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第18話
さくらは気分転換でもしようとスーパーに買い物に行こうとした。
あれ以来、帽子にサングラス、とまるで芸能人並みに顔を隠すようになった。
さくらの顔はバレていないが、念には念をだ。
マンションから出た瞬間、不意に通りかかった女性を見て思わずエントランスホールに引き返す。
(小和田さん? どうして、こんなところに)
茉莉はピアノ教室に近い所に住んでいて、見知らぬ地域の住宅街を歩くなどおかしい。
きょろきょろとしながら、マンションの周りをうろついている。
(まさか。小和田さんが?)
怖くなってしまうと、さくらは部屋に駆け戻って思わず正義に電話していた。
勿論、電話なんて出ないだろうが、もしも出てくれれば話せる。
何回かコールした後、「もしもし?」と柔らかい声音が聞こえてきた。
思わず泣きそうになるが、ぐっと堪えて姿勢を整える。
ソファに座りながら、さくらはぎゅっと手を握った。
「犯人が分かった。私のピアノ教室に通ってたママ」
「な、なんの話?」
「私達の結婚をばらした犯人っ! もうっ! うたのお兄さんに戻れたからって、呑気になってる」
「犯人より、歌を歌う方が平和だろ?」
「そうだけど! でも……。また同じことされそうだから」
「どうして?」
「マンションの前をうろついていたの。そのママは全然違うところに住んでいるの」
「……それって……警察……うーん」
平和主義というか、ママと聞いて、正義が困っているのは分かる。
でも、自分達の平和な性格が脅かされたのは事実だ。
警察じゃないにしろ、訴えるくらいはしないと何度も何度も、事あるごとに情報を世間にばらまくようで、気持ち悪い。
さくらは居ても立っても居られずに、考えて唸る正義に言い放つ。
「きちんとしよう。例えママでも、きちんとダメなことはダメって言わないと」
「でも……いや……。だって、その人にも子供がいるんだろ?」
「そうだけど……。そうだけど……」
さくらは奥歯を噛みしめた。
部屋では俺様だというのに、ママ相手には何もせずにいるなんてありえない。
「私、正義との子供が欲しい。でも、そのことをまた騒がれたら、嫌だから」
「……うん。分かった。でも、あまり大事にならないようにするために、ちょっと相談してみるよ」
「え……?」
「こっちにだって事情に詳しい人はいる。いきなり弁護士だなんだってやったら、また大変だから、プロデューサーに相談してみて、何が最善かを考える。それからでもいいかな。もどかしいのは分かるけれど、俺だって子供は欲しいし、さくらを守りたいから」
胸が温かくなる。
愛されている、そんな気持ちが広がるとその日のうちにでも正義に抱きしめられたいと思うほどだ。
「仕事、頑張って。じゃあ、任せるね」
「きちんとするから。じゃあ、帰りはいつもぐらいだから」
そうして電話が切れると、さくらはほっと息を吐いた。
小和田が熱心なファンだとは分かっていた。
でも、どうして分かったのかも分からない。
強いていえば、音大が同じ。
それを知って嗅ぎまわっていたのなら、物凄い執念だ。
ぶるりと震えてしまうと、さくらは階下にまだいるだろう小和田と鉢合わせしないように、部屋に籠ることになってしまった。
気を紛らわす為にDⅤDを見るが、どこかうわの空だった。
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