12 / 20

第12話

     「さくら……嫌なら……我慢するから……」 「嫌じゃない……正義を好き……好き……だけど」  不安になったのは、正義が『まさよしお兄さん』としていられなくなるのでは、ということだ。  人気があるだけに、本当にこんなことをしていいのか分からない。 「さくら……俺……本当に、欲しいんだ。さくらの子が」 「……」  さくらは答えが出なかった。  その間にも、きゅっと膣は絞まり正義は苦し気に呻く。  けれどさくらはいきなり現実に引き戻されたようで、正義の手を握るだけが精一杯だった。  いつもなら、快楽の坩堝に飲まれるように気持ち良くなるのに、どこか冷静になってしまったせいか、熱もじわじわと冷めてきている。 「ごめ……ん。俺、本気で……」 「私も、正義のこと好き」  思わず言った時だった。  さくらの腹の中で熱が爆ぜたのは。 「あっ……んっ……んっ……んっ……」  とめどなく溢れ出る白い白濁は、下肢を伝いスカートを汚す程だ。  今だに腹の中では精を放ち続け、脈打つような感覚がある。 「さくら……」  申し訳なさそうに名前を呼ばれて、さくらはハッとした。  好きな人から愛されたというのに、いざその時になったら、考えていたのは正義の仕事のことばかりだ。  正義の言う通り、さくらだって子供は欲しい。  正義と自分の子供なら、どんな子になるか凄く気になる。 (……なんで素直に嬉しいって思えないの)  不意にピアノ教室のママや子供を思い出す。 (そうか、私の傍には『まさよしお兄さん』を好きな人が沢山いるからだ)  不意に、頬に冷たいものが伝った。  何だろうと、拭うと涙を流していた。 「やだ、嬉しくて泣いちゃったみたい」  さくらは正義にそう言い繕うが、正義は釈然としないという表情でさくらを見下ろす。 「嫌だったのか」 「違うの。嬉しいの。本当に……。子供が出来るといいなって、私も思うから」 「泣く程嬉しいなんてあるか……ごめん」 「違うの。本当に……。ただ、まさよしお兄さんのことを好きな人を裏切るのは辛いなって思って」  さくらが思わず口走ってしまうと、正義も顔色が変わる。  さくらの衣服を整えながらそっと抱き起してくれるが、無言のままだ。  何も考えてない、そんな筈はないと思うが……。  ふたりで廊下で向かい合って座ると、正義はぽつりとつぶやく。 「子供がいても、結婚していようと、俺は仕事を続けたい」 「でも、そんなことは出来ないでしょ?」 「おじさんって言われても、俺は歌うって決めてるから」 「そうかもしれないけど……」  さくらは戸惑いつつ、そっと正義を抱きしめていた。    
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!