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第20話

 ***  一年後。  さくらは念願の妊娠をしていて、近くのクリニックで受診していた。  勿論、堂々とだ。  小和田の件は、その後に正義がプロデューサーに話をつけ、テレビ局が懇意にしている弁護士を紹介してくれた。  勿論、それは内密に行われ、小和田にも全てのことを口外しないことが大前提として話が進んだ。  小和田がどこで正義とさくらの接点を見つけたのか。  さくらの予想通り、互いのプロフィールから同じ音大だと知って、知人を伝手に同窓生に聞きまわったらしい。  しかも、自分も音大卒だと偽って。  そこで、さくらと正義が付き合っていることを知り、マンションの場所までも突き止めたのだ。  その執念が凄く、子供のママだからと言っていた正義も顔を引きつらせていた。  そこで、弁護士を立て、解決を試みた。  正義やさくらには近づかないこと。  それが最低条件だ。  小和田はさくらが憎いと思っていたところもあり、ピアノ教室に辞めるように進言していたらしい。  正義の一件でさくらがピアノ教室を辞めることになったのも、一番乗りでその話を切り出して、周りも同調してしまい、社長たちは受け入れたそうだ。  さくらの教え方が悪いと裏ではかなり吹聴していたらしく、それを知ったさくらは、頭がくらりとした。  正義が正々堂々と言い出せばいいのだが、それでは恨みが大きくなると、弁護士が盾になったが、小和田も弁護士を立てたので、思ったよりも長引いた。  ネットへの正義の悪口もかなり書いたとの報告が弁護士からあり、正義も唖然としていた。  結局、やっていたことが全て明るみに出ると、小和田に勝ち目はなかった。  そして、正義は歴代初の、結婚をしているお兄さん、もしくはおじさん、として認められたのだ。  なぜおじさんかといえば、お兄さんではないのではと、スタッフが人形に言わせたのがきっかだ。  そして、次に待つのは、子持ちのお兄さん、というわけだ。  待合室でウキウキしながら、本を読んでいると正義からLINEが届く。 『俺が行かなくて良かったか?』     『平気平気』 『でもさ。普通行くだろ?』 『正義は、普通とはちょっと違うし、今目の前にいる仕事に全力になって』 『そうだけど。ごめん。こんな時にコンサートなんて』 『私、そういうことも含めて、正義を好きだから』  さくらは高揚した気分からか、そんなことを伝えられた。  本当は寂しいし不安だ。  でも、子供が欲しいと思ってから、実際に授かるまでには時間がかかった。  それに、正義を好きなママだっているのは変わらない。  結局、自分達の結婚が許されているかは分からないが、子供が欲しいと思うことを悪く思わないでほしかった。  なにより、正義は子供好きなのだから。 『そろそろ、仕事に戻る。じゃあ、何かあったら電話しろよ』 『頑張って』  なぜか幸せに満ちていて、不安もあるのに心が落ち着いていた。  正義との子供なら、迷わずに音楽をさせたい。  不意にまたLINEが入る。  正義だ。 『名前辞典買って帰るから。それから、肌着とかオムツとか、ベビーカーとか、ベッドとか、色々買いに行こうな』 (正義、まだ早いよ)  しかし、さくらはにやけてしまい止まらない。  ありがとう、と返事を送ると気が早いと思いつつ、待合室にある雑誌を読みながら、欲しいものを考えた。  更に五年。  正義とさくらは三人の子供を持ち、しかも、正義は現役のうたのお兄さんとして歌い続けていた。  テレビを付けると、さくらの子供が飛びつく。 「パパがいる!」 『おはよう! 今日も元気かな?』 「はーい!」  長男と長女は手を上げ、まだ分からない次男はぽやんと見つめている。 その光景をみながら、さくらは胸がいっぱいになってテレビの向こうの正義を見つめた。 優しい笑みと歌声は、出会った頃と変わらない。 「パパ。今日も元気だね」  さくらの満ち足りた様子を察してか、子供達は嬉しそうに頷いてから、正義とテレビ越しに歌い始めた。
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