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はじめての、食事

初めて、桐島と食事の約束をした。 知り合って1か月。 冗談のように口説かれてはいたが、カフェで顔を合わせた時に話をするだけの関係だった。 11月最終週の木曜日。午後7時半。 桐島が予約してくれたのは、銀座でも有名なお寿司屋さんだった。 「朱音ちゃん、どうかな?お口には合った?」 「美味しいです。でも、こんな高級なお店じゃなくて良かったのに…」 「ふふふ。男は、好きな女性の前では格好つけていたいものなんですよ。」 初めてのデートなら尚更と、桐島がウインクをして魅せる。 「そう言えば、髪を下ろしている姿をはじめて見たけど、髪の毛綺麗だね。」 仕事帰りはいつも、髪の毛を下ろして帰ってくるが、桐島に見せるのは初めてだった。 「ありがとうございます。一応、気をつかって手入れはしているので…」 朱音の胸元まで伸びた黒髪は、誰が見ても美しく艶やかだ。 「今度僕にもお手入れさせて欲しいな。」 桐島は、ほほ笑みながら朱音に甘えるように首を傾げてみせる。 「桐島さんに?」 「うん。僕、趣味でビューティーサロンを経営しているくらいには、そういう事好きなんだ。」 「え?うそ??」 「ホント。まぁ、僕自身がお世話したいと思うのは、僕のお姫様だけなんだけど。  好きなことには変わりないから…趣味と実益を兼ねてサロンでも始めてみようかなって。  もう3年になるかな。」 「…。」 「そんなに身構えないで。  僕はね、好きな人のことは、全身、爪の先から髪の毛一本残さず、お世話して、愛したいと思うだけなんだよ。」 「それは……」 (何も言えない。) 「ふふふ。その反応は、困らせちゃったね。  でも、朱音ちゃんには早く僕のお姫様になってもらいたいなぁ。」 「そんな、満面の笑みで言われても…」 「自分で言うのもなんだけど、僕、とっても良い男だと思うよ。  浮気しないし、尽くすし、稼ぐし。」 「桐島さんが良い男なのは、十分知っていますよ。  でも私、お姫様ってタイプじゃないし、久しく恋愛から離れていたから…  次に付き合う男性は、余り華やかじゃない、付き合っていて安心できるタイプがいいな。  って思っていて。」 「それなら、問題ないよ。  不安にならないくらい、僕が朱音ちゃんを愛せばいいだけだ。  そして、女性はみんなお姫様だよ。」 「言い切りますね。」 「そりゃあね。  今までの恋人たちに振られた理由が、お世話しすぎて、甘やかしすぎてだし。  朱音ちゃんが、僕を受け入れてくれれば、僕は他の誰よりも朱音ちゃんを愛し、甘やかし、朱音ちゃんにとって優しい存在であることを約束するよ。」 そんなことを面と言われて、素直に甘えられる女なら、とっくに恋人がいる。 朱音は赤く染まった顔を誤魔化すように視線をそらした。 「…ねぇ、桐島さん。まぐろ食べたい。」 桐島は照れている朱音を嬉しそうに見つめ、笑った。 「大将、とびっきり美味しい鮪を彼女に。」
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