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Act.1-03

「食え」  いきなり言われ、私は中華まん入りの紙袋を手に取ったままで止まってしまった。  ポカンとして椎名課長を凝視すると、課長はなおも、「食えと言っている」とさらに命令してくる。 「はあ……。では遠慮なく……」  私は椎名課長に向けて軽く会釈してから、紙袋から中華まんをひとつ手に取った。  ちょうど中心に捻りを入れたような模様があったから、中身は肉まんかな。  そう思いながら、下に貼り付いていた紙を半分剥がし、齧ってみたら、甘じょっぱい餡の味が口いっぱいに広がった。 「美味いか?」 「はい」 「少しはこれであったまったか?」 「はい」  いちいち確認してくる椎名課長がちょっとおかしい。  肉まんを咀嚼しながらクスクス笑うと、怪訝そうにされてしまった。 「どうして笑う?」 「いえ」  私はなおも笑いながら、続けた。 「椎名課長、何だかお父さんみたいだな、って。『美味いか?』とか、まるでちっちゃい子供に訊いてるみたいで」 「そうか? 親父みたいか……」  椎名課長はひとりごちると、複雑な表情を浮かべた。  もしかしたら、気分を害してしまったのだろうか。 「あの……、失礼なこと、言いました……?」  私は笑いを引っ込めておずおずと訊ねる。  すると、椎名課長は私に向き直り、「いや」と首を横に振った。 「確かに藤森の言う通りだ。ついつい気になって、つまらんことを訊いてしまった」 「別につまらないことでもないですけど」 「けど、当たり前のことを訊かれて呆れたんじゃないか?」 「呆れてもいませんよ。でも、ちょっと可愛いな、とは思いましたけど」  無意識に口にして、私はハッとした。  『可愛い』だなんて、上司に、しかも十以上も離れた男性に使うような形容詞じゃない。  これこそ、失礼極まりない発言だった。  けれど、一度出てしまった言葉を取り消すなんて当然出来ないから、「すいません、つい……」と消え入るような声で謝罪して、椎名課長から視線を逸らした。
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