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第一話 森の巫女

 その村は、北に広がる森に抱かれるようにあった。  深い森は、村にいろんな恵みをもたらし、村民たちの生活を支えていた。  森の中心にある、樹齢500年とも1000年ともいわれる巨木は、守護樹と呼ばれ、村の信仰の対象として、崇められていた。  一年に一度、村の娘がその守護樹の元で、夜を徹して村の平和を祈る神事があり、その娘は『森の巫女』と呼ばれた。  今年もまもなくその神事が執り行われる。  森の巫女に選ばれたのはイルゼだった。 「いよいよ明日の夜だねえ……」  母がぽつりと言った。  イルゼは森の巫女に選ばれた後、身を清めるため、母と共に村の外れの小屋に移り住んでいた。  この半月ほどの間、イルゼが話した相手は、母親と小屋を警備する女性たちだけである。  警備の女性も、村から体格のいいものや猟が上手い頼れる人物が神官によって選ばれていた。  イルゼの身を守るための配慮だった。  とはいっても、平和な村であり、危険なこともない。  イルゼも、外出は禁じられてはいたが、小屋の周りを散策したり、母親と一緒に縫い物をしたり、穏やかに過ごしていた。 「ほら、出来たよ」  母親が縫っていたのは、明日の神事の時にイルゼが身にまとう衣服だった。白い布で作られており、胸の前で合わせになっていて、帯で止めるようになっている。 「お母さん、ありがとう!」  完成した衣をみて、イルゼは目を輝かせた。  村の平和を祈る娘のために、母親が心を込めてこしらえてくれた衣装だった。イルゼには、それはとても美しく目に映った。 「イルゼ。神官様のいうことを聞いて、がんばるんだよ。神事の内容は神官様しか知らないから、お母さんはなにもできないけど……」 「大丈夫よ。そんなに大変なことじゃないみたいだから。守護樹様に素直に祈ればいいって聞いてる」  母親は頷いた。 「神事が終わったら、家に帰れるから、お母さんはそれを楽しみにしてるわ」 「うん。ここも楽しかったけど、畑も心配だもんね」 「さあ、もう寝ましょう。明日に備えないと」  イルゼは、頷いて立ち上がり、寝具の準備を始めた。  緊張しないといえば嘘になる。  でも、今夜はゆっくり休まないと。明日の夜は寝ることはできないと聞かされていた。
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