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Act.2-02

「いいですよ」  ようやく落ち着いてから、私は答えた。 「ちょっとずつ、お互いを知るのは良いことですから。仕事上の椎名課長はよく知ってますけど、プライベートな椎名課長のことは全然知りませんから。椎名課長もそうでしょ?」 「まあ、そうだな。確かに、俺が一番に惚れたのは、お前の仕事に対する真面目で謙虚な姿勢だった」 「その分、プライベートはだらしないから、もしかしたら幻滅されるかもしれませんね」 「それはない」 「どうして言いきれるんですか?」 「俺は半端な気持ちでお前に惚れたわけじゃないからだ」  不器用かと思えば、こっちが赤面してしまうような台詞をサラリと言ってくれる。  でも、真面目だからこそ、ストレートに想いを伝えてくれるのだろうか。 「幻滅されないようにします」  肩を竦めながら言った時だった。  空からチラチラと白いものが落ちてきた。 「とうとう降ったか……」  夜空を仰ぎながら、椎名課長がうんざりとばかりにぼやく。  気持ちは分からなくもない。 「でも、粒はそんなに大きくないですからすぐに溶けますよ」 「でも、どうせまた、どっかりと降ってくれるんだろ……。交通は麻痺するし、ロクなことがない……」 「駄々を捏ねないで下さい……」  つい、窘めてしまった。  そんな私に、椎名課長はなおも、「けどなあ」とブツブツ言い続ける。  やっぱり、精神年齢は私よりもだいぶ幼いと改めて思わされる。 「とにかく、明日は大丈夫ですよ。いえ、たとえ積もったとしても私は約束を守りますから。ですから椎名課長も、ちゃーんと有言実行して下さいよ?」 「もちろんだ。槍が降ったとしても、お前と一緒の時間を過ごしたいからな」 「――槍こそ降りませんよ……」  ついつい真面目に突っ込んでしまった。  椎名課長はまた、「やれやれ」と溜め息を漏らす。  ゆったりと降りてくる儚い小粒の欠片。  生まれたてのそれは、本当にささやかにしか積もらないかもしれない。  けれど、本格的な冬となれば、辺り一面を銀世界に覆うほどになるだろう。  不便とは思うけど、それはそれでちょっと楽しみだ。  冬はまだ、始まったばかり。  私と椎名課長のように―― [始まりは冬の夜から-End]
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