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第13話
深く抱き合ってから数日後。
いつもとは違う体のだるさにさくらはハッとした。
(まさか、本当にできちゃった?)
たった一回でと思うものの、戸惑いと嬉しさが入り混じる思いになる。
が、早とちりはいけないと、ピアノ教室に向かった。
正義はその日は朝早くから収録があり、先に部屋を出たようだった。
物陰で、何かが光ったような、そうでないような、不思議な感じがした。
思わずそちらを見るも、誰もいない生垣があるだけだ。
「何かな。寝不足?」
目を擦って確かめてみるが、誰もいない。
勘違いかと歩き出すと、対面から見知らぬ人が歩いてきて会釈される。
(ん? 今の人って知り合いだっけ?)
マンションには知り合いらしい人もいないし、正義の事を考えて引っ越しは身うちだけで行った。
会釈をされるような人など、いないのだが。
首を捻って歩いていると、次の瞬間、さくらの周りには見知らぬ人で囲まれる。
「谷崎さくらさん。歌のお兄さんと結婚されているのは本当ですか?」
「え?」
唐突に言われて、さくらは何も言えない。
すると畳み掛けるように女性は言う。
「品の良い雰囲気ですが、そこが正義さんをも惹き付けたのでしょうか?」
「あの……」
逃げるように走りたいのだが、目の前にはカメラマンがいて、おどおどするさくらの写真を撮りまくっている。
「私、仕事がありますのでっ!」
必死に振り払うようにして逃げるものの、さくらは混乱状態だった。
極秘結婚、そして、今は子作りまでしている。
そんなことがバレたら、正義がうたのお兄さんとしてやっていられないだろう。
なんとしても、自分は関係ないと言い続けていないといけない。
必死にピアノ教室に向かうと、なんと教室にはさっきの記者たちの仲間とおぼしき人間が張り込んでいる。
怖くなって逃げるようにマンションに向かうと、まだ先程の記者やカメラマンがいる。
どこかへ逃げなくてはいけないと必死に考えるが、正義との結婚は極秘だった。
両親こそ知っているが、バレたと知れたら両親にも迷惑がかかりそうだ。
(でも……行くところがない)
困って泣きたくなり、逃げるように実家に向かった。
そしてその電車の中で、正義にLINEを送る。
『週刊誌の記者が来た』
その言葉を送るべきかも悩んだが、あのマンションに帰れば正義だって矢面に立たされる。
今までの清潔なイメージから一転して、勝手に極秘に結婚してしまうような人、というどこか悪いイメージになってしまう。
正義との結婚をするにあたり、誰からも祝福されるとは思わない。
ファンもいるし、まさよしお兄さんを好きな子もいる。
きっと、好きな人を取られてしまう気分だろうし、嘘を付かれた気分だろう。
でも、こうして追いかけまわされるなんて、あんまりだ。
(正義は仕事に一生懸命だし、当たり前の幸せを望んでいるだけなのに)
苦しくなって泣き出してしまいそうで、電車の中ではハンカチを目がしらに当てる事が多かった。
実家に到着すると、逃げ込むように家に入った。
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