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第15話

 ***  子供達との収録の中、スタッフがいつもとは違う、慌てているような動きになり、正義はなんだろうと視線を動かした。  あまり気を散らすと、子供まで気がそがれてしまう為に笑みを作ったままだ。  収録が終わるなり、プロデューサーから手招きされてドキリとする。  自分の何かが悪かったろうかと思い返すが、失敗はなかったように思う。 「正義さん。外に記者がいるんだ」 「記者? どうして?」 「君、隠れて恋愛か何かしただろう? 噂じゃ、結婚したって嗅ぎまわってるらしいけど」 「あ……の」  事実を言い当てられて、固まってしまった。  何でも言い合える関係を作りあげるのに、今まで苦労したし、我慢もした。  でも、その代りに犠牲にしたのが自分の恋愛や私生活だと思っている。  勿論、代えがたいものを子供から与えてもらっているし、満足いく仕事をさせてもらえている。  けれどさくらと出会い、そしてこっそりと付き合ううちに、自分も人並みの家庭を築きたいと思うようになったのだ。  いつかは……とは思った。  けれど、さくらが待っててくれるか分からないし、自分に価値があるのは今だけかもしれない。  もしかしたら、さくらだって『うたのお兄さん』としての正義を好きなのかもしれない。  そんなことを思うと、日常で振舞う姿は優しさよりも自分のわがままを通したかった。  嫌われるかもしれないとも思ったが、さくらがもしも嫌うなら、きっと恋愛は無理なんだろうと思った。  テレビでの印象と、日常が違う。  でも、俺はいつだって優しいわけじゃない。 「お付き合いしている人がいました。今は、結婚して一緒に住んでいます」  勢いに任せて言っていた。  勿論、仕事において自分がしたことは裏切りだろう。   でも、プロデューサーが言ったことは違った。 「それは構わない。が、イメージがある。私達が正義くんを理解していても、世間のママや子供達は、それを受け入れられるだろうか」 「そう……ですが」 「どうする? 週刊誌の記者に全てを正直に話すかい?」  プロデューサーの目は真剣だった。  でも、正直なところ週刊誌の記者に話しても解決するとは思えない。  かといって、うたのお兄さんが記者会見を開くなど、あり得ない。 「自分の言葉で説明出来ないでしょうか」 「それは……。まあ、出来ないことはないだろうけれど。そもそも、信じてくれるか分からないだろ?」 「でも、自分のしたことが間違っているなんて思いたくはありません。確かに、仕事をする人間としては間違ってしまったかもしれないけれど」  俺は項垂れた。  昨夜、貪るようにさくらを求め、子供が欲しいとまで言ったのに、今はプロデューサー相手に言葉が上手く出てこない。  本当は、子供も欲しいとすら思っている、そこまで言いたい。
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