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第9話
三日後。
正義が帰ってきたのは夕方で、さくらは夕飯を作りながら待っていた。
勿論、その日まで憂鬱で、茉莉の言葉や熱意が忘れられずに、何度も正義に電話をしたいと思った。
が、付き合っている人がいることがバレてもいけないし、ましてや結婚までしていることがバレでもしたらいけないと、必死で堪えた。
さくらは日に日に暗い想いになり、正義が帰ってくるのを心待ちにするほどだった。
「ただいま」
「おかえり!」
さくらは玄関まで駆け足で出迎えると、正義は驚いた顔をする。
「え……なんか、あったのか? 凄い嬉しそうだけど」
「ううん」
さくらは努めて平静を装った。
今にでも抱きしめてもらいたいし、好きだと浴びるほどに言って欲しい。
でも、なぜかその欲望にブレーキがかかるのだ。
(小和田さんは、告白すら出来ないのに)
「ああ、疲れた。さくら……」
不意に近づいてきて抱き寄せられると、さくらの心臓は鳴り始めた。
いつも以上に正義を意識し、そして、独占したい気持ちでいっぱいだった。
でも、小和田さんの熱意を思うと、それ以上へ進んでいいのか分からない。
不意に顎を持ち上げられて口づけられるが、さくらは困惑気味に受け入れる。
舌先が割り入ると、マンションの狭い廊下に押し倒されてしまう。
「待って……。こんなところで。ご飯も、お風呂もまだだし」
「ずっと仕事で疲れてる。さくらがいなかったし」
「そう……かもしれないけど。大好きな子どもがいたでしょ?」
「それとこれは別だ。さくら、何かあったか?」
「……」
茉莉の事は到底言えなかった。
熱烈なファンがいる、その程度なら言えたかもしれないが、今は正義がどう反応するのか怖い。
自分以外の女性から好意を持たれ、コンサートでは熱い視線を集めていることを、正義は分かっていないとも思えない。
「あの……コンサートのこと……聞かせて?」
「さくらをここで抱いてから」
言うなり、またキスをされてしまう。
久しぶりのキスに、さくらは蕩けるような気持ちになってしまい、快楽に身をゆだねて受け入れてしまう。
「あ……ふっ……あ……」
口腔に舌先が入ると、丁寧に舐られる。
さくらも舌を絡ませてしまうと、互いに唾液が絡む程に濃密なキスに変わる。
さくらの体を抑え込むような恰好で、丁寧に歯列までなぞるようなキスをされると、たまらずにさくらは甘い吐息をもらした。
下肢はジンジンと疼き、さくらは自ら強請るように上目で正義を見つめていた。
「ここで続きをして?」
(正義を煽って、私バカみたいだわ)
「寂しかったか」
「うん」
さくらは切なく胸を疼かせた。
正義のいない三日間で、独占欲で満ちたなどと言える筈もない。
ましてや、そのきっかけが『まさよしお兄さん』のファンなんて。
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