛しい男にしがみ付くと、それに応えるようにしっかりと抱きしめられた。 体の奥で快感が熱になり大きく膨れ上がってきた。その熱で私を形作るもの全てが輪郭を失い、どろどろに溶けていく。そして熱の塊が弾けた直後、意識も感覚もない真っ白な世界に放り込まれてしまい、一気に高みへと上り詰めた。 強烈な快感が一つになった場所から全身を貫き、雷に打たれたような衝撃が襲いかかる。ピリピリとむず痒い痺れが走り、朦朧としていた意識が徐々に戻ってきた。霞んでいる視界にいる人影が、その輪郭をはっきりとさせていく。その直後ぎゅっと抱きしめられた。 「ぐ……っ」 力が入らない腕を回している体が、びくびくと小刻みに痙攣した。目の前にいる男が獣の唸り声のような声を出し、目を閉じたまま苦悶の表情を浮かべている。体内に埋めこまれたものがぶるりと震えた。その直後胎の奥に熱いものを感じ、思わず声を漏らしてしまっただけでなく身震いしてしまう。 「シェリ……」 荒い息遣いとともに漏れた声はとても甘かった。汗で濡れた体から力抜けていき、私の体に圧し掛かる。全身に感じる重みと、首筋に掛かる熱っぽい呼気。それら全てが愛おしくて、逞しい体をきつく抱きしめた。 「良かった。俺の元に戻ってきてくれて」 体を起こし私の顔を見下ろしながら、嬉しそうな顔をする。そこには先ほどまでの険しさはなかった。 「髪の色が変わってる。それに瞳の色も」 「え?」 重だるい手で長い髪をひと房持って見てみると、確かにそうだった。そういえばロザリンド師も、そのようなことを話していたような気がする。淫魔の王になった瞬間姿かたちが変化するのだと。 「黒い髪と黒い瞳。あと体つきも変わった」 「ど、どんな風に?」 「見たところ胸が一回り以上大きくなった」 「えっ!?」 思いがけない変化に驚き大きな声を出すと、夫となった男は満足げな笑みを浮かべながら、大きくなった胸を柔く揉み始めた。 「ちょ、ちょっと待って! 何やってんのよ!」 胸をやわやわと揉んでいる夫を咎めながらその手を掴むと、彼がにたりと笑う。 「無事に淫魔王になったシェリと夫婦になれたことだし、これからゆっくりじっくり楽しむとするか」 向けられたずる賢そうな笑みを見たとき、彼の妻になったことを少しだけ後悔した。
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