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第2話
『今度の日曜日、デートしようか』
それは突然の電話だった。
正義からのラインの返事も遅いし、電話だって必ず互いに出来るわけじゃない。
ましてや、地方にコンサートに行ってしまう時は連絡が取れない時もある。
全力で挑むせいで疲れていると察するのだが、寂しさでそういう時はさくらの方が眠れない。
そんな日に限って、翌日のピアノ教室の生徒は練習不足で苛立ってしまう。
その電話も、二週間近く会えてなかった苛立ちと寂しさのピークに電話が来て言われたのだ。
勿論、正義とのデートは極秘なわけだが。
『正義の家に行っていい?』
『いいよ。それとも、俺がそっちに行く?』
『私が行く。早く会いたいから、帰ってくるの、部屋で待ってるね』
正義から貰った合鍵を使って入ることも出来るし、好きに行けばいいのだが、相手が純真さを売りにしている歌のお兄さんとあって、さくらも誘われない限りはあまり迂闊には行けなかった。
『その日はさくらを思う存分抱きしめられる』
不意の言葉に、さくらは言葉が出なかった。
いつも見ている子供向けの番組では、絶対に言わないし、さくらだからこそ言う大人の言葉だ。
『そう、だね』
さくらもいまだに慣れず前回のデートを思い出し、頬が熱くなってしまう。
テレビ越しの正義と、実際の正義は少し違う。
決してテレビ越しの正義は作り物というわけではなく、正義曰く、ストレスが溜まると性格が悪くなるのだそうだ。
本人は反省しているらしいのだが、無自覚に出るその性格をさくらはどこか嫌いになれないでいて、翻弄されていた。
(また出ちゃうのかな。意地悪な正義)
トクンと胸を鳴らせながらも、下肢がジンと疼いた。
前回のデートがまざまざと思い出されて、頬も熱くなる。
(期待してるみたいっ!)
『正義。何食べたい?』
『うーん。さくら』
『あ……。そういうんじゃなくて……』
『本気で』
電話越しで囁かれると、もはや逃げ場すらないようでさくらは胸元を抑えて鳴り始めて止まらない心音を聞きながら、必死に笑いでかわした。
『じゃあ、カレーでも作るね』
『カレーかあ。楽しみだな』
『うん』
なんとか会話を逸らせたと思ったものの、正義と当日会う時は確実にストレスフルな状況は間違いないと、会話の端々で実感する。
つまりそれは、さくらが心の隅では期待はするものの、受け入れがたい状況が待っているのだ。
電話を終えて切ると、耳には正義の心地良い声音が残り、体中が熱くなっていた。
(声だけでなんて)
会わないせいだと言い聞かせて、さくらはシャワーを浴びようとバスルームに向かった。
デートと前日。
夏ではあるものの、つばの広い帽子を目深に被り、サングラスをして正義のワンルームマンションに向かった。
都内の外れにあるマンションで、割と広々としている。
最寄り駅のスーパーで食材を買い込むと、マンションまで歩きそして部屋に到着するなり、消されていたクーラーを付けてソファに寝そべった。
「暑かったー!」
まだ帰ってこないことは分かっているので、さくらも好きに出来る。
見慣れた正義の部屋は、黒を基調とした部屋でベッドとソファが置かれている。
CDも棚に整理されておいてあり、その量の多さはほとんど仕事で使われたものだ。
部屋も涼しくなってきたところでカレーを作り始めると、さくらは自然と鼻歌を歌ってしまう。
ようやく会えたことが嬉しいし、テレビ越しに健康確認をしなくても済むのだ。
それに何より、愛されていると実感できることが嬉しい。
(ちょっと、過激かもしれないけど)
トクトクと胸が鳴り始め、前回のデートを思い出して赤面する。
正義との付き合いは六年目だが、一年、二年と最初の頃は優しかった。
しかし、三年を過ぎた辺りから様子が変わり、さくらとのエッチが激しくなったのだ。
激しいというより、正義の要求に羞恥を煽られて仕方がない状態だ。
(仕事忙しいから、仕方がないよね)
カレーを煮込みながら思い出すと、ジンジンと下肢が疼いてしまう。
(期待してるみたい! バカバカ!)
カレーの火を止めてサラダを作り、無心でレタスをちぎるとなんとか忘れられる。
ほっと息を着いてスープも作り始めると、思い出しかけた前回のエッチをなんとか忘れることが出来た。
正義が帰ってきたのは、夜八時を過ぎていた。
さくらは寝ぼけながらぼーっとテレビを見ていて、後ろから抱きしめられるまで気がつかなかった。
「眠いのか?」
「おかえりなさい!」
ぎゅっと抱きしめられてしまうと、さくらの鼓動は跳ね上がる。
耳元で「我慢出来ない」と低音で囁かれてしまうと、すぐに目の前にきてソファに押し倒されてしまう。
「あの! まだご飯が、お風呂がっ!」
「そんなの後だっ! さくら、俺の言う事聞くって言ったろ?」
「そうだけど。それは正義が疲れてるから、私が何か出来るかなと思って」
反論すると、じっとりとした目で睨まれる。
テレビ画面で見るような優しい笑顔じゃない、大人で、凄味のある顔だ。
(疲れてるからって、こういうの反対!)
「今日も疲れてる。さくらの自由を奪いたい」
「あ……の」
言葉を失った隙に、しゅるっとネクタイがほどかれてさくらの腕に巻かれた。
そして身動きしにくい状態のまま、キスをされてしまう。
「……んっ」
口内を舐る舌先は、荒々しく、絡めとられたり舐られたりする。
息をするたびに強引にキスへと戻されて、次第にさくらも朦朧としてしまう。
「……はぁ……やぁ……正義、私、こういうの……だめ」
キスだけでも蕩けそうになると素直には言えず、トロトロと溢れだす蜜を感じながら、うっとりと正義を見つめる。
前回辺りから、正義のエッチが普通じゃなくなってきたのだ。
こうして拘束したり、おもちゃを使ってみたり、まるでいたぶるかのように強引なエッチなのだが、さくらはそんな正義に、浮かされていた。
(こんな風にされて、もっと好きになるなんて)
「だめじゃないだろ? 気持ちいいって素直に言ってみろ。じゃないと、続きはしない。それとも、さくらはひとりでも満足できる方法があるのか?」
さくらは潤んだ瞳で首を振った。
「お願い。好きにして。気持ちイイから、お願い」
恥ずかしさでどうにかなりそうなのに、さくらは懇願せずにはいられなかった。
テレビの向こうの正義。
実際の正義。
そして、熱意でいっぱいの正義。
それぞれの正義のギャップを楽しんでいるかもしれないし、こうして他の女性は見ることがない正義を見れると思うと優越感で満ちる。
キスの代わりに強引にシャツを脱がされると、その獰猛さにさくらは胸を鳴らせた。
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