11 / 28

公爵の帰還-8

「ぁ、なに……」 「優しい俺の婚約者が、拒まないと言ってくれたものでね」 「あっ……!」  まるで魔法のような鮮やかさで、エルキュールは器用にイリスのドレスを脱がせていった。夜会で着るような豪奢なものではないとはいえ、数多のリボンを解かれ上半身を晒されたイリスは、羞恥に顔を背けるしかできない。 「待、って――だって、今はまだ……」  窓を見上げれば、未だ太陽はそこにある。  閨のことは皆が寝静まった後にという、家庭教師からそう聞き及んでいたイリスは驚きに目を丸くした。  だがエルキュールは、それを気にする風もなく片眉をあげるだけだ。 「あえて昼間にというのを、好む人間もいるものだ」 「エルキュール様も、そうなのですか……?」  確かにエルキュールを拒むことはしないと言ったが、まさかこんなに空が明るいうちにとは思いもよらなかった。  心臓が早鐘のように鳴るのを感じながら、イリスはそっと彼の手を掴む。そうしていないと体が震えて、ろくに言葉も紡げなさそうだった。 「さてね……昼間でなければいけないと思ったことはない。けれど君がそんな風に煽るから、つい抑えが効かなくなってしまうんだ」 「ひゃ、ぅっ!」  外気に晒されたイリスの首筋に、生温かい舌先が這う。  たっぷりと唾液をまぶしたそれは首筋から鎖骨へと降り、骨が浮いたその場所を彼の歯が甘噛みした。 「ぁうっ! は……ぁっ」 「あまり痕を残すのも、可哀想だが――」  ちくりとした痛みに眉をひそめると、エルキュールはなだめるようにイリスの頭を撫でてくれる。皮膚が薄い鎖骨の辺りは、彼から与えられる刺激をあまりにも直接的に伝えてきた。  ふるふると小刻みに震えるイリスは、薄く目を開いて彼の名を呼ぼうとした。 「エル、キュ……」  愛しいその名前さえ、うまく発音できない。与えられる刺激はどれも初めてのものばかりで、彼女自身どうしたらよいのかがわからなかった。  だが意図せずに上がる声を我慢しようとすればするほど、エルキュールはそれを阻むように肌を吸ったり、やわく歯を立てたりする。 「あっ、は――ぁんっ!」  痛みとも快楽ともつかぬ刺激を与えられるたび、行為に慣れないイリスの体は魚のように跳ねた。そうするとエルキュールは満足したように、幾度も彼女の頭を撫でるのだ。 「んん……ッ」 「いい子だ、イリス」  甘い声で囁かれると、体の力が抜けてしまう。エルキュールにされるがままのイリスは、荒い呼吸を繰り返していた。  ただソファの上で横になっているだけで、妙な浮遊感が彼女の体を包む。今自分がどこにいて、なにをしているのかが曖昧になってしまうほど、彼の愛撫はイリスの体を蕩けさせてしまう。 「ん……ぁ、はぁっ」  エルキュールによるキスの雨が止まると、イリスはようやく呼吸を整えることを許された。火照る体が呼吸のたびに上下に動くと、エルキュールは満足げに上唇を舐めた。  その様子はまるで、得物を目の前にした肉食獣だ。さしずめイリスは、逃げられなくなった哀れな小動物といったところだろうか。 「安心しろ、イリス。君が本当に俺との婚姻を望むなら、誓願の前に純潔を奪うことはしない」  低い笑い声が、ぼんやりとしたイリスの頭に響く。笑っているはずなのにどこか悲しそうな――そんなエルキュールの様子にうっすらと目を開くと、代わりに彼がきつく目を閉じてしまった。  やがてなにか決意をしたかのように目を開くと、彼はイリスお気に入りのドレスに手を伸ばした。 「ぁ――ッ、エルキュール様、なに、を……」  それまで壊れ物に触れるようだったエルキュールの手が、やや強引な動きでドレスの裾をたくし上げる。隠されていた足が露わになり、イリスは悲鳴を上げた。 「きゃあっ!」  殿方に足を見られるだなんて、恥ずべき事だ。ほとんど上半身を裸にされるよりも、それは強く彼女の羞恥を煽った。  この国のしきたりにのっとり、長いスカートで足を隠していたイリスだったが、エルキュールはそれをまるでなかったことのように彼女の足に触れる。  白い腿に触れる彼の手はやはりとても熱い。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!